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プロゴルファー・勝みなみ「今までの自分を越えたい」_CROSS DOCUMENTARYテキスト版

2014年、JLPGAツアー・KKT杯バンテンリンレディス。優勝杯を掲げたのは、高校一年生のアマチュアゴルファ—・勝みなみだった。

当時15歳と293日。ツアー史上4人目のアマチュア優勝は、長年に渡って宮里藍が保持していた、最年少優勝記録を塗り替えるオマケ付きだ。まだあどけない表情を残す彼女に、多くのゴルフファンが、未来の大輪の花を予感した。

8年後の現在、髪が伸び、すっかり大人びた彼女が姿を見せる。プロゴルファー、勝みなみ。今、ツアーの中核を成すと言っても過言ではない、1998年生まれの黄金世代。その中にあって、彼女は最初に頭角を現した、いわば同世代の筆頭株だ。

コロナ渦の影響で、2年続きとなった昨シーズン、勝は最高峰の国内メジャー、日本女子オープンを含む2勝を揚げ、賞金ランキング7位。プロ生活5年でのキャリアハイの成績を残した彼女だが、決してそれに奢ることは無い。

「私はいつまでも新人のつもりでというか、高校生の時からずっと試合に出させてもらっているので、その頃からの気持ちを大切にしたいんです。色々な人とお話しさせてもらいながら、色々なことを吸収させてもらいながら成長していきたいと思っています」

プロ6年目となる2022年のオフシーズン、勝の姿は地元鹿児島にあった。そこでは、彼女が愛してやまない、祖父・龍作さんとのひと時も・・・ この祖父こそ、勝がゴルフを始めるきっかけとなった人物だ。

「孫と一緒にいたくて、自分の好きなゴルフを奨めたんですよ」

あくまでも自分の老後の楽しみのために。だから、今の勝の姿を、一番驚いているのは龍作さんなのかもしれない。

勝は地元に戻った時は必ず、そんな龍作さんとラウンドを楽しんでいる。祖父の夢は叶えられたのだ。ちなみに、彼女のダイナミックなスイングの基礎は、孫と祖父が話し合い、独自に編み出したのだとか。

「祖父は、私の最初のコーチです。ゴルフの楽しさを教えてもらいました」

しのぎを削り戦うプロ生活での、束の間の休息。同時にそれは、次なる戦いへの英気を養ってくれる。

『祖父の喜ぶ顔を見たいから、何だって出来る』

そんな気になってくるのだ。

そしてもう一人、勝のゴルフ人生を支えてきた人物がいる。母の久美さんだ。元小学校教員。勝が高校生でプロトーナメントに勝利した頃、その安定した職を投げ売って、プロゴルファーを志す娘に寄り添うことを決断する。

「父親も小学校の教員で、この頃、与論島に単身赴任していましたから。娘の夢を叶えるには、私しかいないっていう気持ちでしたね」

母娘二人三脚で歩むゴルフ人生。久美さんは全試合に帯同し、キャディーを務め、どんな時も勝を見守り続けてきた。これ以上ない味方が、いつでも側にいる・・・ それでも、この取材中、勝はふと、ゴルフに覚える悩みを打ち明ける。

「ジュニアの時には考えもしなかったんですけど、プロになって色んな経験を積んでいくにつれて、難しさというか何か求めるものが大きくなるから、そこの体と心のズレが大きくなりますね」

調子が良いからと言って、優勝出来るわけではなく、逆に予選落ちをしてしまうこともある。

「すごい不思議・・・ゴルフって本当に不思議なスポーツ」

勝みなみは1998年、鹿児島で共に小学校の教員を務める両親の下に生まれる。名前は、漫画《タッチ》のヒロイン、浅倉南に因んで付けられた。6歳の時、祖父の奨めでゴルフを始めると、すぐにその魅力にのめり込んでいく。

2010年、小学五年生で『全国小学生ゴルフトーナメント決勝大会』で優勝し、頭角を現すと、中学生では『九州女子ゴルフ選手権』で大人達を退け優勝。高校生になると、前述の国内女子ツアー『KKT杯バンテリンレディス』を始め、『日本ジュニア選手権』や『日本女子アマ』を制し、同世代ナンバーワンの座を不動のものにした。

