大谷憲弘。格闘技からパワーリフティングに転向した経営者の素顔

今回はパワーリフティング・大谷憲弘選手のインタビューです。2014年には全日本選手権で優勝するなど、日本代表選手として活躍されており、昨年は世界ランキング7位でした。74kg級スクワットで300kgという日本記録(当時)も出されています。現役アスリートとしてだけではなく、トレーニングジムESQUATIR(エスクァティア)の運営、エクスプロージョン合同会社のCEOを務め、エナジードリンクの開発もされています。

格闘技からパワーリフティングへ競技を転向

– パワーリフティングとは、どのような競技か教えていただけますか。

パワーリフティングは、ウエイトリフティングと間違えられやすいのですが、種目が違います。 ウエイトリフティングがスナッチやクリーン&ジャークのようにバーベルを頭上に差し上げる種目の重量を競うのに対して、パワーリフティングは、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトの3種目の最大挙上重量の総計を競います。

– パワーリフティングを始められたきっかけを教えて下さい。

中学生から25歳くらいまでは格闘技をしていました。最初は空手を習い、その後は総合格闘技を始めました。25歳の頃、もっと上を目指したい、強くなりたいと思い、本格的にウエイトトレーニングを取り入れることにしました。自分の身体がベンチプレスやスクワット、デッドリフトで成長することが楽しく、のめりこむうちにもっと強くなりたいと思うようになりました。ベンチプレスやスクワットは競技記録の日本一まで距離が近く「行ける!」と確信していました。その後、本格的にパワーリフティングで世界一になりたいと考え転向することにしました。

– 空手をしていた時にもウエイトトレーニングはされていたのでしょうか。

本格的にトレーニングしたことはなかったですね。高校1年生の時は体重53kgでベンチプレス100kgを挙げることが出来ました。しかし、いま考えると当時のベンチプレスは危険なフォームでお尻も浮いたベンチプレスでした。

– 100kgはすごいですね。元々トレーニングは好きだったのですか。

好きではなかったですね(笑)道場の先輩方にやらされていたという感じが強かったです。

– 100kg 上げるための秘密が何かあったのでしょうか。

住んでいるところが海に近くて、ずっとサーフィンをしていたので、背筋はすごく強いほうだったと思います。サーフィンは全身を使うスポーツなので、楽しみながら鍛えられていたのかもしれません。

大谷憲弘

– 格闘技からパワーリフティングへ競技を転向することに迷いはありませんでしたか。

いきなり格闘技からパワーリフティングに100%変更したわけではなく、格闘技が強くなるためにウエイトトレーニングをしていました。ウエイトトレーニングを本格的に行うにつれて挙げられる重量や筋肉の質もどんどん変わっていきました。パワーリフティング競技の練習は自分の性格にも合っていたので、少しずつパワーリフティングの方に移行していきました。

– パワーリフティングの魅力を教えて頂けますか。

自分が練習してきた成果がしっかり数字に現れ、なおかつ、目に見えて身体にも変化が分かるので楽しいです。もちろん自分が怠ければ、記録も見た目も衰えます。

筋肉は年配の方でも、誰でも成長できるものです。トレーニングをすれば、少しずつ体つきも変わっていきます。何年トレーニングをしても常に成長を実感していけることは一番の魅力だと感じていますし、面白いところだと思います。長年やっていると1kg記録を伸ばすにも数ヶ月かかったりするので、自己ベスト記録を更新するのはすごく嬉しいことですね。

– 反対にこれはきついと感じることはありますか。

ないですね。しんどいと思ったこともないです。自分や仲間の成長を楽しみながらも、常に克服すべき課題がクリアできるよう考えながら練習しています。

– 練習を見ているとなかなか辛そうに見えます。

きついのはほんの数秒ですし、インターバルも多いのでそこまで辛くはないです。あとは慣れていくというのもありますね。練習では目標や目的のモチベーションをしっかり保ち集中すれば、あっという間に練習時間が過ぎていきます。

自分の思った通りの練習出来る場所が欲しかった

– 大谷さんがジムを開かれたきっかけを教えて下さい。

きっかけは自分が自分の思った通りの練習出来る場所が欲しかったからです。家でホームジムを作る方もいるのですが、いつでも練習出来るというメリットがある反面、交流がなく、情報交換ができなかったり、仕事の疲れなどでモチベーションが下がってしまったりするといった、デメリットもあります。仲間の記録が伸びたのを見て、それに刺激されたり、練習方法を共有したり、スクワットの補助についてもらったりと、1人ではなかなかできない部分もある競技なので、コミュニケーションが大切でもあると思っています。楽しく感化され合うコミュニティを作ろうと思いスタートし、実現することが出来ました。

ESQUATIR

– ジムにはどういった方がトレーニングに来られますか。

会員は中学生から年配の方まで来られています。女性の方も多いですよ。自分がパーソナルトレーニングをしている50~60代の方々も元気にトレーニングに励んでおり、いい筋肉とモチベーションを持っています。その方は120kgを担いでスクワットをしています。腹筋も割れています。

– ジムの他にも何かお仕事をされているのでしょうか。

普段は飲料メーカーの会社の社長をしているので、平日の早朝から晩まで仕事をして、そのあと夜20時から午前1時あたりまで練習という生活をしています。

– 大谷さんは※フリーウエイトにこだわられていますが、その理由を教えてください。

マシントレーニングも沢山のメリットがあるのですが、フリーウエイトでしか出来ないことも多くあります。例えば、スクワットで様々なパターントレーニングや全身を鍛えることが出来ます。さらに工夫をすれば強くしたい部分をより鍛えることができます。うちのジムはボディビルダーが鍛えるには向いていないかもしれませんが、パワーリフティング・ウエイトリフティングのトレーニングには問題ないと思います。

※フリーウエイト:バーベルやダンベルを用いたトレーニング。
マシントレーニング:マシンを用いて固定の部分を決まった動きで鍛えるトレーニング。

– ウエイトトレーニングに関して一般の人が知らないことや、勘違いしていることはありますか。

よくあるのが、ベンチブレスで何kg上がったと言う人もいますが、実はやり方がいろいろあるんです。お尻を浮かしたり、つま先で蹴ったり、手の幅などによって記録は大きく変わるので、100kg上がる人でも、公式のフォーム(背中・お尻・足をしっかりつける)だと60kgしか上がらなかったりします。

スクワットでも同じですね。太ももの角度(しゃがむ深さ)が変わるだけで100kgくらいは変わってきます。なので、一概にベンチプレスやスクワットの記録を言われても、基準が同じかどうかは判断できません。

– パワーリフティングはどこの国が強いのでしょうか。

北欧、ロシア、ウクライナはかなり強いですね。骨格も力も出やすい形をしていて大きく、寒い地域の方が※速筋繊維の割合が大きいというデータもあります。

※速筋繊維:大きな力を瞬間的に発揮する為の筋繊維

【後編】へつづく

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