東京ヴェルディ運営が語る J1昇格後の変化と“みんなが楽しいスタジアム”の作り方【運営編】

写真:選手とファンが交流する/提供:東京ヴェルディ

「みんなが楽しいスタジアム」。
東京ヴェルディ運営が目指す姿として掲げる、スタジアムコンセプトである。

2024シーズンから16年ぶりのJ1復帰を果たし、復帰1年目から平均入場者数約2万人に増えるなかで、クラブ運営はこのコンセプトのもと、訪れるファン一人ひとりに温かい体験を提供している。

ゴール裏で声を枯らしてチャントを送り続けるコアサポーターと、初めてスタジアムを訪れるビギナー層の双方に満足度の高い観戦体験を提供することは、簡単なことではない。

今回は、東京ヴェルディの運営担当者である川上潤也氏に、J1昇格で運営現場で起きた変化と、「みんなが楽しいスタジアム」というコンセプトをどのように進化させ、実現しているのかについて話を聞いた。


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写真:来場者と記念撮影するリヴェルンとヴェルディ君/提供:東京ヴェルディ

J1昇格による運営現場の「変化」

──J1昇格によって、運営、特に現場のオペレーションは大きく変わりましたか。

川上: カテゴリーが変わったこと自体で直接何か大きく変わるということはありません。

運営は競技運営と会場運営の二つに分かれますが、競技運営は、J2とJ1でサッカーというスポーツ自体は変わらないので、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の導入など一部を除いてそこまで大きな変化はありません。

ただ、会場運営において、一番大きく変わったのは「来場者数の増加」です。J2時代は2023シーズンで平均来場者数が8,000人弱だったのが、2024シーズンでは平均約2万人に増えました。キャパがだいたい45,000人の味の素スタジアムで、この人数を抱えるという点で最も変化を実感しています。

Tokyo Verdy fans cheer before the 2025 J1 League match between Tokyo Verdy 0-3 Kashiwa Reysol at Ajinomoto Stadium in Tokyo, Japan, June 15, 2025. (Photo by AFLO)

──具体的にはどのような変化がありましたか?

川上: 以前はゲート1つで対応できていたのが、今は2、3、4と開ける必要が出てきました。それに伴い、案内のスタッフや警備など、来場人数に比例してスタッフの人数は大幅に増え、それに伴う経費も増加します。

また、多くの来場者を扱うことで、サポーター対応や救急医療対応の数も比例して増えています。

──J1復帰1年目から平均動員2万人は、見事な数字ですね。運営サイドから考えられる要因は何でしょうか。

川上: ひとつに絞ることは難しいですが、J1昇格による注目度の向上はやはり大きいですね。メディアでの露出が増え、ビジタークラブの来場者数も圧倒的に増えました。いま、J1では、約半数が関東圏内のクラブであることも好影響を与えてくれていると思います。

写真:来場者数26,902人の文字/提供:東京ヴェルディ

──それは他の関東圏クラブも同じ条件ではないんですか。

川上: そうなんですが、スタジアムのキャパシティによってはビジターは500〜1,000人しか入れないクラブもあるんです。

私たちは、1万人弱はビジターのお客さんを収容できます。

写真:ビジター側も埋まる味の素スタジアム/提供:東京ヴェルディ

──すごいですね(笑)。そんなにビジターを入れてくれるなという意見はないですか。

川上: ありますよ(笑)。ありますが、ヴェルディ側サポーターで埋められるようになれば、自然とその声はなくなると思うので、ビジターを減らすのではなく、ヴェルディ側を少しでも増やしていく方向で取り組もうと。

「みんなが楽しいスタジアム」とは

──他のクラブにはない、東京ヴェルディの運営ならではの部分ってどういう点でしょうか。

川上: 私自身も思いますし、いろんな方からも声をいただくことなんですが、“スタジアムの雰囲気が温かい”と言われます。

私たちのホームゲームは、老若男女はもちろん、お子様連れのファミリー層が多い印象です。

試合はバチバチした真剣勝負ですが、例えばその前のイベントなどで感じる雰囲気は温かいとお褒めの言葉をいただくことがわりとあるので、私たち運営はその環境を守れるように頑張らないとなと思っています。

2023年にはシーズンコンセプトとして「みんなが楽しいスタジアム」を掲げたんですが、これは未来永劫目指すべき姿だよねという話になり、2024年からはシーズン限定ではなく、ずっと続くスタジアムコンセプトにしました。

写真:親子連れの姿が目に付く/提供:東京ヴェルディ

──面白いですね。具体的にはどんな施策を行っているのでしょうか。

川上: まず、小さなお子さんや親御さんが過ごしやすい雰囲気や空間作りを重視しています。

ファミリー向けの座席を設けたり、マットやブロック、おもちゃを置いたキッズスペースも整備しました。人数が増えた今では、ベビーカーの一時預かりなども行っています。

今後は、インバウンドの増加に伴い、海外からの来場者へのホスピタリティ向上も課題として取り組んでいきたいと考えています。

写真:スタジアムの外で水遊びのアトラクションも/提供:東京ヴェルディ

15年間J2にいたからこそ

──J1クラブであれば、同様の取り組みはされていると思いますが、東京ヴェルディ運営の「温かさ」が際立つのはなぜでしょうか。

川上: 少し変な言い方かもしれませんが、15年間J2にいたということはあるかもしれません。

J2時代、お客さんが1,000人、2,000人しか入らない試合のときにも応援してくれた方々の温かみ、優しいマインドが土台にあるのではないかと。

──なるほど。それはわかる気がします。

川上: もちろん勝負事なので、勝ちにこだわらないといけませんし、J2の環境が望ましいものだったかというとそんなことはないんです。

それでも、勝っても負けても足繁く通っていただいた方々がいて、私たちクラブスタッフ側も“なにかしてあげたい”という気持ちになりますし、選手も頑張ってるんだよと思ってくれるサポーターがいて、相乗効果で気がつけばファミリーみたいな意識が育ってきました。

“ゴール裏だけど一緒に観ようよ”って誘ってくれるサポーターは、他のクラブにはそこまでいないと思うんです。

J1にいる今でもその輪を薄めることなく広げていきたいなと、運営スタッフで再確認しているところです。

写真:温かい声援を受けてプレーする選手たち/提供:東京ヴェルディ

──そのためには、スタッフの意識としては何が必要ですか。

川上:小さな意見にも耳を傾け、地道な改善を積み重ねていくことだと思います。試合終了後にコンコースに出てサポーターの声を聞くことも数多くあり「排他的にならない」という意を強く持っています。

障がいのある方々を対象とした「グリーンハートプロジェクト」も継続的に行っており、これらが輪になって「みんなが楽しいスタジアム」の雰囲気を創り続けたいですね。

勝ち点3を取るには、チームとフロントとサポーター、3つ合わせてやっと勝ち点3だと昔、先輩から聞いて、その志を個人的にも大切にしています。

──胸に響く言葉ですね。お忙しいところ、ありがとうございました。

取材者の目

16年ぶりのJ1復帰という転換期を迎え、動員数は大幅に増えても、運営現場はJ2で培ってきた「みんなが楽しいスタジアム」を裏方として泥臭く準備し続ける。

サッカークラブにおいては、東京もまた、ひとつの地域であることを思い出させてくれる。

写真:J1を戦う東京ヴェルディ/提供:東京ヴェルディ


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