
なぜ、無名の若手がFリーグ王者を倒せたのか?小川亮監督のマネジメント力|全日本の爪痕
いい部分は尖らせたまま育てたい
──そういった声かけは選手たちのメンタルを保つ上でも大事だと思います。育成年代の指揮官として特に大事にされているのでは?
僕たちのクラブは、アスピランチの選手であってもトップチームですぐにプレーできるような選手を育てることを目標にしています。そのなかで大事にしているのはまさにメンタルの部分と、特にフィジカルの部分です。
技術的な部分の練習もしますが、ここ数年は甲斐(修侍)監督とも話していて、選手のメンタルやフィジカルを育てていかないといけないなと。なので、アスピランチもトップと同じようなサイクルで練習をしています。筋トレなどフィジカル的な部分を取り入れてこの1年はやってきて、改めてフィジカルの大事さを感じています。
──フィジカルはトップで活躍するための必要な要素?
やっぱりうまい選手はいっぱいいるんですけど、そのうまさをトップのレベルで出すためにフィジカルが必要になる。ここ数年見てきて感じたのは、アスピランチの選手たちがトップでプレーすると、うまさを出す前にフィジカルで潰されてしまう。そこに課題感をもっていました。なのでトップチームと同等か、そのレベルに近い状態まで積み上げる必要があるなと思い取り組んでいます。
──技術的な部分ではどのような働きかけをされていますか?
まだまだ荒削りなところもありますが、僕はそれもいいことだと思っています。そういった荒削りな部分を、どう研磨していくかが重要なところ。ただ、研磨しすぎて尖ったものがなくなってしまうのも良くない。「こういう選手になりなさい」と強制することはなくて、いい部分は尖らせたまま育てたいと思っています。
──さまざまな尖り方があるなかで、4人の組み合わせを最大化されたように感じました。
フットサルはそれがすごく重要かなって思います。僕のプレーモデルもありますが、それに当てはめることはしないです。選手たちの良さも見ながら、そこはバランスを見てやっています。今いる選手たちを最大化するようなことを考えていますね。
あとはトップチームを意識しています。トップに上がった時に通用するためにはとか、トップチームがこうやっているからそこに近づけるためにみたいなアプローチはあります。そこも甲斐監督と相談しながらやらせてもらっています。
──そういったマネジメント力が、浦安を倒した要因の一つであると感じます。
それもあるとは思いますが、一番は選手たちのポテンシャルですね。これほどうまくいくとは思っていませんでしたけど、選手たちのポテンシャルに加え、これまでやってきたことの積み重ねを信じられるかどうかが大切でした。選手たち自身がそこを信じてトライできれば、こういった奇跡のような勝利もつかめる。そう感じさせてくれた試合でした。
なのでアスピランチを見る立場として、彼らの可能性をどうやって引き出すかが大事だと改めて思いましたね。僕が勝ちたいと思っているだけではダメですし、選手もチームも勝ちたいと思わなければ達成できない。
育成に携わっていると、よく「勝ちにこだわる勝利至上主義は良くない」と言われます。ただ、アスピランチは言ってしまえば二軍です。彼らは一軍に上がって結果を残すために、二軍でそれを磨いている。だから今のうちから勝利するためにはなにが必要なのかというマインドでいないといけません。この1年は、僕だけでなく選手たちも「勝つこと」に執着してきたと思います。
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──選手たちの成長と勝利の両方を求めることは、難しいミッションのようにも思えます。
まさに、勝つためだけなら極端な話、引いて守ってカウンターだったり、今日のようなトーナメントであればPK戦に持ち込む選択肢もあったと思います。ただ、彼らはトップで活躍するためにまだ成長しなければいけない。
自分たちがやってきたものはしっかり出しながら戦うことが大事です。そのなかでどうしても相手に押し込まれる時間はあります。そういう想定をして試合に臨み、押し込まれても押し返す。我慢をしながらカウンターに出るところをやってきました。難しいことではありますけど、勝利を目指しつつ選手の成長も考えて取り組んでいます。
──今大会はそういった狙いが成就したような戦いでした。
ベスト8で負けてしまいましたが、ここまで来れたのは本当に素晴らしいこと。それは選手たちの頑張りがあったからです。こういうトーナメント形式の大会になって、駒沢まで戻ってきた地域リーグのチームはそう多くない。だからこそ、僕たちは可能性を示せたと思っています。
彼らがそういうポテンシャルをもっていたことがすごくうれしいですね。本当にいい経験をできたんじゃないかなって思います。これぐらい観客が入って、これだけ応援される試合を若いうちから経験できたのは素晴らしいこと。クラブとしても良かった部分だと思います。
今日の応援席では中学生の子たちも観にきていました。彼らにとっての身近な目標になれたと思います。彼らも高校生になればサテライトに上がるはずで、もしかしたらこういう舞台でFリーグのチームと試合ができるかもしれないって思えたら、それはすごくモチベーションになる。そういう意味でもクラブとして育成に力を入れてきてよかったなと思いますし、ちょっと言い過ぎかもしれませんが、形になってよかったなと思います。
──北九州戦の直後、選手たちにはどんな声かけをしましたか?
特に慰めるみたいな声はかけはしていませんけど、「あそこ(終了間際の勝負どころ)で決めてくるのがFリーグのチームだよ。この舞台では、あの一瞬を大事にしないといけない」と伝えました。
選手も悔しかったと思います。でも、彼らがこれから目指す世界はそういうところ。リーグ戦であってもFリーグファイナルの舞台であっても、自分が出ている時には責任や覚悟を持たないといけない。それを持ってプレーできるようにしてもらいたいですね。
──浦安戦はこれ以上ない成功体験だったと思います。一方で敗れた北九州戦からも学びはありましたか?
そうですね。負けてしまいましたが、いい経験になったと思います。ここまでうまく戦ってきて、準々決勝はあと少しというところで勝てなかった。やっぱりメンタルの部分が大事です。
最後の1点は、最悪4人全員が下に滑っていたら、もしかしたら体に当たったかもしれない。多分、メンタル的にもそこまで思考が回っていなかったんだと思います。ああいう場面で宮崎岳選手がシュートを打ってくることは想定していました。実際に試合を通して、宮崎選手のシュートに対してしっかりコースに入って防げていましたし、本来はそれができる。ただ、できていなかった1シーンで決めてくるのがFリーグなので、最後まできめ細かに、常に頭を整理して、今なにが必要なのかを考えた上でプレーしないといけません。
大袈裟かもしれませんが、それができる選手がこの舞台でああいうシュートを決めてくる。そういう選手が、自分の実力を出せるんだと思います。そういうものを感じられた試合でした。
──これで今季の活動は終了で、来季に向けてはチームに残る選手もいればトップ昇格、他のクラブに引き抜きもあると思います。一緒に戦った彼らにメッセージをお願いします。
やっぱり、この先も苦しいことがたくさんあります。ただ、人間は常に快適なゾーンで生きていくわけではない。試合に出られる選手もいれば、出られない選手もいる。そのなかで、今後の人生に生きるなにかを見つけてほしいなと思います。
今はフットサルに全力で取り組んでいますが、それが全てではない。ここで学んだものを、次のタイミングでなにかにしっかり生かしてほしい。社会のなかでも同じようなことはあります。自分が嫌なことに腐ってしまったら、組織は回らない。嫌なことがありながらも、やらなきゃいけないものはあるわけです。そういうものをちゃんと頭に入れながら生かしてほしいなと思います。
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