
突然感覚的な話で恐縮だが、アメリカ4大スポーツに限らず、あらゆるプロスポーツは常に「新規ファン」を獲得し続けたいと考えている。その中でも特に重要視されるのが若年層だ。スポンサーの立場から見ても、「Z世代を中心に若い世代で盛り上がっているスポーツ」であること、そしてそれを数字で証明できることは、スポーツビジネスにおいて極めて大きなアドバンテージとなる。だからこそ現在、各リーグはZ世代を意識したプロモーションやファン戦略に力を注いでいる。
ちなみにZ世代とは、おおよそ2000年前後に生まれ、スマホやSNSとともに育ったデジタルネイティブ世代を指す。余談だが、なぜ「Z」と呼ばれるのかといえば、英語圏で世代をアルファベット順に分類してきた流れに由来する。1980年代生まれがX世代(未知数の「X」)、1990年代生まれがY世代(ミレニアル世代)、そして2000年代生まれがZ世代という具合だ。
では、Z世代はどんなスポーツを「人気」だと感じ、どのようなプロスポーツに惹かれているのか。若年層の価値観は、アメリカ4大スポーツにどのような変化と化学反応をもたらしているのか。本稿では「Z世代に人気なスポーツ」を軸に、NFL、NBA、MLB、NHLを徹底比較していく。
なお、関連記事であるvol.2は「SNS時代におけるリーグのファンダム形成と戦略の比較」をテーマとし、リーグ戦略の成功/失敗をSNS適応性の観点から論じた。一方、vol.6である本稿は、「Z世代」という特定世代の視点から、どのスポーツが支持され、なぜ支持されているのかを、競技の魅力や価値基準というより広い文脈で比較する。Z世代のファン行動と価値観そのものを主題に据えた点が、本稿の最大の特徴である。
Z世代のスポーツファン傾向
まず前提として、Z世代は短尺動画・SNSを中心とした観戦を好む傾向が強い。実際、他競技ではあるが「世界陸上」において、44%が切り抜き動画で観戦し、ライブ配信での視聴はわずか17%だったという調査結果がある(※1)。
また、日本の大学生が好きなスポーツについても、1位が野球(33%)、2位がバレーボール(26%)、3位がサッカー(25%)、4位がバスケットボール(16%)という調査(※2)があり、同調査では「つまらない」と感じる瞬間として「ルールが複雑でわからない時」「試合展開に変化がない時」が挙げられている。つまり、Z世代を中心とする若年層には「ルールがわかりやすく、見ていて飽きない試合」を展開できるスポーツが好まれる傾向があると言える。
【Z世代のホンネ調査】大学生が最も好きなスポーツ、1位は野球、2位はバレーボール、3位はサッカー。 https://t.co/JKw6hPcwlb pic.twitter.com/20oWlqfXuI
— PR TIMES広告・マーケティング (@PRTIMES_MKTG) February 1, 2025
しかし、世界に目を向けるとまた少し違った側面も見えてくる。グローバル市場で消費者行動を分析し続けるNielsen(※3)によれば、Z世代の関心が最も高い競技は「バレーボール」であり、さらに卓球も上位にランクインしている。これは、先ほど挙げた「つまらないと感じる瞬間」の裏返しとも言える要素を多く備えた競技が、世界的に支持を集めていることを示している。
このように、Z世代はデジタル上でのスポーツ観戦を中心に楽しむ一方で、スポーツとの関わり方そのものにも変化が生まれている。中でも特徴的なのが、「推し選手を見つけて応援すること」を重視する層の増加だ。チームの勝敗はもちろん重要であるが、それ以上に、自分の推し選手の「映える瞬間」やストーリー性に価値を見出す新しいファン観が形成されつつある。
さらに言えば、Z世代はスポーツを他のカルチャーと融合した「単なる試合観戦を超えた文化体験」として捉えている人も多い。各チームに存在するマスコットキャラクターや、グッズの拡充、イベント出演の機会創出など、競技以外の側面でも気軽に触れ合える設計が重要視されているのだ。
さて、話をアメリカ4大スポーツに移そう。結論から言えば、アメリカのZ世代ではNFLとNBAを好むファンが非常に多いという調査結果がある(※4)。Z世代男性の支持率はNFLが57%、NBAが54%と高水準である一方、MLBやNHLはこの2競技に比べてファンが少ない結果となった。次章では、これらのデータをもとに、各リーグのZ世代人気の構造を詳しく見ていく。
【国内4月7日発売予定】MATIN KIM × ASICS GEL-SONOMA 15-50 3COLORS
⇒https://t.co/KNiUBRwLqk#sneakerwars #スニーカー #アシックス pic.twitter.com/FAicbekuhE— スニーカーウォーズ / SNEAKERWARS (@sneaker_wars) April 6, 2023
アシックスが大人気の韓国ガールズグループ”NewJeans”、”NMIXX”のメンバーたちの間で人気の韓国ストリートブランド「Matin Kim」とコラボ。韓国でも”Z世代向けブランド”が進む
アメリカ4大スポーツにおけるZ世代アプローチ
前章で整理したZ世代の嗜好特性に対し、各プロリーグはそれぞれ異なる戦略で適応を進めている。ここでは、各リーグのZ世代向け施策を競技外も含めた構造設計の観点から簡潔に整理する。
NBA:Z世代マーケティングの完成形
NBAは、Z世代向けマーケティングにおいて最も完成されたモデルを構築している。
