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元ヤクルト・加藤幹典がアカツキと共に描く“Hero’s academy”の裏側

東京ヴェルディの株主となれば、スポーツベンチャーへの投資も行う。“ゲーム会社”のイメージが大きかったアカツキは現在、積極的にスポーツ領域へ踏み込んでいる。

そんなアカツキが3月15日、横浜に複合型エンターテインメントビル“アソビル”をオープンした。この3ヶ月(3月15日〜6月15日)で来館者数が100万人を突破(初年度で200万人と定めため、想定の2倍のペース)したこの施設は全6フロアからなるのだが、この施設の最上階にはマルチスポーツコートが併設されている。

ここでは一般客への開放を行うほか、現役のプロアスリートやOBから指導を受けられるスクールが開講されている。

その名も「Hero’s academy」。このプログラムの運営を務める株式会社FORMICで代表を務めるのが、かつてドラフト1位でヤクルトスワローズに入団した加藤幹典氏だ。

現役と元プロの指導者にこだわったこのスクールは、なぜこの場所に生まれたのか?そして先に見据える未来とは?

知られざる野球選手の引退後のエピソードも交え、加藤氏と本プログラムに携わった株式会社アカツキライブエンターテインメントの遠藤幸一郎氏に話を伺った。

*参考①:スポーツもカルチャーも食事も!横浜駅直通「アソビル」オープン
https://liawomen.com/post/406/

参考②:サポーター社員をヴェルディへ!アカツキが描く「クラブW杯決勝」への道
https://azrena.com/post/11482/

ヤクルトの営業で感じた指導者の問題

ーまず、このアソビルができた経緯を教えていただけますか?

遠藤:私自身、もともとアプトという会社を創業していて、遊休不動産をリノベーションしてウエディングスペースにしたり、企業さんのイベントをしたりする場所を作っていました。それとは別に、ASOBIBAという会社があり、都内の遊休施設をサバイバルゲームフィールドにして、普通は郊外でしか遊べないアクティビティをフットサルのようにアフター5で楽しめる施設を運営していました。

ASOBIBAが郵便局別館の利活用の話をしていく中で、より大きく、よりインパクトのある企画にすることができないかと考え、アカツキグループに参画すると同時にアプトとASOBIBAを合併させ、アカツキライブエンターテインメントとしてこの企画を進めることにしました。

そして、横浜駅東口の再開発の話の中で、ASOBIBAが郵政と交渉をし、アソビルのプロジェクトが始まったんです。

ーなかなか大きなプロジェクトだなと思います。

遠藤:誰もやったことがないレベルのリノベーションプロジェクトだったので、貸主である郵政グループとしても、我々の企画にGOを出すのはチャレンジングだったかと思います。

こういった不動産をリノベーションしてできるものは、ホテルやオフィス、住居が一般的です。アソビルはもともとオフィスの用途になっていたものなのですが、ここを不特定多数の方が来ていただけるような商業施設にするためには、建築基準法や消防法が定めるレギュレーションをクリアしなければいけなかった。これが難しいんです。スプリンクラーを入れなければいけないとか、ウイルスの感染を防ぐために換気はこれだけ取らないといけないとか。トイレの数もありますね。

複数のハードルがあるので、業界の中ではこのような場所のリノベーションはシェアオフィスにするのが定石なんです。それを体験エンターテイメントの商業施設にするというのは、正気の沙汰ではないと言われますね。

遠藤幸一郎氏

ー全フロアを体験エンタメで固める中、コンテンツ決めはいろいろと悩んだのかなと。その中で屋上はスポーツ施設にしましたね。

遠藤:屋上はエンタメとしてやるのはハードルが高いだろうなと。テクノロジーを入れても雨天リスクがあったりします。もともと郵便局の福利厚生施設として屋上にスポーツコートがあったので、それをベースに作っていきました。実は僕も現役の陸上選手で、スポーツの教育現場に対するアプローチということを達成したいとずっと思っていました。その中で友人を介して加藤さんにお声がけさせていただき、今回の野球スクールの開講に至ったという流れです。

ー加藤さんはヤクルトにドラフト1位で入団し、2012年に現役を引退されました。選手を終えた後の人生はどう考えていらっしゃったのでしょうか?

