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2020年の成功のカギは2012年にあり。発祥地の威厳をかけたパラリンピック戦略とは

今日、日本でもパラスポーツへの注目が高まっており、自国開催の一大イベントにむけて選手たちはすでに、2020年の“東京”を見据えて動き出している。だが、大会を支援する立場にいる行政・民間企業や、観戦する国民はどうだろう。パラリンピック開催に向け、私たちは何を目指し、どのような準備をしていくべきなのか。

5月11日にニールセンスポーツ内で行われた“Global Impact Day”において過去に5回、オリンピック本大会をスポンサー側から携わったニック・ブルース氏が基調講演を行った。彼が関わり、目にした2012年のロンドン大会をもとに、パラスポーツのあり方やその存在意義、そして来る2020年の東京にむけてのアプローチについて考えたい。

ニック・ブルース氏

ニック・ブルース氏

パラリンピックの歴史はまだ浅い

パラリンピックの起源はイギリスだと言われている。

第二次世界大戦後の1948年、ロンドンでオリンピックが開催されたのだが、同年、イギリス南部のアイルズベリーにあるストーク・マンデビル病院の施設で、アーチェリーの競技大会が催された。当時の参加者はたったの16人だったと言う。だが戦争で身体の一部を失い、生きることに絶望を感じていた人間にとって、「自分はまたスポーツができる」と思えたことは非常に価値のあるものだったはずだ。

ここから大会の規模は徐々に大きくなり、1960年には第一回パラリンピックが開催され、23ヶ国から400人が参加した。1970年には冬季パラリンピックも始まり、パラスポーツの種類や競技者数もここから徐々に増えていく。

イギリスが目指した〝2012年〟そんなパラリンピックが生まれた場所であるイギリスで、2012年にオリンピック・パラリンピックが開催された。誘致が決まった時、イギリスはある目標を立てたのをご存知だろうか。それは、「パラリンピックをオリンピックのレベルまで引き上げる」ことである。パラリンピック発祥の国として、パラスポーツの価値を高める、という責務があったのだ。ここにイギリスの挑戦が始まった。

スーパーマーケット×パラリンピック

まず大きく動いたのは、イギリスの大手スーパーマーケットチェーン、セインズベリーだった。セインズベリーは、パラリンピックのオフィシャルスポンサーに就任し、大手スーパーという自らの強みを生かして広報活動を行った。各店舗にパラリンピアンを呼んでイベントを開催するなどし、パラアスリートの存在をお茶の間レベルにまで浸透させていったのである。セインズベリーは、大会開催の3年ほど前からこのような取り組みをコツコツと続け、その結果として2012年には多くの企業が、セインズベリーによって知名度を上げた選手たちを起用してプロモーションを行うようになった。

テレビ業界にも大きな変化があった。それまでのパラリンピックは、BBCが放映権を持っていたのだが、2012年に国際パラリンピック委員会はイギリス国内のChannel4という放送局と独自に契約を結んだ。Channel4は、商業目的ではないテレビ放映を目指し、人気のある競技だけでなく、多くの競技を取り上げた。そして、試合のみを放送するのではなく、選手が大会に至るまでの経緯にも着目した番組を放送したのだ。

加えて、パラリンピックの競技レベルの高さをPRする目的でCMも作られた。「ベッカム選手などのセレブリティも多く起用されました」とニック氏。著名人がパラスポーツを実際に体験する様子が、テレビ番組やCMで放映されたことも、話題を呼んだという。

ロンドンパラリンピックのレガシーとは長い時間をかけた多くの活動が功を奏し、ロンドンパラリンピックのチケットの価値は、過去にないほどまで高まったという。

オリンピックのチケットは、世界中の購入希望者による争奪戦だ。それゆえに、開催地に暮らす人々は、地元での開催にも関わらずチケットを取ることすらできない、ということも多い。しかしその一方で、パラリンピックのチケットは売れ残っており、集客数におけるオリンピックとの差はなかなか埋まらずにいた。そこでイギリスは自国民を呼び込むべく、国を挙げてロンドンパラリンピックのために大規模な広報活動を行った。その結果、大変多くのロンドン市民がパラリンピックのチケットを購入し、会場に足を運んだ。2012年のロンドンパラリンピックは、パラスポーツをお茶の間レベルに浸透させることに成功した大会と言えるだろう。

パラリンピックが東京にやってくるまであと3年。政府は公式ホームページにて、世界中の人々を日本の「おもてなし」で歓迎し「史上最もイノベーティブで、世界にポジティブな改革をもたらす大会」をつくると発表している。

ロンドンパラリンピックはターゲットを「ロンドン市民」に設定していたのに対し、東京パラリンピックが定める観客は「世界市民」だ。

見る者も競技者も、誰もが楽しめるスポーツ大会を目指すために、私たちひとりひとりにやるべきことがある。ボランティアや環境の整備、選手の支援や広報活動など、方法は様々であるが、何よりもまずパラスポーツそのものを知り、その面白さを体感することが重要になってくる。

パラスポーツは“超人的”である、と言われることがある。目が見えない、足が使えないといった、多くの人が“欠けている”と感じる部分、つまり“障がい”を、選手は強みにし、時に技術の力を借りながら最大限活かして戦う。最大の弱点を最強の武器に変える。その不屈の精神こそパラアスリートの魅力であろう。日本で行われるパラスポーツの大会の多くは、入場無料で観戦することができる。ぜひ一度、強く美しいパラスポーツの世界を覗いてみることから始めてみてはどうだろうか。

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