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榊道人が語る、オーストラリアンフットボールの魅力。
チームメイトからかけられた印象に残っている言葉
——現在AFL Japanのリーグは7チームで戦っていますが、選手の皆さんはそれぞれ別のお仕事をされているのでしょうか。
そうですね。日本はまだアマチュアのリーグなので、社会人は平日仕事をして、週末は競技に充てています。同じように学生も学業と並行してプレーをしています。将来的には分けるかもしれませんが、学生チームと社会人チームが同じリーグでやっているのは珍しいかもしれませんね。
——榊さんが思う、オーストラリアンフットボールの魅力を教えてください。
冒頭にも言った通り、プレーの自由度が高いことです。チームによって、取れる戦術の幅が広いですし、僕のように身長が低い選手でもそれを活かせるポジションが用意されています。すべてに秀でていなくても、こだわるポイントを見つけ、自分が活かせる部分を磨いていけばチャンスは充分にあるスポーツです。
——AFL Japanで行われている試合は本来の18人制ではなく、9人制となっています。
そうですね。プレーヤーは9人で、交代は自由です。このルールによって、人数が多いチームが有利になるようになっています。協会としてはそうすることでチームの人数を増やすためのモチベーションにしてほしいと考えています。
——これまでに一番辛かった経験を教えてください。
長い距離を走るので、辛くて毎試合瞬間的に止めたいと思うことはあります。もう走りたくない!とその時は思うのですが、次の日になればそれがなくなるというのを知っているので、止めることは考えていません。
——逆に嬉しくて印象に残っている出来事はありますか。
オーストラリアで1年目にプレーしていたチームでの最終戦です。その試合で僕は二軍に落とされていたのですが、チームメイトからかけられた言葉がすごく印象に残っています。シーズン通しては苦しかったですが、その言葉のおかげでやってきてよかったと感じることができました。
——どういった言葉だったのでしょうか。
試合は第3クオーターまでで負けていました。そのクオーター間にハドル(作戦会議)を組んでいたところ、「こいつは日本からはるばる来たんだ。俺たちもこのままで終わるわけにはいかないだろ!」とチームメイトが声をかけてくれました。その選手は二軍中心でしたが、僕の面倒も見てくれて、人として尊敬できる人でした。自分もそういうプレーヤーになりたい、と思っていた選手から出た言葉だったので、嬉しかったですね。
簡単ではなかったオーストラリアでのプレー
——榊さんは選手生活を通して、大きな怪我の経験はないのでしょうか。
ないですね。昨年のインターナショナルカップの時は肩を骨折してしまいました。でもそんなに大きな怪我はないです。
手術もしましたが、選手生命にかかわるような怪我ではないです。今も少し肩は動きにくいですね。
——結構大きめな怪我じゃないですか(笑)
誰しも1つや2つ、怪我は持っているものですから(笑)手術をするような怪我もそれが初めてでした。
ただ手の指を脱臼した時は驚きましたね。オーストラリア1年目の田舎のクラブに所属していた時のことです。ボールをノーバウンドで捕ることを「マーク」というのですが、それをした時に薬指がありえない方向に曲がっていることに気が付きました。しかし基本的にマークをしたら、その選手がボールを蹴らないといけないんです。仕方がないので、その場で外れた指を戻しました。
——そんなに簡単に戻せるものではないですよね。
自分がボールを蹴らないといけないのに薬指は全然違う方向に曲がっている、でも誰かに助けを呼ぶ声も英語では出てこない…ということで指を振って動かして、戻しました(笑)
でも肩は前回のインターナショナルカップで3回外れました。3試合目にはタックルしに行っただけで外れてしまうまで悪化していたので、後半は下がりました。日本での練習はそこまで強く当たることはしませんが、現地で外国人選手と当たればそれだけ衝撃が強いんです。しかもその日は試合の前日に指導していた日本人学校の子供達が結構観に来ていました。肩が外れる度にベンチ裏のテントに下がって肩を入れてもらっていたので、子供達からも心配されてしまい、恥ずかしかったです(笑)
——榊さんの得意なプレーを教えてください。
短い距離のキックでのパスです。あとはローバーというポジションで、落ちたボールを拾って、味方に繋げる役目は意識して練習もしていたので得意だと思います。
——バウンドするボールは拾いにくいですよね。
一発で拾うというよりはボールに少しずつ触っていって、自分の間合いで拾うという感じです。一気に拾おうとするとファンブルする可能性が高いからです。
——試合前に緊張した時に行っているルーティーンワークやゲン担ぎがあれば教えてください。
前はやっていましたが、今はなくしました。
以前は尊敬している人からもらった靴紐を触ってから試合に臨んでいました。高校のボート部時代からずっとやり続けていたのですが、その靴紐をオーストラリアでバッグごと盗まれてしまったんです。
——それは相当ショックですね。
盗んだ人にとって、その靴紐は全く価値がないでしょうからね。でもこれは何かの知らせだと考えるようにしました。オーストラリアに行ってからは基本的にポジティブに考える癖はついたと思います。向こうでは思うようにいかないことの方が多いですから(笑)
緊張は試合以外の場面でもしていました。遠征の段取りも分かっていなくて、 前日の時点で飛行機のチケットすら手元にない状態ということもありました。でもクラブなりに気を遣ってくれているところもあり、僕1人だけ日本人なので、ホテルは1人部屋を取ってくれていました。でも次の集合時間が間違っていないか不安なんですよね、そうなると。一人だけ置いていかれているかも、置いていかれたとして誰も気づかないんじゃないかと落ち着かないわけです(笑)
——そのような環境下でもオーストラリアでプレーするというのはなかなか誰にでもできることではないですよね。
日本人をチームに入れたのはスポンサー目的の部分もあったようです。ある練習試合のいいシーンで僕がボールを落としてしまったことがありました。自分でも覚えているのですが、今も当時のチームの広報の人に会うと「あそこで取っていたら、スポンサーも決まっていたのに…。俺の2ヶ月半を返してくれよ!」とジョークで言われます(笑)
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