ショート動画の大量供給、選手のスター化、チームや選手の物語性を前面に出す設計など、Z世代が好む消費様式を早期から織り込んできた。正しく言えば、マイケル・ジョーダンの登場によって「そうなってしまっていた」ことが、ようやく時代が追いついたことで歯車が噛み合っている状態とも言えるだろう。
また、eスポーツやゲームとの連動を通じて、デジタル空間とリアルの観戦体験を接続し、「NBA体験」を生活文化の一部にまで拡張している点は、他リーグと一線を画す。
NFL:巨大イベント産業としての再設計
NFLは、スーパーボウルを頂点とする巨大エンタメ装置を中核に、競技・ショー・メディアを統合した「イベント産業型リーグ」へと進化している。
近年は、従来の競技ファン層に加え、女性層や非スポーツ層を取り込むため、選手のスター化やストーリー型コンテンツの強化を推進。どうしてもヘルメット越しだと選手の顔がわからないことも多いが、選手が会見で話す動画やファンサービスの様子などを積極的に取り上げるようになっている。週1試合という希少性も活かし「週末の一大イベント」としてZ世代の生活リズムに組み込む設計が進んでいる。
MLB:Z世代へのリブランディング途上
MLBはZ世代への適応に最も本格的に舵を切っているリーグの一つである。
代表的なのが「ピッチクロック」の導入である。投球間隔を制限することで試合時間を短縮し、テンポを改善した。また、ダグアウトでの選手や監督の素顔の切り取り、大谷翔平をはじめとしたスーパースターの可視化、個性的な選手のキャラクター化など、競技外コンテンツの強化も進めている。
中でもルールそのものに手を入れた改革は、伝統を尊重しながらもZ世代に歩み寄るMLBの強い意志を象徴している。
NHL:慎重なファンダム育成モデル
NHLはZ世代への入口設計では他リーグに遅れを取っているものの、SNSを活用しながら「理解の深いファン」を丁寧に育成してきた。
大衆化を急がず、「分かる人が深く愛する」ファンダムを積み重ねてきた姿勢はNHL独自の戦略であり、今後、象徴的な改革施策が生まれれば一気に流れが変わる可能性も秘めている。
"A new brand of baseball will reveal itself to the world on Thursday." ⏰ @JeffPassan on how the pitch clock will revolutionize baseball on @ESPNPlus ➡️ https://t.co/gH8rx8GyW7 pic.twitter.com/Z02Qw6l82l
— ESPN (@espn) March 29, 2023
Z世代が求めるスポーツの形とスポーツビジネスの未来
Z世代がスポーツに求める5つの価値
これまで見てきたように、Z世代は単に試合結果を追うだけのファンではない。彼らがスポーツに求めているのは、次のような価値である。
| 価値 | 補足 | |
| 1 | 短時間で理解できる面白さ | 長時間拘束される観戦よりも、ハイライトや切り抜きで瞬時に魅力が伝わる体験が重要になる。 |
| 2 | 人となりへの共感 | チームではなく選手個人の物語やキャラクターに強く惹かれ、推し文化として消費する。 |
| 3 | 参加感 | 観るだけでなく、SNS、ゲーム、イベントなどを通じて自分も物語の一部になることを求める。 |
| 4 | 文化との接続 | スポーツは音楽、ファッション、ライフスタイルと融合した一つのカルチャーであり、単なる競技ではない。 |
| 5 | デジタルとリアルの往復 | スマホで知り、リアルで体験し、またSNSで共有するという循環が、Z世代のスポーツ体験の基本構造となっている。 |
Z世代の価値観がスポーツビジネスをどう変えるか
この価値観の変化は、スポーツビジネスの構造そのものを変えつつある。放映権ビジネス一辺倒のモデルから、コンテンツビジネス・体験ビジネスへと重心が移り、リーグは「競技を運営する組織」から「巨大なエンターテイメントプラットフォーム」へと進化している。
もはや重要なのは勝敗だけではない。どれだけ多くの瞬間を切り出し、物語として編み、Z世代の日常会話に入り込めるか。その設計こそがリーグの競争力を左右する。
アメリカ4大スポーツの未来図
NBAはすでにその完成形に近づいており、NFLは巨大イベント産業として再構築が進む。MLBは競技構造そのものを変える覚悟を見せ、NHLは濃密なファンダムを基盤に次の時代への入口を模索している。
Z世代にとってスポーツとは、観るものではなく「関わるもの」である。この世代の価値観を理解できたリーグだけが、次の時代の覇者になる。そしてこの変化は、やがてZ世代の次の世代へと受け継がれていく。スポーツビジネスの未来は、すでにZ世代の手の中にある。
【参考】
※1:https://www.fnn.jp/articles/-/929926
※2:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000167.000033607.html
※3:https://beta.nielsen.com/wp-content/uploads/sites/2/2019/12/game-changer-gen-z-sports-report-2019.pdf
※4:https://pro.morningconsult.com/instant-intel/gen-z-favorite-sports-league
Follow @ssn_supersports




