
スポーツ大国・アメリカには、多くのプロスポーツがある。その中でも、特に以下4つのリーグは特別な存在感を放っている。
| リーグ名 | 正式名称 | 競技 |
| NFL | ナショナルフットボールリーグ | アメリカンフットボール |
| MLB | メジャーリーグベースボール | 野球 |
| NBA | ナショナルバスケットボールアソシエーション | バスケットボール |
| NHL | ナショナルホッケーリーグ | アイスホッケー |
この4つは、スポーツ大国アメリカにおいて長く“4大スポーツ”、いわゆる「BIG 4」として位置づけられてきた。歴史・文化・人気、そしてビジネス規模まで含めて、BIG 4はアメリカのスポーツ産業を象徴する存在だ。
なぜこの4つが "特別"なのか。はたまた "特別扱い"されるのか。
理由はシンプルで、国民的スポーツとして定着した歴史と、放映権を軸にした圧倒的な市場規模が他の競技を大きく引き離しているからである。本シリーズでは、4大リーグを多角的に分析し、それぞれがどのようにビジネスとして成長・成熟していくかを解き明かしていく企画である。
今回の第1弾では、この4大リーグの収入の大部分を占める「放映権ビジネス」について深く紹介していきたい。また、その中でNFLだけが突出した収益力を持つ理由についても合わせて比較していこう。
アメリカ4大スポーツリーグとは
まず、前提の前提として、NFL、NBA、MLB、NHLについて紹介したい。
| リーグ | 創設年 | チーム数 | レギュラーシーズン試合数(各チーム) |
シーズン期間の目安
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| NFL | 1920年(APFAとして発足→1922年に現在のNFL名) | 32 チーム | 17試合/チーム |
通常9月〜翌年1月(その後プレーオフ〜スーパーボウル)
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| MLB | 1876年に前身リーグ(ナショナルリーグ)設立。1901年にアメリカンリーグが設立後、1903年から現在の2リーグ体制での競争が始まり。 | 30 チーム(米国29、カナダ1) | 162試合/チーム |
通常3月下旬〜4月初め開幕 → 9〜10月終盤までがレギュラー、以降ポストシーズン(ワールドシリーズ含む)
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| NBA | 1946年(前身リーグ BAA:Basketball Association of America として創設)※1949年にNBLとの合併でNBAに改称。 | 30 チーム(米国29、カナダ1) | 82試合/チーム |
通常10月〜翌年4月までがレギュラー → その後プレーオフ(ファイナルは5〜6月)
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| NHL | 1917年11月設立。最初のシーズンは1917–18年。 | 32 チーム(米国とカナダを含む) | 82試合/チーム |
通常10月〜翌年4月がレギュラー → その後プレーオフ(スタンレーカップ決定)
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どのリーグも30チーム程度が所属しているが、試合数が極端に違う。NBAとNHLはほぼ同じ試合数・期間で実施されているが、NFLはたった17試合しかないのに対し、MLBは162試合もある。
| リーグ | 試合頻度(週あたり) | 平均試合時間 | 備考 |
| NFL | 週1試合 | 約3時間10分 |
1試合の希少性が極めて高く、視聴価値が最大化される
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| MLB | 週6試合(ほぼ毎日) | 約2時間40分〜3時間 |
デイリーで積み上がる“量のコンテンツ”
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| NBA | 週3〜4試合 | 約2時間15〜30分 |
都市型・アリーナスポーツとして最適な中尺
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| NHL | 週3〜4試合 | 約2時間30分 |
NBAと同じ“アリーナ型の中尺フォーマット”
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NFLは週に1回の試合に加えて、バイウィーク(お休みの週)が1チーム1回必ずある。NFLは常に全力疾走で体を本気でぶつけ合うスポーツであるため、消耗も回復も時間がかかることからこの形になっている。一方でMLBはほぼ毎日試合をしている。競技特性として、NFLとは違ってハードな接触があるわけではないし常に全力疾走するわけでもない。ピッチャーだけは登板してから4〜5日ほどの休みがあるものの、野手はほぼ毎日試合を行っている。NBAとNHLは中1〜2日でシーズンが進むが、こちらも激しい接触のスポーツでありコートを縦横無尽に走るスポーツであるから、選手としては非常にハードなスポーツである。
別角度の話であるが、基本的にはどの試合もほぼ満員が多く、ハーフタイムや始球式などはエンターテインメントの場所としても活用される。アーティストやモデルなどのゲストを呼び試合以外での盛り上がりを創造しているが、彼らにとってはこの4大スポーツでパフォーマンスすることは一定のステータスになる。NFLの年間王者を決める「スーパーボウル」は国民的行事でもあるために、特にそれが大きい。4大スポーツは、このようにアスリート以外にも非常に大きい影響力を持っているのだ。
