DeNA再建のキーマンが明治大へ。日本の大学スポーツはどうなる?

質疑応答

ー 今回の動きはスポーツ庁、国全体の日本版NCAAの検討の動きを受けてのものなのか、またそれとは別のものなのかというのと、また、今のスポーツ庁の取り組みについてどう思われているのかということを教えてください。

土屋 先ほどもお話ししました通り、スポーツ庁がNCAAを提案されているというところにも池田さんも関わっていらっしゃるようなので、そのことも含めて、それを大学としては当然受け止めてですね、今後検討していかなければならないと考えております。おそらく、今年度入ってから動きは本格化すると思うので、その中に明治大学としても入って行って、きちんと大学スポーツの言わばリーダー役を果たしていけたらと、大学の役割としてはそれを真剣に受け止めていきたいと思います。

もちろんそれはあるんですけれども、やはり私としては、明治大学だけではなく個の大学が、大学スポーツをとても大事にしてきてはいるんだけれども、今後どういうふうに展開していくかという課題がとても多いと感じております。それをなかなか解決できていない。我々大学内部からの目だけでは、例えば学生をどうやって野球やラグビーなど様々な試合に関心を向けさせていくのか、ということがあります。それは我々も色々な知恵を出しているのですけれどもなかなか上手くいかない。それから、アメリカなんかに比べるとやはりさっきも池田さんからお話あったけど、もっと有効にスポーツを通して大学自身の宣伝であるとか、あるいはOBとの関わりであるとかを作れるはずなんですよね。

例えば、スポーツグッズの販売であるとかを含めて、あるいはスポーツショップを大学が持っているかとかですね。アメリカなんかみんな持ってますから。学内にかなり大きなものを持っていますが、なかなか日本はそこができていないので、そういうことも含めて、企業とも連携しながら大学スポーツを単なるアスリートだけのものだけではなくしていきたい。学生たちのためでもあり、あるいはOBですね。明治大学のOBは50万人いるのですが、OBたちにとっても大事な、大学とつながる大きな要素であると思っているので、それをどうやって広げていくのかということをやっていきたいのですが、我々だけでは智恵は限られているので。

やってきてはいますが壁にぶつかっている状況でありまして、なかなかそこが上手く超えられない。だから、私としては、池田純さんに来て頂いて大学の限界を超えていく。スポーツだけじゃなく外からの人材をかなり大胆に受け入れて、大学の枠をなんとか壊していきたい、そのように考えております。

−池田さんには、いくつもお仕事のお誘いがあったと思いますが、なぜ、この仕事を受けられたのかということと、五つの目的をあげていらっしゃいましたが、特に取り組んでいきたいことは一体どういったことでしょうか?

池田 今、実際に、社外取締役ですとか顧問とかアドバイザーとか、あとはJリーグの特任理事や、いろんな仕事をやっています。明治大学”1つ”を選んだというわけではなくて、これから大学のスポーツというものがもっと進行していく中で、関わり方は変わっていくと思うのですけれども、今はあくまでサポート役としての関わり方です。

私はもともと早稲田大学なんですけど、明治大学のお話を受けさせていただいたというのはですね、やはりこれから日本がスポーツを産業化していく、プロスポーツビジネスが拡大していくのはもちろんなのですけれども、それだけでは目指すものに届かない。本当はハイスクールもそうなんですけれども、やはりアマチュアスポーツの過程は今、一番キーとなるし、これから軸となるのは大学スポーツだと思っています。

私はラスベガスにも6年間いて、アメリカとの差をすごく感じました。最近も向こうにいったのすが、例えばこの前、WBCの決勝をやっているのにも関わらず、ほとんどテレビで放映していなくて、アメリカのスポーツ専門チャンネルESPNでは、ファイナルフォーとかいう名前のカレッジバスケットボールの試合がずっと放送されているんです。

インタビューもしているし、選手のドキュメンタリーもやっている。それくらい賑わっているんですよね。それはNCAAの力もあるかもしれないし、大学が地域と連携する中で色々と観客を捕まえていて、かつ大学でも学生の中でスポーツがアイデンティティとして応援する文化というのがすごい醸成されているんですよ。その先にビジネスとしてあんなに大きくなっている。

