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専修大学男子バスケットボール部「自分たちらしさ」_CROSS DOCUMENTARYテキスト版

コートにブザーが鳴り響き、第4クォーター10分の激しい攻防が終わりを告げる。

 

2022年5月8日。関東大学バスケットボール選手権大会(通称・スプリングトーナメント)、専修大学は最大のライバル白鴎大学を下し、18年ぶりの優勝を決めた。監督、佐々木優一(40)の目には光るものが・・・

 

専修バスケ部のOBでもある彼が、どん底にあったチームを引き受けてから9年目。長い年月をかけてのチーム作りが実った瞬間だった。

 

 

それから3ヵ月後の8月20日。第98回関東大学バスケットボールリーグ戦(通称・オータムリーグ)が開幕。専修大学は初戦を圧勝で飾る。目指すはもちろん2つ目のビッグタイトル、リーグ優勝!

 

チーム力と佐々木の手腕が問われる、三カ月に渡る戦いに密着した。

 

9月30日、秋の夕暮れ時。昼間は専修大学の職員として働く佐々木が、体育館に向かう。監督の顔に変わる瞬間だ。

 

「明日から(リーグ戦)後半戦が始まるけど。自分たちのバスケを40分やり通すこと、いいね?」

 

選手たちを前に、静かに、それでいて熱っぽく語る佐々木。専修大学は、この日までリーグ戦13試合を戦い、11連勝を含む、12勝1敗。前半を首位で折り返していた。もちろん慢心は無い。佐々木は後半初戦の相手、国士舘大学の戦力を緻密に正確に分析し、選手たちに伝えていく。

 

「(国士舘大学は)大敗した試合が無い。力のあるチームだから、油断すると(やられる)判るよね?」

 

翌日10月1日。オータムリーグ第14節、国士舘大学戦。専修大学は、固いディフェンスと、積極的なリバウンドで、試合を支配していく。そして個々の力を活かしたオフェンスで、ポイントを量産!92対64での圧勝だった。だが、監督の佐々木は、ひとり不安げな顔で、選手たちを集める。

 

 

「(第2クォーターまでの)前半の失点は19で抑えたのに、(第3、第4クォーターの)後半は45点やられてる。これもったいないよ」

 

ただ勝つだけではなく、勝ち方の質に拘っていきたい。佐々木はそう語る。その思いの裏には、9年前、監督就任時の悪夢の記憶があった。

 

「リーグ最下位で、下のリーグとの入れ替え戦をやって・・・ もう二度とあんな思いはしたくないというところから這い上がって来たので・・・」

 

だからチーム力が充実している今も、油断すれば足元をすくわれる・・・ 佐々木は気を引き締めた。

 

佐々木がバスケットボールと出会ったのは、小学生の頃。青春の全てをバスケに捧げてきた。専修大学バスケットボール部ではキャプテンを務め、リーグ優勝に貢献。大学卒業後はコーチとしてチームに残り、2014年、監督に就任した。だが、その当時はチーム力がどん底にあった頃。佐々木は重責に圧し潰されそうな日々を送っていた。

 

「先輩たちが繋いできた(1部リーグの)ステージを落としてしまうんじゃないかという恐怖ばかりが先に立っている状態で・・・」

 

しかも佐々木自身に、どんなチームを作っていきたいかのビジョンもなく・・・

 

「もう病気みたいになっていました」

 

そんな時、彼の目に飛び込んできたのは、自身が学生時代に貼ったという、体育館の壁の【DEFENSE(ディフェンス)】【REBOUND(リバウンド)】の文字。

 

「ずっとそこにあったはずなのに、目に留める余裕すら失っていたんでしょうね」

 

 

当時、一時的な不調に陥っていたチームを鼓舞するための金言。ディフェンスで体を張り、あきらめずにリバウンドを取りに行くこと・・・ チーム全員でコミョニケーションを取りながら、この2つのことを守り通した結果、チームは復調し、その年のリーグ戦で優勝を果たしたのである。佐々木は、この時の経験を基に、新たなチーム作りを進めていく。

 

