
バスケットボール王国と呼ばれる、愛知県名古屋市。
そのアリーナスタジアムで、10年目の記念すべきシーズンを迎えるBリーグの試合が行われた。名古屋をホームとするファイティングイーグルス名古屋の開幕戦。
相手は現日本代表の渡邊雄太や富樫勇樹を擁する千葉ジェッツ。強豪中の強豪だ。
コートではチームの司令塔・並里成(なみざと なりと)が躍動する。

独特なリズムのドリブル。
変幻自在のパスワーク。
36歳のファンタジスタが、創造性あふれるプレーでファンを魅了していた。
「B1リーグに上がってから、チームは一度も優勝を味わっていないんです。チームもいい状態なので、今シーズンはダークホースになってプレーオフに行きたいですね」
並里が相手のスキを突いて、自らシュートを放つ。美しい放物線が描かれた――。
とある日、並里の姿はチームのトレーニング室にあった。

彼の一日は、体との対話から始まる。まずはヨガの要素を取り入れたストレッチで、じっくり全身をほぐしていく。
「その日その日の体調に合わせて、(トレーニングを)どこまでやるかを探っています」
特に時間をかけるのは、股関節周りと上半身の捩り。
「バスケットには捩じるプレーが多いし、股関節が硬くなるとケガにつながるから」
続いてフィジカルトレーニングに移行すると、そのハードワークに驚かされる。
36歳の現在までBリーグの最高峰・B1の第一線でプレーできるのは、体脂肪率10%を切る鋼の肉体のおかげ。身長17センチの並里は、この日々の鍛錬で2メートル超えの外国人選手にも当たり負けしない体を作りあげている。
午前中いっぱいトレーニングをこなし、ランチタイム。
市販らしき弁当を広げる並里だが、メニューには細心の注意を払っているという。
「ノーファットメニューです。一切悪い調味料は使っていません。油も使ってないはずです」
何をおいても体が資本。ベテランといわれるようになってからは、常に体への危機感を持っている。
ケガのない体を作るため、トレーニングから食生活にまで及ぶ徹底した自己管理。
並里は昨シーズン、チームで2人だけの全60試合の出場を果たしていた。
「本当にバスケット好きなんだなって思います。バスケのためなら何でもやるので」
ちなみに今やチームメイトも食べているという、こだわりの弁当。まとめて発注しているのは並里らしい。
並里は日米の文化が融合する、沖縄市コザで生まれ育った。恵まれた環境と、負けず嫌いの性格がバスケットへの情熱を育んだという。
「何をするのにも負けたくない。小学校の運動会のリレーでも一走やアンカーを任されたり、負けず嫌いな性格ではあります」
高校は日本一を勝ち取る野望のため、名門・福岡第一に進学。
1年生にして早くもその夢をかなえると、卒業後はスラムダンク奨学金1期生としてアメリカ留学。帰るとすぐに、当時の日本バスケットボールリーグやBjリーグで活躍し、幾度も所属チームを優勝に導いた。
そして、2016年に始まった現在のBリーグでは、人気選手の1人として第一線で戦い続けている。
「バスケットを観戦したあとでつまらないと思う人、今まで聞いたことがない。絶対盛り上がるスポーツなんだろうなとは、Bリーグの前からずっと思っていましたね。野球がこんなに盛り上がっていて、サッカーも盛り上がっていて、バスケットはなんでこんなにメディアが入らないんだろうって、結構不思議に思ってきた。(今の盛り上がりは)すごくうれしいですし、こうでなくちゃと感じてます」
午後のチーム練習。キャプテンで最年長の並里の周りには、自然と人が集まる。他の選手たちにとって、彼の一挙手一投足がお手本なのだ。
中でも高校の後輩、神田壮一郎は、並里を兄と慕っている。
「見た目は怖いんですけど、優しいです、結構。僕たちには本当にレジェンド。バスケット自体はもちろん、トレーニングやケアも人一倍やっているので、見て学ばせてもらってます」
遥か後輩の神田が余計なことをいわないように、並里が目を光らせている。もちろんふざけ半分の師弟コントだ。
熱を帯びるチーム練習。並里が所属するファイティングイーグルス名古屋は、昨シーズンからメンバーの半分が入れ替わり、ガラリと生まれ変わった。
彼らが実践するのは、ルーベン・ボイキンSVC(スーパーバイザーコーチ)が掲げるタフなバスケット。強いフィジカルで前線からプレッシャーをかけ、ゴール下で負けないファイトをむき出しにする。
チームの今シーズンの目標はB1昇格以来、一度も果たせていないプレーオフ進出。休憩時、並里は汗を拭いながら自信をのぞかせる。
「今年、めっちゃいいチームですよ。みんな真面目。外国人選手も真面目。変な負け方はしないチームになったと思うので、楽しみです」
「カッコいいでしょ?」

練習後、駐車場に案内してくれた並里は、ド派手な愛車を披露する。バスケ界のファッション番長としても名を馳せる彼が、大好きな洋服と共にSNSに登場させる白のロールスロイスだ。
「ベンツと悩んで、思いきってこっちに決めました。運転の姿勢で腰をダメにしたり、疲労が溜まったりするので、なるべく運転中も疲労を溜めないようにって考えたとき、これ(ロールスロイス)が一番だったのが決定打でしたね」
並里は生活趣向まで、すべてバスケにつながっていた。
立ち寄ったカフェで、自身のライフワークを語ってくれた。それは、2年前から全国各地で開催している小中高生向けの合宿プログラム。

「子どもたちにはたくさん教えたいですね。成功例だけじゃなく、失敗例も伝えていかないとダメだと思っています。これを現役でやるから、説得力があるんですよ。そのほうが格好いいじゃないですか」
自ら実践する背中を見せて、学んでもらう。そんな並里の方針は、チームメイトの後輩たちへの接し方にも共通している。実は、息子のタイラー君も例外ではない。
帰宅した並里が、タイラー君の練習に付き合っている。彼も物心ついたころから父の背中を追いかけ、ドリブルで遊んでいたという。
「将来はNBA選手になりたいです。(自信は?)あります」
ポーカーフェイスを装う並里の頬が、かすかにほころんだのを見逃さなかった。
「『子育ては環境』って聞いたことあるんですけど……今のところ上出来ですね」
10月4日の名古屋。
並里成のファイティングイーグルス名古屋は、日本代表の渡邊雄太、富樫勇樹を擁する強豪・千葉ジェッツとのBリーグ開幕戦を戦っている。


序盤、名古屋は前線からプレッシャーをかける。さらにゴール下では、徹底したブロックで千葉の攻撃を封じていた。
司令塔の並里はドリブルでタメを作って、攻撃のリズムを生み出す。そして、スキあれば自らシュート。得点を重ねる。
名古屋がゲームの主導権を握り、前半を6点リードで折り返した。
だが後半、疲れが見え始めた名古屋は千葉の守りを崩しきれない。自力に勝る千葉が反撃に転じると、その攻撃を止めることができない。
連続ポイントで逆転を許してしまった。
その後、必死に食い下がる名古屋だったが、3点差で接戦を落とし、黒星スタートのシーズンとなった……。
クールダウン後、コートを去る並里。
「強度の高いバスケットはできていたと思います。これからみんなのコンディションが上がっていけば大丈夫」
敗北からも手応えを感じているようだ。チームをプレーオフに導く――その思いにいささかの揺らぎもない。
「応援してくださる人のために、これからも全力でいきますよ」
36歳のベテラン、並里成は情熱の炎を隠さない。
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