野球『ミズノ_グローバルエリート H Selection energy(前編)』
スポーツをするには決して芳しい季節とはいえない夏。けれど毎年のようにドラマが生まれる、夏の甲子園大会や、生ビールを飲みながらの観戦がこの上なく心地いい、佳境を迎えつつあるプロ野球のナイターの魅力を知る日本人には、この暑さこそ、野球シーズンという思いが刷り込まれてきた。
今回紹介するのは軟式野球用グラブ、「グローバルエリートH Selection energy」。手がけているのはミズノだ。今やグローバルなスポーツギアメーカーであるミズノだが、そのビジネスの中で野球用品は顔となるアイテムのひとつ。「野球用品の中でも核になるのがグラブです」と語るのは、ミズノの野球ソフトボールグラブを企画する、グローバルイクイップメントプロダクト部の茂木結矢さん。
プロ野球の数多くのスター選手たちが愛用することでも知られる、ミズノの野球用品のフラッグシップブランド「ミズノプロ」のスタートもグラブから。そして現在、グローブの国内シェアはナンバーワン。リーディングメーカーだけに、モノ作りの一挙手一投足が市場にも大きな影響を及ぼす。「グラブはよそのブランドに負けるわけにはいきません。ですから企画するグラブには、責任感と覚悟をもっていますね」と茂木さんは語る。
この「グローバルエリートH Selection energy」もそうなるのだが、グラブはレザーの裁断やミシンによる縫製、さらに叩いたり、伸ばしたりする作業など、工程の多くが熟練した職人の手作業で支えられている。さらに素材となる牛革は天然素材のため、同じモデルといえども微妙な個体差も生じる。部活で軟式野球をする中高生であれば、グラブは一般的に2~3年で買い替えことになるといわれるが、その間に生じる革の変化まで想定して製作されている。マスプロダクツとはいえ、機械によって正確無比に大量生産される工業製品とはかなり異なる印象だ。
たとえば、同じ天然皮革を用いて作られる鞄やドレスシューズの場合、用いる素材の良し悪しがよく語られる。同じ感覚でグラブに適した牛革は?と問うと、茂木さんは口ごもった。「グラブは、人それぞれのプレーの仕方、捕球の仕方に合ったモノが最適といえます。ですから素材の革も、こんな革がいちばん優れているとは一概には言えませんね」。つまりひとつ規格で作られているとはいえ、それが万人にとってベストであるというわけではない。捕球しやすさという機能性が求められるグラブだが、その中身は一筋縄ではいかない繊細さが求められている。
またグラブでは、軽さというのがひとつのセールストークとなっている。もちろん単に革を軽くすればいいというわけではないが、グラブが軽ければ、捕球動作も容易になるという考え方だ。これについても茂木さんはグラブの奥深さを教えてくれた。「革を軽量化していくとはいえ、その厚さを軽んじたら捕球しやすいグラブにはなりません。また軽さというのは、グラブを秤に載せたときの値だけが示すものではありません。“グラブに手を入れたときに感じる軽さ”というものもあります。これはいうまでもなく数値化できるものではなく、たくさんのグラブを試してきた、作り手である職人の感覚がモノをいいます」。ここからもグラブ作りの細やかさやこだわりがうかがわれる。
2019年8月に発売された「グローバルエリートH Selection energy」が登場するきっかけとなったのは軟式球の規格変更。今年から各種大会で使用される公認球は、従来よりもサイズが大きく、重く変更された。これは軟式野球にとって大きな変革だ。さらにボールが硬くなったため、弾みは押さえられる一方で飛距離は増すことになった。やがて硬式野球の道に進む若い世代のために、より硬式球に近づけたとされている。
そこで「グローバルエリートH Selection energy」が目指したのは、軽さではなく、パワーアップが予想される新たな軟式野球に即した、捕球しやすさと耐久性の向上だ。そのために茂木さんたちはどんなアイデアを見つけだし、グラブにどんな工夫を凝らしたのか。それを次回紹介する。
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