
全国の保育園・幼稚園に卓球台を寄贈し続けて246台 元日本代表監督の思い
卓球とSDGs 全国の保育園・幼稚園に卓球台を寄贈し続けて246台 元日本代表監督の思い
2021.08.31 取材・文:槌谷昭人(ラリーズ編集長)
私たちスポーツメディアは、伝えるだけでは足りない時代です。
そのスポーツとファン、そして社会との「接点」を常に未来志向に更新することこそ、私たちの仕事です。
スポーツに、新たな役割が求められていると感じています。
そのスポーツは、未来の社会課題解決の一翼を担えるかどうか。
もちろん、卓球もです。
さて、今回は、全国の保育園・幼稚園に卓球台を寄贈している取り組みについてご紹介します。
元卓球女子日本代表監督で、現日本生命レッドエルフ総監督の村上恭和(むらかみやすかず)さんです。ご存知、ロンドン、リオ五輪と、日本卓球界に五輪メダルをもたらした名将です。
写真:村上恭和監督(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部村上さんは2017年にジュニア・サポート・ジャパンという一般社団法人を設立し、小学生2年生以下(バンビ)のための卓球台を作り、全国の保育園・幼稚園に寄贈を続けています。
写真:村上恭和(日本生命レッドエルフ)/撮影:槌谷昭人このページの目次
- [5 特集・日本生命レッドエルフ第2弾 なぜ日本生命は強いのか?]()
「卓球台、高いんですわ(笑)」
——保育園・幼稚園に卓球台を寄付し続けて、いま246台と伺いました。
「え、なんで知ってるの」
——いろいろ調べました(笑)。なかなかの数だと思って。
「5年で1000台のつもりなんだけど、ま、まだあと一年残ってますから(笑)」
——なぜ、この事業を始めようと思ったんですか
「うーん。ずっと卓球界に携わってきて、幼少期から卓球ができることは当然みんなわかってるじゃないですか」
——はい
「ホープスからバンビまで使う台はあるんですけど、あれ正直、高いんですわ(笑)。みんな買うわけにはいかないんですよ。だったら、バンビに入る前の年齢の子が、もうちょっと低くて安心な台を作ろうと。そこからスタートできたらもっとスムーズに卓球に入れる」
写真:村上恭和(日本生命レッドエルフ)/撮影:槌谷昭人——確かに、小学2年生以下(バンビ)から始めているお子さんは多いですよね
「福原(愛)なんかは畳の上でやってた、今も全国にそういうことがいっぱいあるわけです。子どもが普段から親しめる台を作りたいなと思って、サンエイさんと協力して作りました」
写真:こども卓球台/提供:卓球ジュニアサポートジャパン——でも、販売してないですよね
「本当は売って欲しいんですけど(笑)、でも買ってもらうんじゃ広まらないじゃないですか。だからプレゼントでいい。この事業にはスポンサーもついてもらっているので僕の持ち出しじゃないです」
慈善ではなく、持続可能な事業を構築する。現役引退後、当時ほとんどいなかった“プロの”ママさん卓球のコーチから指導者人生を始めた村上さんの哲学も垣間見える。
写真:卓球台寄贈と講習会の様子/提供:ジュニアサポートジャパン
ピンポンから始めると卓球になるまで大変
もう一つ興味深い話を聞いた。
「保育園の卓球台で言えば、ラケット・ラバーが重要だと思ってます」
——と言うと。
「昔の人が何で弱いかって言ったら、初心者のときラバーを張ってなかったから。全員“ピンポン”からスタートするんです。そこから卓球になるまでが大変なんですよ。だからいま、中国製のラバーをフォアとバックに張ってラケットも弾む中国製のラケットを仕入れて、4本を卓球台と一緒に送ります。そしたらピンポンじゃない、卓球から入れるんです」
卓球の入口をさらに広くするときに、きちんとその先も考える。日本卓球界に初の五輪メダルをもたらした村上さんならではの、強化への気配りだ。
「これは実は、ヨーロッパがずっとやってることです、ヨーロッパはクラブ組織だから。先輩方が古くなったラバーを子どもたちに使わせるわけです。性能いいですよね、初心者から性能のいいラバーで卓球ができる。すると時々、天才が現れる。日本は天才現れなかったんです、ピンポンだったから」
写真:100年に一人の天才と称されたヤン・オベ・ワルドナー(スウェーデン)/提供:ロイター/アフロ## 島に人
——石垣島には、約10%にあたる24台を寄贈していると聞いています。特に経済圏が発達してないところにという思いもあるのでしょうか。
「うーん、自然とそうなったんですね。日本全国には2000か所ぐらい卓球場があります。密集しているところ、自分たちでできるところは、そこでやればいい」
石垣島には手作りの卓球場がある「石垣島には卓球場が2か所あります、でも自分で作ったような手作りの卓球場です。そこにもなかなかお客さん来ないよね、だって卓球に触れたことないんだから。島の幼稚園に卓球台でもあれば始める子も増えないかなって」
——沖縄の別の島、宮古島では卓球が徐々に盛んになっていると聞きます
「これは一人の若者が頑張ったからです。やっぱり人です。いま石垣島は宮良当映(みやら まさあき)という人間がいます。こいつがいれば頑張れるかなって。子供たちは、最初から卓球に興味があるとか、卓球がしたいわけじゃなくて、遊びたいんです。卓球ってのは遊びなんです」
## 努力したらうまくなれる体験を
「みんな卓球選手になってくれっていう信念じゃないんです。それは広がらない。まず、幼稚園で卓球して、ちょっとずつやったらうまくなったと、その体験をみなさんしてください。自分は努力したらうまくなれる、上手になれる、そういうことを知ってほしい。それがその次の人生、何のスポーツでも、勉強でもつながっていく」
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