さて、この前提を踏まえて、次章からは放映権について記載していく。そして、なぜ週1日で17試合しか行わないNFLが一番儲かっているのかなどについても解き明かしていこう。
4大リーグは「放映権収入の構造」がまったく違う
アメリカ4大スポーツは、放映権の売り方・収入の依存度・分配方法がそれぞれ異なる。
この“設計思想の違い”が、リーグ規模や収益差に直結しているのだが、前提として、それぞれの収支について簡単に解説したい。
| 順位 | リーグ名 | 年間収益規模の目安 | 放映権 | 備考 |
| 1位 | NFL(アメフト) | 約187億ドル前後(2.8兆円) | 全体の約66%が全国メディア権利収入。全米ネットワーク/ストリーミング(例:CBS、FOX、NBC、ESPN/ABC、Amazon など)とリーグ主導で大型契約。 |
メディア/放映権収入が圧倒的
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| 2位 | MLB(野球) | 約121億ドル前後(約1,8兆円) | 全国メディア権利収入は全体の約26%。加えて、ローカルメディア(地域テレビ局=RSNなど)で約23%を稼ぐ構造。 |
チケット収入・ローカル放映収入が強い
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| 3位 | NBA(バスケ) | 約113億ドル前後(約1.7兆円) | メディア権利収入が全体の過半(約54%)、うち全国メディア権利が約41%、ローカルが約13%。 |
MLB と収益規模で競合
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| 4位 | NHL(アイスホッケー) | 約68億ドル前後(約1兆円) | メディア権利は全体の約38%。全国:ローカル≒半々(各約19%) |
他3リーグと比較して最も収益規模が小さい
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表の内容をざっくりまとめると以下の通りである(※1)。
| NFL | 全国放映のみ。系列の地元TV局には放映権を付与。リーグ主導で巨大契約を一括管理。均等配分。 |
| MLB | ローカル放映(地域TV/RSN)依存度が高い。チームごとに契約格差。 |
| NBA | 全国 x ローカルのハイブリッド。Amazonとの契約によって今年から放映権はジャンプアップしたため全国比重が増えている。 |
| NHL | 規模は最小。全国もローカルも小ぶりで、メディア収入の比率も低め。 |
この「放映モデルの違い」が、結果として収入の差につながっている。
放映権料のみならず全体収益でダントツ1位のNFLは、全国メディア権利をリーグ全体で一括交渉・管理しているのが全てである。逆に、ローカルメディアとは一切契約を結んでいない。結んでいないと言うよりは「金額が高すぎてローカルでは到底結べない」と言った方が正しいかもしれない。かつ、MLBやNBA、NHLのように「チーム」が「ローカルメディア」と契約はできないルールになっているために、収入としては地方都市でも巨大都市でも関係なく均等分配される。
ただ、露出は話が違う。全国メディアで放送されることが前提で、全国契約を持っているネットワークの系列局だけがローカルで放送できる。例えば、NFLは「FOX」と契約をしているが全国放送の「FOX」と、系列の「FOX 11 LA(ロスの地元局)」で放送ができる、といった具合だ。そして「FOX 11 LA(ロスの地元局)」ではLAのチームの試合を流してOK。
この形であるために、FOXのような大手キー局の系列チャンネルがない地方に関しては見ることができない場合もある。全国放送の「FOX」は見られるかもしれないが、それはリーグとFOXが決めた対戦カードであるため、自分が好きなカードが見られるわけではないのだ。このような露出の差があるため、NFLでは人気チームや好カードは全国ネットで広く取り扱いがされるが、なかなか結果が出ないチームはほぼ露出がなくなってしまうという話だ。
一方で、MLBはその真逆を行っている。チャンピオンシップなどの試合を除いて、試合のほとんどは全国放送されておらず、基本的にはローカル放映のみで放送がされている。NFLとは違って直接チームとメディアが交渉して放映権料として収入を得ることができるため、収入も露出も良い意味で「自分たち次第」である。
ただし、巨大都市のチームはそもそもローカルの範囲が広いため視聴者も多く高額契約が可能だが、スモールマーケットのチームは視聴者がそもそも少ないため放映権料も安価になることが非常に多い。そしてストリーミング配信のニーズ拡大などによって2024年以降はこのモデルそのものが崩壊気味であり、米国ローカル局のビジネススキームは弱体化。これを受けてMLBは自前で救済措置として「MLB Local Media」を始めている。MLBはローカル依存体制で実力勝負な部分もありながら、フランチャイズの規模によって優劣ができてしまうモデルでもある。
ちなみにNBAはこのNFLとMLBの良いところを取った「ハイブリッド型」である。とはいえローカルメディアへの依存度はいまだに高いが、全国放送の比率が年々向上しているために、ようやくハイブリッド型になれた、と言う方が誤解がないかもしれない。
最後にNHLはそもそもこの4大スポーツの中では放映権の全体規模が小さく、メディア収入も控えめ。全国でもローカルでもコンパクトになっており、そもそもメディアよりもアリーナ収入や地域スポンサーに比重を置いていることも、コンパクトになっている理由だ。

なぜ17試合しかないNFLが突出するのか
米国4大リーグの4つの中で比較すれば、「NFLだけ特別」というよりは「この放映モデルや競技モデルだから結果として突出する」という必然が見えてくる。
