• HOME
  • 記事
  • サッカー
  • 本田圭佑が提言する指導者のライセンス問題 日本サッカー発展へ求められるS級の価値と必要性
本田圭佑,サッカー

本田圭佑が提言する指導者のライセンス問題 日本サッカー発展へ求められるS級の価値と必要性

写真:本田圭佑(森田直樹/アフロスポーツ)

サッカー界において、近年議論に上がることが多いのが指導者のライセンス問題。なかでも、元日本代表の本田圭佑は自身のSNSやインタビューで現行の指導者ライセンスの制度は残した上で、ライセンスがなくても指導者になる形も必要と提言してきた。そんな本田の声には賛成派がいる一方で、「旧来のルールに則りライセンスは取得すべき」という意見があるのが現状である。そこで、現状のサッカー界のライセンス制度について言及し、必要性の是非について語っていきたい。(文・井本佳孝)

内田篤人、中村憲剛らがS級を受講

JリーグやWEリーグ、日本代表などの監督になる上で必須とされてるのがJFA(日本サッカー協会)が公認するS級ライセンス。毎年育成講習会が開かれている同資格は、有効なA級ライセンス(全国レベルの指導が可能)を保持しており、講習会での成績優秀者やJFAが競技、指導実績を認めた者や、海外においてライセンス取得した者を技術委員会が評価して選定する。受講者は16人から20人前後となっており、そのハードルは高く狭き門となっている。

1月に発表された2023年度のS級コーチ養成講習会の受講者には、元日本代表で鹿島アントラーズやシャルケで活躍した内田篤人や、川崎フロンターレ一筋でプレーした“バンティエラ”、中村憲剛、2006年ドイツW杯メンバーである大黒将志らが名を連ねた。内田と中村は、現役引退後にJFAが新設したロールモデルコーチの役職を与えられ、アンダー世代のチームに帯同し、指導を行う姿もみられる。それと並行して、S級ライセンスの資格取得に向けて取り組むことになる。

内田篤人,サッカー
写真:内田篤人(Foto Florian Pohl/City-Press GbR)

これまでは内田や中村といった現役時代に豊富な実績を誇る選手でも、プロのトップレベルの指導者として本格的に現場に就くには数年を費やさなくてはならなかった。そんな状況を改善すべく2021年に、日本代表として20試合出場以上の実績を持ち、かつB級コーチ養成会の成績優秀者は、A級ライセンス取得前に求められる1年の指導実績要件が緩和されることになった。“興行”=エンターテイメントの要素も強いプロスポーツの世界において、スター選手が早く現場に戻れるような仕組み作りは課題といえる。

選手スキルと異なる指導者スキル

昨年のカタール・ワールドカップでは解説者も務め、好評を博した本田だが、その際に「いつかはワールドカップで指揮を取りたい」と本格的な監督就任に意欲を見せる発言を残した。本田は自身の考えについて元日本代表監督の岡田武史氏との対談で、「指導者が日本にいなかった時代はS級ライセンスは重要な役割を果たしてきた」とこれまでのライセンス制度を肯定しつつ、「日本がある程度(W杯ベスト16)の位置まで来たら、指導者じゃない人もある程度のサッカーのリテラシーがあったり、ライセンスを持ってなくても指導する権利は与えていい」と改めて主張している。

選手時代のスキルと指導者に求められるスキルはそれぞれ異なり、指導の現場に就くための準備は当然必要である。そのなかで、コミュニケーションスキルやチームマネジメント、栄養学、スポーツ心理学などのカリキュラムが用意されているJFAのライセンス講習は、基本的な原理原則や、指導者としてのベースを磨く上で、有用に働いてきた側面はある。また、講習者同士の意見交換や情報の共有によって、指導者を目指す者同士のレベルアップや意識の向上につながってきたことはメリットだ。

また、本田の主張するライセンス制度のあり方が、一朝一夕で変わることは現実問題として簡単ではない。現在36歳の本田が2026年の北中米W杯や、2030年のW杯での指揮官就任を目指していく場合、このライセンス制度の有無というハードルが問題として挙がってくる可能性は十分にある。「日本をW杯で優勝させること」と自身の目標を公言してきた本田の意見は、サッカー界全体がよりエンターテイメントとして盛り上がることを目指すゆえの改革案であるが、ライセンスを取得せずに指導が可能になる道は引き続き議論を重ねて可能性を見出していくことになるだろう。

関連記事