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「またF1でと言うより、ペスカドーラ町田の選手としてFのピッチに立ちたい」。カスカヴェウに憧れた少年が歩む、終わりなき夢への旅路|全日本の爪痕

「このままじゃ終われないだろう」。つなぎとめた指揮官の言葉

2019-2020シーズン終了後、小幡はサテライト時代から長きに渡り在籍していたエスポラーダ北海道を退団した。言うまでもなく、小幡にとっては北海道ももう1つの特別なクラブだったが、第二の母国であるタイへの移籍を目指しての決断だった。

しかし、ここでよもやの事態が起きる。新型コロナウイルスの世界的蔓延により、タイリーグ移籍はおろか、海外への渡航すら難しい状況となってしまったのだ。

「自分のなかでは大きな挑戦になるはずだったんですけど、予想もしないかたちでそれが頓挫してしまって。数カ月間所属クラブがない状態が続いていた時に、相根澄さんに声をかけてもらって、東京ヴェルディフットサルクラブ(当時東京都エントリーリーグ)に加入しました。その後、当時ヴェルディのコーチを務めていた前田喜史さんから『町田アスピランチでプレーしてみるのはどうか』と提案していただいて。甲斐(修侍)さんとつないでくれて、アスピランチに加入しました」

それから4シーズン、中心選手として活躍してきた。既述の通り、プレーの幅は着実に広がり、キャプテンとして若いチームを引っ張る立場となった。しかし、現時点でまだ、トップチーム昇格は果たせていない。

23歳だった加入時とは、様々な状況も変化してくる。Fリーグ選抜時代の同期のなかには、F1上位クラブで中心選手として活躍している者もいる。彼らの活躍は刺激となる一方で、焦りとなって押し寄せてくることもあるだろう。

「これまでに、フットサルを辞めようと思ったことはありましたか?」

話の流れのなかで、失礼を承知の上でそう質問した。

「もちろん!何度もありましたよ(笑)!」

意外なくらい屈託のない笑顔で答えた小幡。「でも……」と続ける。

「このチームでも試合に出られないとか、実力が無いなと感じたらもう辞めていたと思います。ただ、以前Fリーグに出ていた時と比べても今の方が成長できている実感があるから、“まだやろう”と思えているのかなと。『ここが天井だな』とか『これ以上はうまくなれないな』と感じたら、その時は辞めてしまうかもしれません。ペスカドーラを離れる時が、フットサルを辞める時かなと考えています」

実際、前回の全日本で敗退した際には、競技引退も頭をよぎったという。

「このチームでこれ以上必要としてもらえるかもわからなかったので、正直もう厳しいかなと思っていました。でも、小川(亮)監督と話した時に『このままじゃ終われないだろう』『まだ必ずチャンスは来るぞ』と言っていただいて。もう一度気持ちを入れ直して、続けてみようと決めたんです」

引き止めた側の小川監督は、当時の会話を次のように述懐する。

「彼の表情を見ていると、まだ燃え尽きた感じではなかったんですよね。彼自身のなかでやりきった上で辞めるというのであれば、その時は『よく頑張ったな。お疲れ様』と言えると思います。でも、小幡の場合はまだ違うなと感じました。

実際、彼はここへ来てから物凄く成長していると思います。入ってきた当初は『個人としてどうトップに上がるか』という気持ちが強かった。それが今では、『チームで結果を出すことで評価される』『チームが勝つためにどう貢献するか』と考えられる選手になりました。そこはすごく成長しています。今のチームのなかでも替えが利かない選手であり、経験値も含めて、いる・いないで大きな違いが出ます。凄いシュートをバンバン決めるタイプではありませんが、チームが強くなるためには、彼のような選手の存在は必要不可欠です」

「あとは……」と小川監督が続ける。

「今日、彼は一度決定機がありましたよね。チーム全体をオーガナイズする今のプレーに加えて、ああいうところを決められるようになると、選手としてもう一段上の存在になれるのではないかと思います」

準々決勝の北九州戦、相手ゴレイロの鈴木雄大が飛び出した流れのなかで、小幡が左サイドから無人のゴールへシュートを放った場面があった。決まったかに見えたが、惜しくもサイドネット。好機を逸した恰好となった。

角度的には左45°よりも外側。加えて、相手DFのプレスを受けながら打つかたちとなったため難しいシュートではあったが、決めたい場面だった。

「自分でも、あそこだなと思います。あの場面で決められれば、準決勝に進めるチャンスもあっとはずなので。簡単ではないかもしれないですけど、あれを決められる選手が上に行ける。だから、まだ足りないですね。もっともっと成長して、必ず上で活躍できる選手になりたいと思います」

小幡貴一の目標は、再びF1でプレーすることではない。ペスカドーラ町田の選手としてF1のピッチに立ち、そしてその舞台で活躍することだ。

幼少期に異国の地で抱いた、カスカヴェウへの憧れ。その想いを原動力に、人生を懸けた挑戦は続く。

町田アスピランチ特集|全日本の爪痕

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