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高知中央高校女子硬式野球部「親友以上に築かれた絆」_ CROSS DOCUMENTARYテキスト版

サードゴロのボールがファーストミットに吸い込まれ、ゲームセット。「全国高等学校女子硬式野球選手権大会」準決勝、歓喜の声を上げたのは、創部わずか3年目の高知中央高校女子硬式野球部の少女たち。

「日本一になって、みんなに恩返しがしたい」

キャプテンの氏原まなかは、インタビューにそう答えた。

決勝の舞台は、高校球児の聖地、阪神甲子園球場。彼女たちの一番熱い夏はまだ終わらない。

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「もうイヤや……」

「日本一キツい……」

決勝を間近に控えたある日、部員たちが厳しい練習に音を上げながらも、体はしっかり動いている不思議な光景を目にした。チームを率いる、情熱の人、西内友宏監督はいう。

「取材に来た新聞社の方が、こんなに走ってる学校、男子でもないですよって」

猛暑の中でも十分に対策をしたうえで、その練習方針に変わりはない。これが全国大会決勝進出を果たしたチームの骨太な基礎を作り上げているのだ。

創部一期生の3年生たちには、西内監督の最初の言葉が今も胸に刻み込まれている。

「2年後、日本一になるぞ!」

聞いたときは半信半疑だった。しかし今、その言葉を現実のものにするチャンスが訪れている。最後の夏、悔いは残したくない。

ちょうどこの頃、彼女たちは壁にぶつかっていた。

決勝の相手、神戸弘陵学園は全国大会3度の優勝を誇る強豪。はっきりいってしまえば格上だ。それでも勝機はある。カギは神戸弘陵のサウスポーエース・日高投手の攻略。そこで、サウスポーを有する少年野球チームを招いての実戦練習に臨むが、まるで打てない。バットは空を切るばかり。そもそもサウスポーピッチャーとの対戦経験に乏しく、彼女たちに焦りが募る。

散々な練習の後、西内監督は声を荒らげることなく語りかけた。

「今、この環境にいられるのは、うちと神戸弘陵だけ。それをどう喜びに変えるのか? どう楽しみに変えるのか?そこをもう一度かみしめてください」

彼女たちの目に、再び光が宿った。

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女子硬式野球部、部員の多くは県外出身者であるため、ほとんどが親元を離れ、寮生活を送っている。文字どおり同じ釜の飯を食う仲間だ。

それでも一期生である3年生の中には、ホームシックに悩まされた者もいる。救ってくれたのは同室の部員。毎晩、彼女のベッドに潜り込んで眠った。

「一緒に寝ることで、寂しさを埋めてもらいました」

TikTok動画の投稿で、部員の勧誘や女子野球の普及に貢献している、3年生の松本里乃。彼女は、日常のすべてを共に過ごす野球部員たちの存在について口を開いた。

「親友なんかじゃないです。家族なんです」

黙々と机に向かってペンを走らせるのは、キャプテンの氏原まなか。卒業後は看護師になることを目指し、練習の合間をぬって受験勉強にいそしんでいる。

野球は高校までと決めていた。それでも、今は新たな思いが芽生えている。

「女子野球の指導者になってみたいんです」

照れくさそうに西内監督の教えや、結果の出る喜びを伝えていきたいと語ってくれた。

「まだ、監督には言ったことがないんですよ」

しかし、この夏が終われば、寮を出ることが決まっている。家族と過ごす、かけがえのない日常もあと僅かだ。

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全国各地で記録的な大雨となった8月。幾たびの順延を経て、高校女子野球全国大会の決勝が、聖地・阪神甲子園球場で幕を開けた。

攻撃の口火を切ったのは、高知中央。神戸弘陵のサウスポーエース・日高投手の一投を、ライト前に打ち返す。これが、女子選手が甲子園球場で放った初めてのヒットになった。

だが、得点には至らず。逆に2回の裏、神戸弘陵にスクイズによる先制点を許すと、この回、一気に4点を奪われてしまう。

ここから、試合は膠着状態に。高知中央はヒットこそ出るものの、得点にまではつなげられない。神戸弘陵の強力打線を抑えながら、チャンスを待つ。

6回の表、それは来た。2アウト満塁。バッターボックスには四番、キャプテンの氏原。

(君たちならできる。できるからここにいる)

西内監督の激励を胸に、氏原はフルカウントまで粘りに粘る。が、最後はバットが空を切り、三振。無情のときが、スローモーションのようになって襲い掛かった。

試合は結局、高知中央最後のバッターがレフトフライに倒れ、神戸弘陵学園の4度目の日本一が決まる。高知中央高校女子硬式野球部、彼女たちの夏にゲームセットが告げられた……。

試合後、3年生が後輩に後を託す儀式が行われ、それが終わると、彼女たちに持ち前の明るい笑顔が戻っていた。

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「親友なんかじゃないです、家族なんです」

結局、創部からわずか2年半で全国2位となった原動力は、この言葉に尽きるのではないだろうか? 切っても切れない絆(きずな)があるからこそ“日本一キツい練習”に耐え、困難にも逃げることなく共に立ち向かえた。

そしてその絆は、これから先も受け継がれていくのだろう。

第二章の幕は、すでに上がっている。

TEXT/小此木聡(放送作家)

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