僕はプロスポーツビジネス以上にカレッジスポーツの差というのが日本と”スポーツ先進国アメリカ”との間にあるすごく大きな差だと思っています。そこでもっともっと成長して、学んで、育てていくことによって、日本のスポーツ産業というのもすごく成長する余地があるんじゃないかなと。そんな中でまずは大学スポーツに携わさせて頂きたいなと考えています。同時に、もともと私は住友商事の後に博報堂へ行って、独立した後もずっと神保町で会社をやっていた経緯があります。ここは本屋さんが多いじゃないですか。この街に大学スポーツが滲み出して広がっていくっていう感覚をまだ正直、神保町、御茶ノ水にいて感じていないんです。

やはり地域にどれだけ応援されて地域にどれだけ広まっているかというのはベイスターズが広まった構図と全く一緒で、その構造を、自分が関わってきた街に作っていくところにはある程度手助けできるんじゃないのかなということで、明治大学と一緒にやらせていただくこととなりました。

−池田さんに伺います。アスレチックデパートメントというのはアメリカの大学で非常に重要な役割を果たしていると思いますが、日本の大学に設置して、それが機能を果たしていく上で実現に向けて壁というものがあるとしたら一体どんなものが上がってくるとお考えになっているのかということと、今まで池田さんが取り組んでこられたことがそのアスレチックデパートメントを機能させるためにどういうように寄与できるとお考えになっているのかというところを教えて頂きたいです。

池田 まず、アスレチックデパートメントというものがどのように機能するかというのはまさしくプロスポーツとそんなに変わらないと思うんですよね。グッズ製作、例えばブランドコントロール。大学スポーツといっても色々なスポーツがありますけれども、じゃあどこのメーカーとどういう風に契約してどんなユニホームを着ていくかとか、じゃあカラーをしっかり統一してブランドコントロールはどうしていくかとか、50万人もの卒業者がいて、かつ学生さんがいらっしゃって、チケットを取って観る文化というものをどういう風に広げていくか。

マーケティングをしっかりして、例えば広報もそうですけれども、広告物もそうですし、コミュニケーションをどういう風に、大学内、地域、行政、大学を超えてしていくかというものを統括する。要するにプロスポーツでいうところの球団や会社やクラブですよね。そういった機能をしっかりとアスレチックデパートメント、スポーツセンターの中に作っていく。

アマチュアでもプロでも基本持つべき機能は変わらないと思うんですよね。プロスポーツをやって来た経験としてアドバイスしていきながら、大学側に実現していただければな、と。あとは、どういう風にやったらできるのかというのは柳澤先生の方がお詳しいと思うので、私としては大学側をしっかりと改革していくという情熱と、意思決定の仕組みというものと体制をしっかりして、人材をしっかり揃えていけばできるんじゃないかなという風に思います。

−サッカー部がユニフォームにキリンをスポンサーというような形で入れていましたが、このように企業とのタイアップといいますか、企業と絡んでこういう風なことをやっていきたいというのはあるのでしょうか。

池田 具体的なことはこれから大学内で色々話し合っていく必要があると思います。まだやはりその大学スポーツというものに関してはほぼどの大学も手付かずだと思うんですよ。その部分を色々と議論をして、どういうことに課題があってどういう風にしていくべきか、あるべき像というのもこれからだと思うので、企業との連携に関してもこれからですね。

一番重要なことだと私が感じているのは大学が外部のこういうスポーツを経験している人、例えば私ならプロスポーツの企業を経営していて、今リーグの方も見ていて、こういう風にアマチュアも見させていただいて、文藝春秋さんともスポーツの教育もやっているのですが、そういったあらゆるスポーツ領域に関わっている人間を外部から招へいしたということかなと。これから考えていくことがある中で、今はそのスタート時点であって、スタートできる意思がすごく高い大学だなと感じたので、これからだと思います。

−土屋さんにお伺いしたいです。先ほどの学業のお話もあったと思うのですけれども、例えばGPAが3以上ないと練習に参加できないだとか、そういった施策などをお考えなのでしょうか。

