移籍金ビジネスで儲かるサッカー界 育てたクラブにいくら入る?
写真:アーセナルのエミレーツ・スタジアム/Photo by Peter Sterling
(大会直前のため再掲載)
欧州サッカーでは夏の移籍市場が開いており、各クラブが新たに迎えるシーズンに向けて選手の補強でチームの強化を図っている。そんな中、近年注目を集めているのが海外サッカーの移籍システムである。海外組だけで日本代表を作ることも可能になるなど、日本から欧州移籍を果たす選手が当たり前になりつつある今、日本と海外をつなぐ移籍の仕組みを作り、定められた制度を有効活用していくことは日本サッカーをさらに成長させていく上で重要な要素を占めている。(文・井本佳孝)
日本と欧州サッカーをつなぐシント=トロイデン
写真:シント=トロイデンからボローニャ、アーセナルへの羽ばたいた冨安健洋 提供:Mike Hewitt / getty images sport
近年の日本から海外への移籍を語る上で、大きな役割を果たしているチームがシント=トロイデンだ。2017年11月にECサイトを運営する「DMM」が日本企業としては初めて欧州クラブの経営権を取得したことは驚きをもって伝えられた。ベルギーの1部に所属する同クラブには多くの日本人選手が在籍するようになり、現在は日本代表で10番を背負った香川真司や昨夏の東京五輪で日本のセンターフォワードに名を連ねた林大地といった選手たちが所属している。
ベルギーリーグは欧州において、オランダやポルトガルなどと並び、欧州5大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランス)へステップアップを果たすための若手の登竜門の意味合いをもっている。将来有望な選手たちが若くして海外に渡り、ベルギー、オランダ、ポルトガルといった国で経験を積み自らの能力を証明し、さらにレベルの高い国々へ挑んでいくという流れがある。そんな中で、日本企業がバックアップするクラブがベルギー1部リーグに所属していることは日本サッカー界にとっても大きなメリットがある。
シント=トロイデンには遠藤航、鎌田大地、冨安健洋といった今の日本サッカーを支える選手たちも所属した。それぞれドイツやイタリアにステップアップを果たし、冨安はその後ボローニャを経由して、イングランドのアーセナルへと羽ばたいた。日本から海外を目指す選手たちにとっては、日本人が馴染みやすい環境が整っているシント=トロイデンで欧州サッカーを体感した上で、活躍してさらにレベルの高いリーグやクラブへステップアップする流れは一つのモデルケースとなっている。シント=トロイデン側も有望な日本人選手と欧州サッカーの架け橋となる役割を担うことで、日本サッカー全体への貢献になる。互いにWin-Winとなる関係性を継続して築いていくことがこのプロジェクトの目指す方向だろう。
重要な要素占めるTCと連帯貢献金
photo:matimix
日本人選手と海外移籍に関して金銭面も重要な役割を占めている。その中で、FIFAが定めたレギュレーションとして存在する代表的なものがトレーニング・コンペンセーション(TC)と連帯貢献金である。
TCは優秀な若手を育成・輩出したクラブに対して、その恩恵を受けることになる獲得クラブがその選手の育成元クラブが費やしたコストを肩代わりする制度のことを指す。TCが発生する条件は、プロ選手として初めて選手登録がされること、または満23歳のシーズンが終了する前に国外移籍をすることだ。2010年夏に当時J2のセレッソ大阪からドイツ・ブンデスリーガのドルトムントへ移籍した香川は21歳での移籍であったため、TCが発生しドルトムントからC大阪に支払われた。
一方の連帯貢献金は、優秀な選手を輩出したクラブに対して、その選手が移籍することによって発生した移籍補償金の一部を還元する制度である。こちらは選手が契約期間内に移籍補償金を伴って移籍することで発生し、対象となるクラブはその選手が満12歳〜満23歳のシーズンに各クラブで発生した移籍金の5%を所属期間の長さに応じて分配する。移籍が発生するたびに「育成元のクラブ」が海外クラブに連帯貢献金を請求できる点が特徴である。
2021年夏にセリエAのボローニャからイングランド・プレミアリーグのアーセナルに移籍した冨安だが、当時の移籍金はおよそ2300万ユーロ(約30億円)とされている。アビスパ福岡の下部組織で育った冨安のケースでは、12歳から15歳までをアビスパ福岡U-15、16歳から18歳をアビスパ福岡U-18、トップチーム昇格を果たした18歳以降がアビスパ福岡所属選手として育っている。「育成元のクラブ」として福岡が受け取った約1億5000万をそれぞれのカテゴリーに分配でき、自チームの強化に充てることが可能になる。育てた選手たちが海を渡り、海外間での移籍でも利益が生まれ、所属元チームに還元されることは、育成面においても日本サッカー界に果たす役割は大きい。
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