野球『ミズノ_ミズノプロQS』
コロナ禍によって、国民的スポーツである野球も大きな影響を受けた。プロ野球はいまだ球場の入場者数が制限されて、声を出して応援をすることもできない。季節の風物詩でもある夏の甲子園大会は、春の選抜に続き中止となった。それでも甲子園を目指してきた高校球児のために、各県で代替大会が開催され、さらに選抜大会に出場予定だったチームによる、甲子園高校野球交流試合が開催された。
感染防止などを踏まえて、各校1試合のみという異例の形となった交流試合ではあったが、やはり観るものの心をとらえて離さなかった。日本人のDNAには、真夏の甲子園で繰り広げられる高校野球の光景が刷り込まれているに違いない。そんなこの夏の甲子園高校野球交流試合で、話題を集めたのが“白いベースボールシューズ”だ。
実はこれまで高校野球の公式戦で使用できるベースボールスシューズはブラックのみと、日本高等学校野球連盟によって定められていた。ところがこの春から白の使用が許可され、甲子園でも“白いベースボールシューズ”をはいたチームが数多く登場した。今回紹介するのは「ミズノプロQS」は、そんな“白いベースボールシューズ”を代表するモデルだ。
これまで紹介してきたさまざまなスポーツシューズは、先端テクノロジーを生かしたファンクショナルなモノばかりだったのだが、この「ミズノプロQS」の最大の機能は、“白いベースボールシューズ”であること。つまりこれまでの黒ではなく、白であることに価値があるのだ。
この色の違いはシューズの表面温度、内部温度の差となって表れる。白の方が格段に温度上昇を抑えられるのだ。なぜ“白いベースボールシューズ”を作ることになったのか、「ミズノプロQS」の開発を手がけた、ミズノ グロバールフットウエアプロダクト本部の田林正行さんに聞いてみた。高野連のルールによって決められた色なので、特別な理由はないとは言いながら、こう語る。
「このところ夏の暑さがどんどん厳しくなっています。そのせいか、甲子園を見ていても足をつったり、脱水症状になってしまう選手を目にすることが増えました。シューズをはくことが直接的に熱中症対策になるわけではありませんが、シューズの色が白くなることで、シューズの温度上昇を抑えることができれば、炎天下でのプレーの質も変わってくるのではないかとは考えましたね」
確かに真夏にシャツを着るとき、黒よりも白の方が涼しそうなのでは、という感覚は誰しももっている。一方で、高い遮熱や断熱効果を謳う素材も、今日、数多く出まわっており、それを使うという方法あったはずだ。だがシューズをはいたときに、暑くないということをどれだけ実感できるかを重視したとき、白を用いることがより効果的だったという。
今回、「ミズノプロQS」を開発する過程での検証で、具体的な数値として、白のアドバンテージが判明した。32度の人工芝の上で比較すると、“白いベースボールシューズ”は、シューズの表面温度で約20度、シューズ内部の温度で約10度、黒よりも低い温度が測定された(ミズノ調べ・自社製品比較)。
この数値は、はいたときに実感できる違いであり、明らかに快適なはき心地につながる。また選手たちの体の負担も軽減できるのではないか。さらに直接的ではないにせよ、熱中症対策の一助にもなるのではないか。「ミズノプロQS」への期待は膨らんだ。
こうした思いに沿うように、ひとつの見解が出された。かねてから熱中症対策につとめて、給水タイムを設けたり、試合開始時間を早めるといった施策を行ってきた日本高校野球連盟が、熱中症対策の一環として白スパイクの使用を許可したのである。
この決定を受けて、ミズノは「白スパ」と称して、「ミズノプロQS」などを発売した。そして黒いシューズばかりだった夏の甲子園を、“白いベースボールシューズ”が席巻することになった。
白ばかりをフォーカスしてきたが、「ミズノプロQS」は天然皮革のカンガルーレザーを用いて、足になじむ柔らかさでフィット感も高い。また足との一体感と、クイックネスを可能にしたアナトミカルラストや、スパイクの先端に特殊溶接された、掘削機にも用いられる超硬合金を採用されている。本来、ベースボールシューズに求められるポテンシャルも、高いレベルに仕上げられている。
みずからも高校球児として甲子園で活躍した経験をもつ田林さんは、「高校球児たちは暑さ対策にはとても気をつかっているはずです。そんな彼らが、この「ミズノプロQS」をはくことで少しでも暑さのことを忘れて、プレーに集中できるようになれば本当にうれしいですね」と話す。
現状ではまだ白の効果以外に、涼しさを実現するための特別な機能をもたせているわけではないという「ミズノプロQS」だが、暑さを克服するさらなる機能の開発がすでにイメージされているという。おそらく夏の暑さはさらにエスカレートするに違いない。そうなれば「ミズノプロQS」、白スパが、夏のグラウンドの主役になる日は遠くなさそうだ。
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