そして現在、専修大学バスケ部のスタイルは・・・ 選手個々の選択を尊重するオフェンス。チームとしてのルールを定め、全員で遂行していくディフェンスとリバウンド。この佐々木イズムともいうべきスタイルによって、チームは年を追うごとに進化し、2022年のスプリングトーナメント優勝で花開いたのである。

 

加えて佐々木は、チームが円滑に機能していくために、選手たちとのフランクなコミュニケーションを大切にしている。フォワードの3年生、米山ジャバ偉生は言う。

 

「僕らは、優一さんと呼ばせてもらっていて、何でも話せる空気を作ってくれて、ありがたいです」

 

そんな彼の胸に刻まれる言葉は、コートでのプレーヤーとしてのあるべき姿。

 

「自由に(自分のイメージで)プレーしていいけど、好き勝手やってはダメと言われたのがすごく沁みて・・・」

 

個の力を尊重することが、チームプレーに活かされることを、佐々木は期待するのだ。久しぶりのリーグ優勝のためには、それが欠かせない。

 

だが、リーグ後半初戦の勝利の後、佐々木が抱いた不安は的中してしまう。第21節までの7試合、専修大学は目に見えて失点が増え、3勝4敗。リーグ3位と順位を落としていた。

 

「相手に研究されてきて・・・ 追われる立場のつらさを初めて味わっている状況です」

 

しかも、主力選手4人が、相次いでケガでチームを離脱。リーグ戦は残り5試合。全勝するしか、優勝の目は無い。

 

 

そんな苦境の中、優勝へのキーマンとなる男がいた。キャプテンの4年生、得点に絡むガードポジションを務める、喜志永修斗。U18の日本代表でもあった実力者は、二年前の両ひざ靭帯断裂から、長く辛いリハビリを経て、最後のオータムリーグでコートに復帰したばかりだ。ここまで、少しずつ試合勘を戻しながらやってきたが、もう形振り構ってはいられなくなった。

 

「優一さんは(試合勘を)戻すために試合には毎回、絶対に出すって言ってくれて・・・」

 

信頼に応えたい・・・ 喜志永は燃えていた。

 

運命のラスト5試合。第22節の拓殖大学戦。専修大学は苦戦しながらも、63対57で逃げ切った。だが、佐々木の表情は険しい。

 

「(相手にボールを奪われる)ターンオーバーが26回。これじゃあ(この後の試合)絶対勝てない」

 

チームを顧みない、個人プレー頼み・・・ 佐々木は傷口が広がらないうちに警鐘を鳴らしたのだ。

 

 

第23節、中央大学戦。キャプテン・喜志永の3ポイントシュートで先制した専修大は、その後激しい攻防を繰り返しながらも、リードをキープ。72対69で勝利し、希望を繋いだ。厳しい戦いの中でも気持ちを前面に出す、専修大学本来の姿を取り戻した一戦。佐々木は、やっとその表情をほころばせた。

 

第24節、大東文化大学戦。リードを許す苦しい展開の中、専修大学は攻守に渡って集中力を切らさない。第4クォーター、ラスト40秒。喜志永が、サイドの〇角度からシュートを決める!

 

「大事な局面こそ、自分がやらなければと思っていたので、やっと勝負所での勘が戻って来た感じでした」

 

結局、このゴールが決め手となり、専修大学は61対59で勝利した。

 

 

結論を先に言えば、専修大学は残り2試合にも勝利し、5連勝。最後まで望みを繋いだが、最終順位は2位。リーグ優勝を果たすことは出来なかった。それでも佐々木は『専修らしさ』を取り戻した選手たちを誇りに思う。

 

「コミュニケーションを密にして、選手たちが成長していく姿を見られることに(監督としての)やりがいを感じています。バスケットやってて良かったなと思える日々を過ごさせてもらっています」

 

 

佐々木優一率いる、専修大学バスケットボール部は、次の戦いに向けて、すでに始動している。関東大学バスケットの三大イベント、スプリングトーナメント、オータムリーグ、そしてインカレ。『専修らしさ』で3冠を目指していく。

 

追記・第98回関東大学バスケットボールリーグ戦において、専修大学4年生の喜志永修斗は、優秀選手賞を授与された。

 

 

TEXT/小此木聡(放送作家)

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