
「学校の体育施設を開放すれば、遊び場が60%増える」スポーツ庁が描く、地域で支え合う環境構築への道のり
課題は自走化。地域で支え合う組織体の構築へ
ー先日、流通経済大学付属柏中学校・高等学校のラグビーグラウンドで開催された実証の取り組みにご参加いただいたかと思いますが、その取り組みについての感想をお聞かせください。
岡部:実証の取り組みに参加していた子どもたちは、プログラムも楽しんでいたと思いますが、その前後の自由時間にボールを蹴ったり投げたりと思いっきり遊んでいて、普段抑えている何かを大いに発散しているように見えましたね。
また、人工芝のグラウンドという環境も良かったと思います。転んでも比較的安全で、遮るものがなく、親御さんがお子さんをしっかり見守れるサイズ感も適切でした。普段はあまり遊ぶ機会のない人工芝で自由に遊び回る子供たちの姿を見て、このような場を提供する価値を強く感じました。今後の課題は、この活動をどのように継続させることができるかということです。
ー現状、このような取り組みを継続させるうえでどのような課題を感じていますか?
岡部:今回は委託事業者が中心となって大学・大学生を含めたスタッフのおかげでプログラムを実施できたと考えます。しかし、同じ形式で定期的に行うのは、正直なところ難しいのではないかと考えます。この取り組みを自走させるためにも、地域の方々との連携や、ICT技術を利用した防犯カメラによる見守りなど、何らかの仕組みを取り入れる必要があると考えています。
そしてコスト面の問題もあります。コモンズという考え方のもと、地域の人たちが自然に集まるような場を作り、例えば、今回のように大人や学生が関わり、共に運動・スポーツを実施することに加え、地元を良く知る方が時折来てくださって、その土地の歴史や文化を子どもたちに教えるといった地域づくり体制が構築されるとよいのではないかと考えます。これは、スポーツ活動に留まらず、学校を核としたコミュニティ形成に近いかもしれません。
ー学生たちがこのような取り組みに参加することの価値や可能性について教えてください。
岡部:特に大学生には、可能性を感じます。大人としての自覚を持ち始める年頃ですし、日常生活で地域の方々と自然に接触する機会もあります。そのため地域に関わることで社会に対する意識が高まり、悪い行いを避けて地域貢献への意欲も高まるかなと。さらに、大学生が地域活動に積極的に参加することで、子どもたちにとって彼らが憧れの存在となり、良い循環を生み出す可能性もあると思います。
スポーツをする場が地域の子どもたちの「居場所」になる
ー今回の事業の実施にあたり、「コモンズ」という考え方をもって取り組まれていましたが岡部さんの視点から、この取り組みはどのように見えていますか?
岡部:「コモンズ」という考え方は良い考え方だと感じています。例えば、子どもたちが自由に校庭を使えるようにすると、昼間は良くても、夜間は騒音や照明の問題で苦情が出ることもあります。この理由としては、学校体育施設がスポーツをする人のためだけに存在しており、スポーツをしない人にとっては無関係な場であるから、生活への不利益が苦情につながってしまうのだと考えます。
しかし「コモンズ」の考え方を取り入れることで、その場所がスポーツのための場ではなく、誰もが気軽に訪れることができる地域コミュニティの場とするために、場を再定義することで、今まで自分には関係ないと思っていた地域の方々がその場所を自分の居場所として捉えるようになり、結果的には苦情が減るといった副次的効果が期待できると思います。運動・スポーツは、様々な取組への親和性も高いことから、スポーツをフックとし、地域スポーツ、地域コミュニティを担う場となることを期待しています。
また、このように学校体育施設が地域にとって重要な場所であれば、施設の改修や撤去が必要になった時でも「この場所は守るべき」といった声が上がりやすくなります。その点でも「コモンズ」という概念は魅力的です。スポーツ庁としても、単に運動するところではなく、地域に対する効果や価値を見出し、地域や地域スポーツにとってなくてはならない場を作っていきたいです。
ー最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
岡部:スポーツというと競技的な側面が強調されがちですが、フィットネスや体を動かすことは、ライフパフォーマンスを高めていく上で必要不可欠です。心身に多様な変化を与える運動・スポーツを実施し、それぞれのライフステージにおいて最高の能力を発揮できる状態を目指すことは、健康の保持増進はもとより、QOL(Quality of Life、生活の質)を高めることなど、生きがいのある充実した生活を送ることにも寄与します。室伏長官も日頃からこのようなライフパフォーマンスの向上に向けた目的を持った運動・スポーツの重要性を述べています。
もちろん積極的にスポーツをするに越したことはないですが、それ以上に重要なことは日常生活における身体活動を促進するための工夫です。引き続き、「地域において、誰もが気軽にスポーツに親しめる場づくり」を推進していきますので、ぜひ今後の取り組みに注目いただければ幸いです。
安心安全のスポーツ環境構築へ、地域の繋がりが未来を変える
これまで様々なステークホルダーの声をお届けしてきたなかで、未来に向けた気軽にスポーツに親しめる場づくりには、地域で生活するすべての人々が連携しながら安心で安全な環境を構築していくことが不可欠だということが分かりました。
特に、今回は子どもたちがのびのびと身体を動かし、その保護者が安心して見守ることができる。先日の実証で見ることができた、そんな光景を日本全国に広げていくために。今後もスポーツ庁の取り組みに注目していきます。
☆今回の流通経済大学付属柏中学校・高等学校の実証で開発した、ボール遊びと鬼ごっこを掛け合わせたプログラムの遊び方は、こちらからご覧いただけます。
①ハンドリングおにごっこ
https://youtu.be/V276cGzgirk?si=pSFeMWPjLguSf7IK
②パス追いかけおにごっこ
https://youtu.be/K-iyxZiBdf4?si=C8ksFTsbx1zoIUZ5
③ボール氷おに
https://youtu.be/qZIjExVX4NE?si=nv9QUhh7MPl03p8E
④チェイサーシューティング
https://youtu.be/GTwY8pgm91A?si=5zpVPPRyt29rw60F
全プログラム紹介
https://youtu.be/kwj48PR_B-Y?si=5KH-OLGXIcUKQL1M
<関連記事>誰もが気軽にスポーツに親しめる場づくり実現に向けて
第一弾 『子どもたちに自由な遊び場を!スポーツ庁が進める学校体育施設の有効活用に対する「コモンズ」の可能性とは』https://azrena.com/post/19783/
第二弾 イベントレポート『自由な遊び場は、すぐそこにある。学校施設開放イベントで見えた未来「また、ここで遊びたい」』https://azrena.com/post/19915/
第三弾 地域と子どもの繋がりが未来を変える。活動継続のために、スポーツ庁が「学校」に着目する理由
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