
サムネイル4枚全ての写真:AP/アフロ
どんなスポーツにも、時代を象徴するスターは存在する。
ただしアメリカのスポーツにおけるスターは、単に上手い選手、数字を残した選手というだけでは終わらない。名前だけが一人歩きし、競技を知らなくても「なんとなく凄い人」として認識される存在。チームの勝敗を超えて、リーグの顔になり、時にはその競技そのものを代表する存在になる。アメリカのスポーツ文化において、スターとはそういうポジションに置かれてきた。
もちろん、圧倒的な競技成績は前提条件だ。
だが、それだけでは足りない。そこには必ず物語がある。不可能を可能にした瞬間、逆境をひっくり返した一夜、時代の空気を変えたワンプレー。そうしたストーリーが積み重なったとき、スターは単なる人気選手を超えた存在へと変わっていく。
例えば、バスケットボールの象徴として語られるマイケル・ジョーダンは、歴代得点ランキングでは5位に過ぎない。それでもなお「神様」として語り継がれているのは、数字では測れない影響力を残したからだ。本記事では、アメリカ4大スポーツを横断しながら、なぜスターが時代を象徴する存在になり得たのか。そして、スターと“アイコン”を分けるものは何だったのかを紐解いていく。
前回記事:
アメリカでは裏切り、日本では円満退社?移籍騒動から見える日米スポーツ文化の決定的な違い - アメリカ4大スポーツ比較 vol.8 -
アメリカ4大スポーツにおける「スーパースター」の影響力とは
アメリカ4大スポーツにおいて、スーパースターは単なる“人気選手”ではない。彼らはリーグの成長戦略そのものに組み込まれた存在であり、競技価値・商業価値・文化的影響力を同時に押し上げる装置として機能してきた。
最もわかりやすいのは、視聴率・放映権・スポンサー価値への影響だ。
NFL、NBA、MLB、NHLはいずれもチーム単位のリーグ設計を基本としながらも、メディア露出やプロモーションの局面では明確にスターを“前面”に押し出している。例えばNBAでは、レブロン・ジェームズやステフィン・カリーが出場する試合と、そうでない試合とでは、テレビ視聴率・SNSエンゲージメント・ハイライト再生数に明確な差が生まれることが、ESPNやSports Business Journalで繰り返し記事になっている。
NFLにおいても同様だ。
本質的には「チームスポーツ」であるにもかかわらず、少し前の時代だがトム・ブレイディ、ペイトン・マニングといったQBは、チームの枠を超え、リーグ全体の“顔”として扱われてきた。スーパーボウルという一大イベントが、個々のスターQBの物語と強く結びついて語られてきたことは、その象徴だろう。
さらに重要なのは、スーパースターが競技の外側にまで影響を及ぼす点である。シューズ、アパレル、CM、映画、ドキュメンタリー。アメリカでは、スター選手がライフスタイルや価値観の象徴として消費される文化が根付いている。バスケの話に戻るが、マイケル・ジョーダンの「Air Jordan」が、単なるバスケットボールシューズではなく、ストリートカルチャーやファッション、さらには“成功の物語”と結びついたブランドへと昇華した事例は、その最たるものだ。こうした構造の中で、アメリカのスポーツリーグは「チーム×スター」「競技×物語」「成績×カルチャー」を意図的に結びつけ、リーグ全体の価値を拡張してきた。
スーパースターとは、偶然生まれる存在ではない。リーグ、メディア、スポンサー、ファン──その全てが関与するエコシステムの中で、「時代が必要とした存在」として立ち上がってくるものなのだ。
The decision of all decisions. October 7th. 12pm EST. 🫡👑 #TheSecondDecision pic.twitter.com/1uop8sIU25
— LeBron James (@KingJames) October 6, 2025
『THE DICISION II』として発表したレブロンの告知投稿。結局は「Hennessy」というブランデーの広告。これがまもなく1億PVを稼ぐ
【競技別】歴代スター像の変遷:受け継がれる「神」の系譜
NFL:ジョー・モンタナからトム・ブレイディへ
1979年のNFLドラフトの3巡目82位で指名されたジョー・モンタナ。この順位で指名されるということは、すなわち「期待ゼロ」で獲得したと言っても過言ではない。ノートルダム大学時代にある程度のインパクトを残してはいたものの、肩が弱く身長もない(188cm)と言われていたからだ。とはいえミスが少なく短いパスを繋いで確実にオフェンスを機能させられるモンタナの才能を見抜いたHCが彼を中心とした戦術を作り始め、一気に才能は開花する。「モンタナ・マジック」と呼ばれた数々の逆転劇を始め、スーパーボウルに4回出場し4回優勝で負けなし。その4回全てで1度もインターセプトをされないという、あまりにも人間離れした記録を樹立した。また、当時は当然携帯電話もSNSもなかったため、モンタナのインタビューは非常に少なく私生活が見えにくかったこと、また彼自身もクールな人間で感情をほとんど表に出さないことから「負けない・わからない」存在=神として、完全に世間から「あの人は特別であり別次元の存在」と思われた。後述するが、やはり19世紀を彩ってきた各スポーツのヒーローたちは、このように神格化されるケースが非常に多い。
