
2017年7月、イングランド・ギルフォードで行われたラクロスW杯。ラクロス日本女子代表は入賞まであと一歩、9位で大会を終えた。
その日本代表を率いた佐藤壮監督が語る日本代表のチームづくり、長期に渡ってスポーツにおける最高人数であろうかという女子人数を誇るチームを指導するからこそ分かる女性のマネジメント術とは?
多くのラクロッサーが教えを請い、信頼を寄せる佐藤氏がラクロスのプロコーチとして新たな地位を確立した理由を探っていく。
既成概念を壊して新しい時代の一歩を踏み出していく
ーー日本のラクロスは、競技人口もチーム数も増えてきています。ラクロスはマイナースポーツではなくなってきていると思いますが、そこの変化にはどう感じてますか?
もっと人気になって、大衆化して、認知されてもいいと思っています。
ーーそれでオリンピックの種目にもなってそこを目指すという状況にもなることが理想的でしょうか?
例えばですけど、一般化、大衆化して僕たちが手作りでやってたのが、他のスポーツと一緒になってしまうからそれは嫌だと思ってしまうという意見もよくわかります。一般化したいとか、メジャーになったほうがいいということではなくて、その流れに逆らえないという表現が僕の中では一番しっくりきますね。だからもう乗っていくしかないだろうと思っています。
ーー日本のラクロス界は、大学日本一という方が世界より高くなっていると聞いたことがあります。
ほとんどの大学生にとっては高い目標ですね。大学日本一どころか女子は大学生が社会人を倒して何度も日本一になっていますからね。それも問題です。そうなると社会人になって続けなくなるし、キャリアを大学生の4年間で終えてしまいます。日本一になることも素晴らしいことだと思います。ですが、大学から始めたスポーツで日本一になれる現状を周りが見たら、そのスポーツが盛り上がってるとかスポーツが盛んだとは思われないでしょう。社会人の人は大学4年間しかやってない人に勝てないの? と。
経験年数の話をすると日本代表の平均競技歴が6年くらいになります。学生4年間と社会人になってから数年のような。アメリカですと、10歳から30歳くらいまで10年以上15.6年続けています。日本の子達にも、せめて18歳から始めて28歳まで続けて欲しいなと。だから僕は10年続けることを1つの形にしたいと思っています。なんの世界も10年やらないといけないと思っています。
佐藤壮監督スポーツで競い合う5つの要素
ーー海外と比べて経験年数の他にどういった点で違いがあるのでしょうか?
たくさんあります。日本人は結果をとても重視するので、マイナスなことの指摘が多いですよね。海外を見てると失敗はするものだし、そこからどう何を学ぶかを大事にしていると感じますね。失敗した選手に『Good!』というような声かけをしていることが多い印象です。
ーー日本だと、失敗するならしなければよかったのにとなりますよね?
批判的に見ることが多いですね。でも、海外はそんなことないです。あとは失敗があっても、何が正解と追求するわけではないので。試合前の準備の仕方なども全然違いますよね。例えば同じバスで試合会場に行くことが多々あるんですけど、対戦相手と同じ時間に宿舎を出るときカナダチームとか海外のチームは今流行りの曲とか音楽を流すわけですよ。それをバスの後ろで、音楽に合わせて歌ったりしてるんです。
それに対して日本の選手が黙ってる光景は、すごいシュールです。ですが、僕は「歌え」と。歌わせたり、写真撮ったりとかさせてます。日本だったら「集中しろ」と怒られそうですけどね。海外で当たり前に活躍してる人というのが、そういった文化の違いに物怖じしない人とか英語でインタビューに答えられてる人とかとイコールになりつつあると感じています。W杯は技術だけを競い合ってる場所ではないなと。
ーー面白いですね。視点が違いますよね。技術の視点の話ではなくて。
スポーツで競い合ってる重要な要素というと、テクニカル、メンタル、フィジカル、タクティクス。あと大事なのが、ソーシャル。この5つのファイブエレメンスが強い選手が重要ですね。日本だと、わがままでも点を取ってくれる選手がいたら勝てることもあるので、社会性はなくても良いものになっています。ですが、W杯で活躍するためにはこの5つが揃う必要がありますね。グッドプレーヤーの前にグッドパーソンでなければいけない。
ーー200人の女性の組織で指導するにあたって、意識しているようなことはあるのでしょうか?
