最高の一瞬『ロジャー・フェデラー(テニス)』

ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、アンディ・マリー(イギリス)。男子テニス界のビッグ4といわれ、この選手たちの対戦は絶対に外れがないといわれます。なにしろ2003年以降、この4人でグランドスラムを制しているのだから、勝負はともかくファンが楽しみにするのは当然ですよね。

2019年7月、ウィンブルドン。準々決勝で錦織圭を破ったフェデラー(ちなみに同試合は同選手のウィンブルドン100 勝目)は、準決勝でナダルと対戦しました。ウィンブルドンでの対戦は11年ぶり。そして、このゲームを3−1でフェデラーが制した瞬間の写真です。

歴史的名勝負として名高い2008 年大会の決勝。フェデラーはナダルに黒星を喫しましたが、それから11 年が経過したこの日の一戦を、「これまでで最高の試合の一つ。なぜなら、相手はラファでウィンブルドンだからだ」と振り返りました。

このガッツポーズは感動的ですが、撮影していてうれしかったのは観客席のほうでした。スコアボードの周辺はフェデラーファンの位置で喜ぶのは当然ですが、それ以外の観客席も総立ちでこの一戦を祝福しました。

先に述べたように、このビッグ4の対戦に外れはなし。心底、熱い戦いに場全体が満足している。そんな瞬間を味わえたのはカメラマン冥利に尽きます。

ちなみに、2012年のウィンブルドンでフェデラーが優勝した際の1枚もお気に入り。

まずはフェデラーですが、ナダルとジョコビッチの台頭でしばらくグランドスラム優勝から遠ざかっていた。限界説も聞こえ始めただけに、久しぶりの決勝進出というチャンスを逃すわけにはいきませんでした。そしてマレー。地元の期待を一身に背負って初の決勝戦に臨みましたが、6度優勝のフェデラーに及びませんでした。その際にマレーが発したひと言が次のものです。

「Getting Closer(もう少しなんだよな……)」

プレッシャーの中で戦う苦しさはフェデラーもよく分かっています。マレーの心中にも共感するものがあったのでしょう。だからこそインタビュー後の熱い抱擁には感動しました。ちなみにマレーは直後の全米オープンで初優勝を遂げ、2013年のウィンブルドンも制覇。英国選手としては77年ぶりの快挙でしたが、その裏には前年の悔しさとフェデラーのやさしさがあったわけです。

▼真野博正(まの・ひろまさ)

1959年、島根県で生まれて山口県で育った。大学卒業後、大手出版社のカメラ専門誌を経てスポーツフォトグラファーに転身。テニスやサッカーなど各スポーツ界で活躍。特に、テニスの分野では第一人者であり、4大大会の撮影実績は28年にわたる。

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