モンタナの次に時代を作ったのは、間違いなくトム・ブレイディだろう。ブレイディはモンタナよりもさらに低い、6巡目の全体199位という順位で入った。また、ブレイディはモンタナの大ファンであり、モンタナのようになりたいとQBというポジションで努力を重ねる。モンタナに憧れただけあって、ブレイディも派手なプレー以上に短いパスをコツコツ繋ぐスタイルだった。一方、モンタナと大きく違ったのは”人間味”である。ブレイディは負けた試合や負けそうな試合はわかりやすく表情が暗くなるし、勝った試合は真逆で太陽のように明るい笑顔を振りまいた。また、彼はキャリアの中で10回スーパーボウルに出場しているが優勝は7回。3回負けている。そして最後の優勝は2020年だが、彼が43歳の時でNFLの最年長記録として今もブレイディが記録を持つ。
このように、勝った・負けたで一喜一憂したり、スーパーボウルで負けたりしたこと、またSNS時代で拡散されやすかったことが多くのファンの胸を掴んで離さなかった。モンタナを神とするならば、ブレイディはとても人間らしかった。キャリア晩年は老いと戦う姿もフィーチャーされるなど、神になっていく過程がずっと可視化されていたからこそ、より多くの人を惹きつけたのだろう。
NBA:マイケル・ジョーダンからレブロン・ジェームズへ
NFLのモンタナとブレイディはドラフトで下位指名にも関わらず、最終的に評価を180度変えた存在であるが、NBAの場合はそうではない。ジョーダンもレブロンも1巡目指名であり、ジョーダンは1巡目全体3位、レブロンは1巡目1位指名である。ただ、「憧れ」という部分は同じだろう。ジョーダンが着用していた「23番」をレブロンも着用している。一時期レブロンは自分のアイデンティティを作ろうと「6番」を着用していた時期もあり、アメリカ代表では「6番」をつけていた。ちなみにジョーダンは「9番」である。
ジョーダンとモンタナはしばしば同じ”神”として扱われることが多い。これはジョーダンも6回NBA FINALに出場してファイナルで負けていないこと、伝説的な逆転劇が何度もあること、38度を超える高熱でもプレーを続けたことなど、言葉通り”人間離れ”した選手だったからである。
一方のレブロンは、高校から「選ばれし者(Chosen One)」として可視化され、また最初から「絶対にジョーダンには敵わない」と”神”として扱われることを許されなかった。だからレブロンは”王様(KING)”とも称された。また、レブロンの場合はドラフトされたクリーブランドを一度も優勝に導けずに(当然その時はGMにも批判が浴びせられた)離れるという、ファンからすれば裏切り行為をしたことから、常にキャリアの中でも彼が選ぶ道が注目されおり、それは今も変わらない。ジョーダンを超えて歴代最多得点を記録している今でこそ、レブロンが”神”として扱われることはないが、これはNBAが”神”を作らない時代に入ったからとも捉えられる。
MLB:ベーブ・ルースから大谷翔平へ
MLBの中でもレジェンダリーな存在として未だに語り継がれるのが、1920年代のスーパースターであるベーブ・ルースであろう。その時代にようやく「ホームラン」という概念が生まれるわけだが、ルースは「投手が打者になる」という当時の常識では考えられないことを実行し、圧倒的な町田力で神格化された存在だった。自由奔放なキャラクターでも人気だった。
一方で、大谷翔平はそうは行かなかった。そもそも日本人であり、投手と野手の二刀流というあまりにも不可能と考えられた存在であった。「アメリカ人でもない日本人が、MLBで二刀流なんて笑わせてくれる」という評価も非常に多かった。だから大谷の場合は最初から期待されていない、逆境にいたわけである。それでも大谷は実力を証明し、信じていなかったファンを信じさせた。不可能と言われた二刀流をいとも簡単にやってのけ、データ上でもその存在感を放った。大谷の存在は、MLBにとってアメリカでしかスターは生まれないと考えられていた常識を大きく変え、世界に目をむけるキッカケになったと言っても過言ではない。よくも悪くもベーブ・ルースはアメリカ国内に競技を閉じた存在であり、大谷翔平はアメリカ国外に競技を広げた存在と言えるだろう。
NHL:ウェイン・グレツキーからコナー・マクダヴィッドへ
そもそもNHLはこれまでの記事でも紹介してきた通り、他3つのアメリカを代表するリーグに比べると、グローバル展開を急いでおらず、あくまで地元のアイスホッケーファンに対してより満足度を高めていく方針の方が強い。だから世界的に有名な選手と言われても、日本に住んでいる方の多くはあまりその存在を知らない。よって”神”を作りにくい構造とも言える。当然ながらアイスホッケーを知っている人にとって”神”と呼ばれる選手はいるが、モンタナやジョーダン、ルースなど競技を知らない人でも名前くらいは聞いたことのある存在はいないと考えられている。
その中でも、1980-90年代に活躍したウェイン・グレツキーは”神”としてアイスホッケー界では語り継がれている存在である。自分が得点できなくてもアシストでチームを勝たせられる存在であり、通算得点・アシストのほぼ全ての項目で歴代1位を記録している。ゴールを1本も決めていないがアシストだけで歴代最多得点を記録できるのではないか、という逸話すらある。さらにNHLの場合、当時戦術分析は属人的とも言われていて、映像も限定的でファンも「なぜ凄いか」を知らないまま、結果だけでそれらを評価していたために、”神”として認定されている。