特定の選手としか、一緒に飲みに行かないとか。ある一定のラインは引く。その個人個人にあった「当たり前」を作ってあげることは意識しますね。性格・見た目と外的要素・内的要素問わずです。
ーー学生たちが「教えてもらいたい。」と言ってみんなでお金を集めてコーチに指導を頼むことが多いラクロスですが、この信頼感を深めることは簡単ではないと思います。
色々な方法があると思うのですが、僕の場合は選手にある程度満足度を与えられているからだと思います。ここで1つ大事なのが「勝つ」というところだけに主眼を置いているチームだと結構大変です。『この人のこと嫌いだけど、勝っているから変える理由がない』ということで、常勝時代は監督が変わらなかったりする場合、チームが崩れたら即退任ということも多いです。特定の代を贔屓して教えていた場合はその下の代が一番上の代になった時に解任されるコーチも多い。そうなってしまうと長期的な視野に立って強化ができないという悩みが生まれてしまいます。
指導者資格を作って、継続的にコーチできる資格がある人であれば簡単に変えられない。そして、変えられないためにはどうしたらいいかという部分を考えるのも必要だと思っています。最近、資格制度の動きを始めている背景でもありますね。
ーーチーム作りに感銘を受けることが多いです。海外のチームと戦ったことによって考えが変わったということなのでしょうか?
はい。変わりました。というか「変化」ということがとても大事だと思っているんです。指導者として、「ずっと同じこと言ってるよね」と言われていたらいけないと思っています。その間に選手は絶対成長してますよね。毎回変わってないと言われてたらニーズを捉えてない潰れるラーメン屋の典型じゃないですか?(笑)
日本代表監督が語る、ラクロスの魅力
ーー今後、こういう風になりたい若しくはこういう立場を作っていきたいというようなご自身のビジョンは?
成長し続けることですね。学び続けること。そして、僕は他人に影響を与える人になりたいです。例えば野球でいうところの野村監督ですね。ラクロス界だけに認められてる指導者ではなく、外から認められていかなきゃならないとダメだなと思っています。
ーーラクロスの魅力とはどういったところになるのでしょうか?
「不完全」なことじゃないでしょうか。変革ができること。そこが一番の魅力です。正解がないので、全部正しくもあって、全部間違ってもいます。だから、様々な取り組みができるところが、一番の魅力だと感じています。競技的にも道具を使って、空中で小さなボールを操るスポーツはあまりないですし。ラクロスは、面白いスポーツだなと思います。
▼佐藤 壮(さとう たけし)
元女子日本代表ヘッドコーチ/立教大学女子ヘッドコーチ。立教大学男子ラクロス部出身。
2002~08年 立教大学女子ヘッドコーチ
2005年 女子日本代表アシスタントコーチ
2007年 19歳以下女子日本代表ヘッドコーチ
2009年 女子日本代表ヘッドコーチ
2015年 22歳以下女子日本代表ヘッドコーチ
(第7回APLUアジアパシフィック選手権大会・優勝)
2011年~現在 立教大学女子ヘッドコーチ
(第3回全日本ラクロス大学選手権大会・準優勝)
2017年 女子日本代表ヘッドコーチ
▼協力:AZrena(アズリーナ)
※詳しい記事はAZrenaの公式サイトでご覧ください。
>>競技力の前に人間力。200人規模の女子を束ねるラクロス女子日本代表のチームづくり
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