加藤:すでにそのときには家庭を持っていたのですが、妻には「自分だったら辞めてもある程度稼げるから独立したい」と言ったんです。でも「お願いだから1回社会を経験してほしい」と言われて。もともと引退後はヤクルトで働かせてもらえるということを、契約時に口約束ベースですが話されていたんです。それもあって、ヤクルト本社で働かせていただくことになりました。

もちろん社会人としての基礎知識や会社組織、もっと言えば世の中の流れが全くわからない状態でした。まずはそれらを勉強しなければいけないと思って、結果として5年半働きました。引退したときは一度野球から離れて次の人生を歩んでいこうと思っていたのですが、がむしゃらに3年ほど働いて余裕が出てきた時に、たまたま野球と付き合うきっかけをいただいて。

久々に野球と触れ合って「面白いな、もう1回携わりたいな」という思いを抱いたんですよ。それから自分は65歳までヤクルト本社にいるのか、違う道でスポーツで歩んでいくのかを想像した時に、本社で定年を迎えているイメージが湧かなかった。そして、友人が野球界での再活動を応援してくれたので、会社を辞めることにしました。

加藤幹典氏

ー野球に関わるというのも関わり方が様々だと思いますが、どういった形で関わりたいと?

加藤:ヤクルトの営業でいろいろな地域に行って「野球をやっていました」という話をすると、「息子が野球をやっているから見てください」とか「スポーツイベントを手伝ってくれませんか?」と言われることがあって、実際に現場に行くわけです。そこで感じたのが、指導者の質が高くないということ。イベントでキャッチボールの指導をしても、怪我のリスクが伴う投げ方をしている子が多いんです。

でもその子たちは「コーチから教わった」と言います。これは何とかしないといけないなと感じたんです。そこから、指導者の育成をしたい、正しいフォームと正しい知識を子どもたちにつけてほしい、そしてその情報発信をできる場を作りたいと思ったんです。

ーまさにその場がアソビルのHERO’s ACADEMYになるのですね。

遠藤:日本は部活動スポーツなので、そのスポーツを知っている方ではなく、学校の先生がある種、指導のイニシアチブを握っている状態が多いんです。アメリカはクラブスポーツなので、ちゃんと指導したい方が指導をしている。

もちろんスポーツの指導において、流派や人それぞれの思想はあるので、必ずしもこれが正解というものはないと思います。ただ、前提としてそのスポーツを指導することに情熱を持っている人が指導者になるべきだと。学校の部活動で配属されたからとりあえずやらなければいけない、という人たちがいる状況は、子どもたちの今後の可能性を狭めているなと思います。

ー遠藤さん自身もそこを感じたことはあるんですか?

遠藤:僕も高校までは野球をやっていたのですが、中学の野球部の顧問は野球経験がない先生でした。一生懸命時間を要して指導をしていただいたのですが、やはり技術指導や練習を組み立てるのは一朝一夕でできる事ではありません。

選手同士で試行錯誤をしながら練習していました。 自分は父が野球の指導者でしたのでたまたま恵まれた環境にいましたが、中学生の3年間というとても選手としての基礎を作る大事な時期はやはり正しい指導を受ける事は大事な事だと今振り返っても思いますね。

「スポーツで夢を見たい」と思える世の中に

ー遠藤さん自身、スポーツをずっとやってきた中で、スポーツ界に何か貢献したいという思いは持ってたのでしょうか。

遠藤:それはすごくありました。僕は高校まで野球をやっていて、大学では陸上に転身して、インカレも出て。その後は実業団に入ったのですが、高校でいうと甲子園、大学でいうとインカレがあったことで、すごく人生が充実していました。それを見ていた親も楽しそうでしたし、チームメイトと切磋琢磨することや色々と努力して精進しようと思えるマインドも、全部スポーツから教わったので。

やはり子どもたちには、スポーツを通じて人格形成をしてほしいなと思っていましたし、多くの子どもたちが「スポーツをしたい」「スポーツで夢を見たい」と思える世の中にしたいとは常に考えていました。

ー野球のスクールは、サッカーほどメジャーじゃないイメージがあります。

遠藤:プロアマ規定もありますからね。

加藤:今の野球スクールの現状でいうと、元プロの人が各地でやっているのですが、その情報が集約されていないという現状があります。各々がどこでやっているという情報を地元の人が口コミで知って、そこに人が集まってくるというイメージです。この部分の情報整理というのもすごく大事になってきます。

ーこのスクールから作りたい世界観や目標設定は、どういったものなのでしょうか。

加藤:元プロ選手から教わる仕組みを作った中で、集まった生徒さんでまずはチームを1つ作りたいなと思ってるんですよ。“元プロが教えてくれる”チームというコンセプトで作り、世に発信していく。まだまだどういう状況になるかはわからないですけど「正しい指導ができる指導者がいて、それを受けられる場所」を提供するということを柱としてやっていきたいなと。

遠藤:今は野球、バスケットボール、フットボール、かけっこ、陸上の5種目予定しています。ただ、こういうお仕事をさせていただいていると、自分たちも知らないようなマイナースポーツとめぐり合ったりすることはあります。その世界の第一線で活躍されていたり、普及活動をされている方とタッグを組みたいなという思いも持っています。

加藤幹典氏と遠藤幸一郎氏

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