一方、近年の超がつくスーパースターのコナー・マクダヴィッドは、NHLという神格化が難しい構造のリーグの中でも可視化された天才としてなを馳せている。何よりも、とにかくスピードがあってわかりやすい。NHL史上最速とも言われるスピードでファンを魅了し得点を量産する。SNS時代の現代では、彼のハイライトは非常に取り上げやすく、アイスホッケーを見たことのない人でも「はやっ」と思うものが多い。だから説明不要でこの人は異次元である、とわかる存在とも言えるだろう。そういった意味合いでは、常に観測され、常に評価され、常に更新され続ける存在=スーパースターという、非常にわかりやすく現代的な評価はアメリカ4大スポーツにおいても共有項目であるが、最も象徴的なものはNHLと言っても良い。極端な言い方だが、閉ざされたリーグの中で注目度が高い存在だからこそ、最も”神”と評価しやすいと言えるからだ。
『Fastest Skater』とも称される現代アイスホッケーのスーパースター:エドモントン・オイラーズの#97 コナー・マクダヴィッド
アメリカ4大スポーツにおける「ヒーロー像」の変遷
| 観点 | 過去(〜1990s) | 現在(SNS時代) | 未来(予測) |
| 成立の核 | 勝利と記録 | 勝利+物語 | 価値観の体現 |
| 神秘性 | 高い(距離がある) | 低い(常時可視) | 意図的に設計される |
| 物語の語り手 | メディア | 選手+SNS | 選手+コミュニティ |
| 国境 | 国内中心 | グローバル拡張 | 最初から越境 |
| ヒーローの役割 | 象徴(神) | ロールモデル | 意見を持つ存在 |
SNS時代の変容:神秘性の崩壊と「新たなヒーロー像」の再構築
SNSの普及は、スポーツにおける「神」の在り方を決定的に変えた。かつてスター選手は、メディアを通じてのみ語られる存在だった。試合映像、限られたインタビュー、断片的なエピソード。その不完全な情報こそが、想像力を刺激し、神秘性を生んでいた。
しかし現在、スター選手は自ら語る。
日常を発信し、感情を共有し、時には弱さや失敗も可視化される。これはスターが「身近になった」というよりも、神秘性が構造的に成立しなくなったと言った方が正確だろう。重要なのは、ここで「スターが小さくなった」「神はいなくなった」と結論づけるのは早いということだ。実際には、ヒーロー像そのものが再定義されている。
かつてのヒーローは「語られない存在」だった。
今のヒーローは「語り続ける存在」だ。
勝利や記録だけでは足りない。そこに至るプロセス、選択の理由、価値観への言及、社会との接点。SNS時代において評価されるのは、競技能力そのものよりも一貫したスタンスを持っているかどうかである。NBAで言えば、レブロン・ジェームズはこの変化を最も象徴する存在だろう。彼は神秘的ではない。むしろ意図的に語り、意図的に可視化されてきた。それでもヒーローであり続けているのは、「勝つこと」だけでなく「どう生きるか」を同時に提示し続けてきたからだ。
一方で、NHLのように今なお神秘性を前提にしないリーグも存在する。そこでは、スターは神話にならない。圧倒的な才能を持つ選手でさえ、あくまで構造の一部として消費される。これは遅れているのではなく、むしろSNS時代の到達点を先取りしていたとも言える。
SNS時代において、ヒーローとは「遠い存在」ではない。
だが同時に、「誰でもなれる存在」でもない。
一貫した物語を生き続けられるか。競技の外でも意味を持ち続けられるか。そして、過剰に可視化された世界の中で、それでもなお人を惹きつけられるか。神秘性が崩壊した時代に残るのは、偶像ではなく思想だろう。スターは消えたのではない。形を変えて、より厳しい条件のもとで選別される存在になっただけなのである。
これまでどのプロスポーツでも、なかなか時代を象徴するようなスターが生まれなかった暗黒期を経験しているが、今、様々なスターが量産されわかりやすく多くの選手にフォーカスされる中で、ひとつ抜きん出る存在はどのリーグから出るのか。今後も注目して見ていきたい。
【参考】
https://www.espn.com.au/nba/story/_/page/nbarank22932314/nbarank-game-changers-25-most-influential-basketball-players-ever
https://www.nbcsports.com/nfl/profootballtalk/rumor-mill/news/patrick-mahomes-is-named-one-of-the-time-100-most-influential-people-of-2023
https://apnews.com/article/shohei-ohtani-ap-male-athlete-of-year-b337a5fa88b75daa3349174022c91cf1
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