そして高校を卒業した2017年、合格率およそ3%のプロテストに1発合格!翌2018年にはプロ初優勝、2021年には国内メジャーも制し、アマチュア時代の勝利も含め、国内ツアー6勝をマークしている。

だが、彼女が満ち足りることはなかった・・・

後日、トレーニングを開始した勝の下を訪ねる。現在の彼女の武器、その一つは飛距離だ。身長157センチと小柄ながら、2018年シーズンの平均飛距離は245ヤードでツアー11位。これも立派な記録だが、昨シーズンは一気に10ヤード近く伸ばし、平均254ヤードで2位。ツアー屈指の飛ばし屋に変貌を遂げている。

秘密は、オフでのトレーニングにあった。無論、以前からその重要性を感じ、彼女なりに実践してきた。しかし2020年、試合が無くなったコロナ渦で何が出来るのか・・・ そこで改めて自分の体を見つめ直したのだ。

「2年前は週5のトレーニングで、体作りに専念しました。体がひと回り大きくなって、間違いなくパワーアップしました。今年のテーマは、柔軟性を高めるトレーニングも入れながら、柔らかい中にパワーがあるような体になりたいなと思ってます」

ジャパンLPGAツアーは3月から11月まで、ほぼ毎週試合が開催される。その中で重要になってくるのが、シーズンを通して戦える体力だ。特に夏場は、多くの選手が大幅に体重を減らしてしまうほど、過酷な状況に置かれる。だからこそ勝は、体力強化に加え、スタミナアップの重要性を強く感じていた。

勝のトレーニングが始まった。ストレッチで充分に体をほぐしてから、休むことなく1時間、ハードで基礎的なフィジカルトレーニングが続けられる。特に体幹を鍛えるメニューは『つらすぎる、やりたくない』そうだ。

「2年くらい前から、体力づくりとか、ケガをしない体づくりっていうのをしっかりやってきて、今その体にも慣れてきて扱えるようになってきているので、後は柔軟性を上げて、しなやかさも兼ね備えながら、ムチのようなイメージで打てるように、取り組んでます」

テーマは、方向性を犠牲にせず、いかに飛距離を伸ばしていくか。日本では飛ばし屋に数えられる勝だが、アメリカでは極平均的な数字でしかない。

「近い将来、アメリカのLPGAツアーでも戦いたいんです」

勝のトレーニングを指導する、熊山陽香トレーナーは言う。

「強さと柔らかさ、色んな要素がマッチしてきた感じで、いい状態だと思います。でも、伸び代はまだまだありますね」

先々をも見据え、勝の研鑽は続いていく。

トレーニングの仕上げは、再び入念なストレッチ。実はこのストレッチの効果が馬鹿にならない。

「スイングの可動域が広がるので、飛距離アップには欠かせなくなりました」

こと飛距離においては、欧米はもちろん、日本国内でも長身の選手が有利なのは、紛れもない事実。そんな中、今や日本ツアー屈指の飛ばし屋・勝みなみの身長は、157センチ。20代の日本人女性の平均とほぼ同じだ。

「飛ばしたくてこのトレーニングを始めたわけじゃないけど、基礎でここまでいける、自分に足りなかった基礎を足していくだけで、ここまで変われるんだってことが判ってもらえたらいいですね」

勝の取り組みは、後続たち、多くの女性ゴルファーの指標となっていく・・・

ありきたりだが、彼女に2022年シーズンの目標を聞いてみた。

「メジャーで優勝したいです。気持ち的に去年の日本女子オープンの優勝で、見える景色というか、達成感が全然違ったので・・・勝ちたいですね。後は、シーズン3勝以上。ずっと2勝止まりだったので、今までの自分を越えたいんです」

プロゴルファー勝みなみ。

インスタグラムを覗くと、彼女の周りに集まった、仲間たちの笑顔の写真が目立つ。勝が求めるのは、意外にも『勝利』や『強さ』だけではないのだ。

『世界一愛されるプロゴルファー』でありたい。

自分のプレーで、多くの人々に勇気と感動を届けるために、彼女の闘いは続いていく。

TEXT/小此木聡(放送作家)

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