1:全国放映にフルベットした唯一のリーグ
NFLは年間でたった17試合しかない。これによって、1試合の重要度が他リーグとは比にならないほど違う。開幕戦で負けただけで「今シーズンは無理だな」と思うファンも決して少なくない。「連敗でもこれから希望が持てる」「まだまだここから」と言えることはなく、地区によっては「2敗したら終わり」のような場所すらある。それほど、序盤から全ての試合が”超”重要である。1試合の重さが違う。だからこそ、1試合の価値が非常に高い。週に1度しかない試合を、ファンはどんな予定もキャンセルして必ず見るのだ。
この価値をリーグ主導でまとめて販売している上に、交渉は常に「全国放送・巨大ストリーミング」しか相手にしていない。またこれは推測の域だが、おそらくテレビ側も他スポーツに比べるとやりやすいのだと思う。週に1回だけで3時間くらいの試合で、試合のペースも比較的ゆっくりで定点カメラをそこまで左右に振る必要もない。最近はドローンを飛ばして、ドローン映像から中継することもあるがそういった工夫をしつつも、毎日あるMLBや中1日で攻守の切り替えも早いNBAやNHLに比べると、きっとテレビの制作会社の方もやりやすいのではないかと思う。だからこそNFLをやりたい局が多いのだとも思う。
▼NFLとの放映権契約について(※2)
契約 2023-2033年の11年契約
金額 総額約$105B(1050億ドル=約11兆円超)
対象 NBC、FOX、CBS、ESPN、Amazon
The NFL inked an 11-year, $9B annual deal with Disney, NBCUniversal, and Amazon through 2033. Starting 2023, Disney, NBCUniversal, ViacomCBS, and Fox will broadcast games on their streaming platforms. This reflects evolving media trends and could impact NFL viewership
Thoughts? pic.twitter.com/J2isAaRi4U
— Earn Your Leisure (@EarnYourLeisure) September 10, 2023
上記の表は2021年に発表されたリリースが元になっているが、この契約によって、NFLは伝統的なTV放映だけでなく、ストリーミングを含む包括的な権利を複数の大手メディア企業・プラットフォーマーに分散させることができた(近年のストリーミング視聴料は価格変動が激しいため、直近10年の契約をまとめられたのは大きい)。契約後も広告収入や配信収入を含めたメディア収入はリーグ全体の大部分を占める。
直近NBAの放映権をABC/ESPN、NBC/Peacock、Prime Videoの3社が合計11年間で760億ドル(約11兆円)で契約したニュースが出た。リリース時のレートが違うため一見すると日本円で換算でNBAがNFLに追いついたように見えるが、両者にはまだ240億ドル(約3.6兆円)もの差がある。この金額を見ると、NFLがいかに放映権で他リーグの追随を許していないかがわかる。
2:ローカル市場に依存しない/分配が完全平等
NFLは放映権におけるMLB・NBA・NHLが抱える「市場人口」「地域経済」「局事情」などの差が一切関係ない。前途の通りローカルメディアと契約せず、全国放送にフルベットしているからだ。
地元ファンの要望に答えるためにはローカルメディアでの放送が一番良いとされていた時代はある種の終わりを迎えており、今は個人単位で好きなものを好きなだけ見られる状態になった。NFLが見たければリーグパスを契約すれば良いだけの話で、テレビで視聴できたらラッキーという具合なのだから。当然ながらローカルメディアの存在価値は未だ非常に大きいものであると考えているものの、とある地域に住んでいる全員が4大スポーツの地元のチームの試合を必ず見ているわけではないため、まさに今が分岐点とも言えるだろう。
MLBはNFLと真逆の路線であるために一つの例として挙げるが、例えば巨大都市であれば膨大な収入を生める一方で、スモールマーケットは非常に厳しいのが弱点。こういった問題がNFLには無い、ということである。さらに言えば、NFLはリーグ全体の一括管理によって放映権も完全に平等に分配されている。Aのチームが放映権で儲かっているがBのチームは微々たる程度……といったチーム側の悩みが一切ない。前途の通り、露出は左右されてしまうものの、儲かっているチームだけが選手の強化に多く金額を投資できるといった偏りが全くないために、結果としてバランスが取れる。これまで弱かったチームも上手く強化にお金を使えれば勝つチャンスはいくらでもあり、勝てば全国放送に載るのだから。
このようなことを総合的に見ていく中でも、放映権そのもののボリューム・安定度・単価すべてでNFLが最上位になっていることがわかる。放映権に関して言えば、どうしてもNFLの話に終始してしまうが、これを皮切りにさまざまな角度で本シリーズは展開していく。次回はSNSについて。
(※1)https://www.sportscasting.com/news/breakdown-of-how-the-four-major-us-sports-leagues-earn-money/ https://www.visualcapitalist.com/u-s-sports-leagues-by-revenue/
(※2)https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-03-19/QQ6RG7DWRGG501
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