土屋 まさにそれは、スポーツアスリートの学業支援というのは既にやっているんですね、例えば、英語に関しては体育会学生に対する支援というのはやって来ているので、ただこれから成績が下がると大学では試合に出させないというような形をどうするのかというのは、我々としては一つの課題であり、検討中です。なにしろ46の体育会があって、だいたい毎年240〜250人入ってきて非常に大規模なものですので、それをどうやっていくのかというのは非常に難しいし、大きな課題ですよね。それはこれからやっていきたいとは考えています。

−池田さんに現状の大学スポーツの課題、もっとこういうことを変えれば結果が違うのではないかという現状について評価をお伺いしたいのと、学長にはスポーツパークについてですけれども今現状はどういうふうになっているのか、例えば以前は日野というふうなお話があったと思いますが、現在場所など決まっているのでしょうか。

池田 まずは今の大学スポーツの課題ということなのですけれども、競技面での成績云々というのは差し置かせて頂いて、やはり大学の中で、アイデンティティになっていない、絆になっていないというのはすごく感じます。最近アメリカのカレッジスポーツを見させて頂いて思うのは、大学生の間で(大学スポーツが)しっかりとアイデンティティになっているんです。色んなスポーツの試合に大学生が応援に行ったり、色々なスポーツをモチーフにした何かしらのウェアをきていたりしています。大学の中でスポーツがアイデンティティとしてある。日本も昔はそうだったと思うんですよ。私が大学生の時にはみんな早慶戦を見に行ったりとか、早明戦を見に行ったりとかしていた記憶がある気がするんですけど、それが薄れていってしまっている。

ただ、それを待っていても観にきてくれる文化ではないというのはプロスポーツも同じでベイスターズもまさしく同じだったので、大学側からしっかりとスポーツを学生の間に振興させる、ブランディングするという作業をしなければならないんですよ。その部分は大きな課題だと思います。

同時にそれが大学生の間だけでなく、大学のある場所ですね。大学のスポーツアシリティのある場所その地域における、観る文化というものを促進して行くことがまずは大学スポーツの最初の課題なんじゃないかなという風に思います。

土屋 スポーツパークに関して、日野市の多摩テック跡地にやるというプランで進めて参ったのですが、途中で大学の法人理事会の方針が変わったということで、キャンセルとなりました。ただ、日野市からはなんとかやってほしいという熱望が寄せられているので、私たちとしては日野市も含めて、様々な候補地を検討中です。それは今年度中にはなんとか結論を出したいと考えております。

−大学の課題の中で、結構大学の現状としては協会とか学連が力を持って色々決定している現状だと思うのですけれども、そことの連携はどのようなイメージでお考えになっていらっしゃいますか。

池田 先ほど申し上げました通り、まだこれからだと考えております。私も大学の現場というのはまだ経験してないので、柳澤先生(副学長)の方がお詳しいと思うので。

柳澤 今まで出てこなかった論点の一つですけれども、特に国立大学が典型的だと思うんですが、大学スポーツを大学教育の中でどう紐づけて行くのかっていうところでですね。

ほぼ日本の大学に共通している点があります。それが、いわゆる課外活動です。大学としては生活教育と課外活動、2つの車輪で大学教育が成り立っているという考え方なんですね。ですから、大学スポーツは課外活動の一つである。つまり、非常に乱暴な言い方をしてしまうと、学生たちの自主的なサークル活動に過ぎないこういったあり方が大学の教育の中でずっと続いてきたんです。今も圧倒的多数がそうであるんですね。

ですから、日本の大学スポーツの課題はどこにあるのかというと、まさに生活外の活動と大学スポーツのこれからのあり方をどうやって結びつけるかっていうのがだいぶ大きな課題になってきている。

そういう点からすると、今出た協会のお話ですといってみればある意味で独立してずっとやってきたわけですよ。そこでまた乱暴な言い方になりますけれども、自分たちの自主独立でやってきたものっていうものがありますからそれなりに気概があるわけですよね。我々の頑張ってきたところなんだ。我々の島だ。そういうふうになっているんですよね。その壁を乗り越えて繋がって行くっていうことは実はそう簡単なことではないと思っております。そういう意味で、今池田さんが話されたように、非常に大きな課題である。課題であるけれども、乗り越えられないというわけではないというふうに思っております。大学スポーツをどういう風にとらえていくのかという我々の考え方が一つのポイントになってくるのではないのかなと思います。

<了>

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