軟式野球『ミズノ_ビヨンドマックス レガシー』

この夏、目にしたテレビの野球中継は、無観客という異例の状況下で行われていた。そんな中で気づいたことがあった。それはバットがボールをはじき返すときの乾いた打球音の大きさと、爽快で心地いい響きだ。そして野球の魅力の一端をバットが担っていることを、新たに実感する機会となった。

今回、紹介するのはミズノのバット「ビヨンドマックス レガシー」。硬式ではなく、軟式野球用のバットだ。このバットは、軟式野球の常識を変えたとまでいわれる超ベストセラー“ビヨンドシリーズ”の最新作(2020年12月11日発売予定)となる。

話をうかがったのは、ミズノの木田敏彰さん。この“ビヨンドシリーズ”にデビューから携わっている。木田さんには忘れられない言葉がある。はじめてバット担当となったときに、当時の上司から受けたアドバイスだ。

「軟式のバットはどんなに工夫しても高反発なモノは作れない。だから形状や重量バランス、デザインなどで勝負する」。つまり軟式野球用のバットは、打球の飛びを目指さなくてもいい、という宣告だった。

実は当時、軟式野球では、打球は飛ばないというのが常識であり、どこのメーカーのバットを使っても、飛びは変わらないとまで言われていた。軟式野球連盟から飛ぶバットを作ってほしいという依頼があったというから、その状況は深刻というか、むしろ諦めに近い状態だったのだろう。かつて軟式のボールを打った経験がある人であれば、そのインパクトの感触を思い出し、うなずくのではないだろうか。

だが木田さんはこの軟式バットが置かれた状況に納得できなかった。軟式ではじめて野球に出会う少年が、強く打っても、芯にあたっても、ボールが飛ばなければ、野球を楽しいと思えないのではないか。打ったボールが遠くまで飛んでいくことが、野球を好きになるきっかけになるのではないか。木田さんは軟式バットの飛びにこだわろうと心に決めた。

さっそくバットの試作がはじまった。薄肉を目指したり、内部に凹凸を設けたり、スリットを加えたりと、さまざまなチャレンジを試みた。だが目指す飛びを実現することはできない。そんな試行錯誤を繰り返していたとき目にしたのが、軟式ボールをバットで打つ瞬間をとらえた映像だ。インパクトの瞬間に軟式ボールがグニャリと激しく変形して、ペチャンコになっているかのようだった。

そこでひらめいたのが、このボールの変形を抑えることこそ、飛ぶバットにつながるのではないかというアイデア。これまでとはまったく異なる発想だった。ならばバットの表面に柔らかい材料を用いれば、ボールの変形を防ぐことができるのではないか。さっそく改良に着手した。

素人考えだと、ボールが変形することによって、元に戻ろうとする力が生まれ、それが飛びに結びつくのではないかと思ってしまう。だが実際はまったく異なる。ゴムで作られる軟式ボールは中空構造になっている。そのためボールが変形することは著しいエネルギーロスにつながる。そこにボールが飛ばない理由があると考えたわけだ。確かに硬式ボールやゴルフボールはインパクト時に、ボールを変形させないことが飛びのメカニズムとされていた。

そこに勝算を見つけ出したのだが、同時にリスクも浮上する。バッターはバットを投げ捨て1塁に向けて走り出すように、バットはグラウンド上でデリケートに扱われるものではない。そのため柔らかい材料を加えることによって、形状や耐久性に対する不安が浮かび上がってきた。現場をまわる営業スタッフからは、これではバットが壊れないのか? という問い合わせもたくさん受けたという。

そのため飛びを実現すると同時に、耐久性はなによりも担保し、表面がはがれることも許されないというのが設計の命題となった。そんなときヒントを授けてくれたのが、オフィスの隣のスペースにいたシューズの開発チームだ。実はシューズの表面に用いるTPUシートは薄く加工することができ、摩耗にも強く、耐久性も確保できる。こうしてシューズの技術も取り入れながら“ビヨンドシリーズ”は世に出ることとなった。

こうしたプロセスを経て、ブラッシュアップを重ね、自分史上最高の飛距離を謳うまでになった「ビヨンドマックス レガシー」。その構造は、折れたり、割れたりしない耐久性を担う、中心部分の芯には繊維強化プラスチックを使用。そして芯を包む打球面にはウレタン材を用いる。このウレタン材こそが、ボールの変形を防ぎ、飛びに直結するキモであり、“ビヨンドシリーズ”の最大のアドバンテージとなっている。

そのウレタン材はどんなもので、何が優れているのか尋ねてみたのだが、木田さんはそこだけ口をつぐんだ。いわゆる企業秘密ということだが、それこそが他社が真似することができない、“ビヨンドシリーズ”のノウハウであり、飛びの秘密ということであろう。

さらに「ビヨンドマックス レガシー」は従来のシリーズより、耐久性を考慮しながら細くなった芯形状を採用して、その分、ウレタンがより肉厚になった。そのため柔らかさを生かした反発力も高まり、飛距離をアップしている。ウレタンの厚さは約20㎜となり、従来よりも約3~4㎜も厚くなっている。その結果、飛びに直結する反発係数は従来モデルよりも10%弱向上した。

この「ビヨンドマックス」を手にしたプレーヤーたちは、おそらく、もうこれまでのバットには戻れないと感じるのではないか。みずからバットを持ち、打ったときに、優れた飛びを実感した木田さんはそう思ったという。

だが“ビヨンドシリーズ”は当初、その飛びで人気を集めていた反面、トップクラスの選手たちはこのバットを使っていなかったという。ここが木田さんの気がかりだった。だがしばらく経って、軟式野球の国内最高峰とされる天皇賜杯全日本軟式野球大会を、市場調査を兼ねて木田さんがスタンドで観戦したときのこと。その試合に出場していた国内トップレベルの選手たちはこぞって“ビヨンドシリーズ”のバットを使っているのを目の当たりにした。

ようやく飛びだけではなく、このバットのすべてが、軟式野球界で認められたことを実感した瞬間、思わず涙してしまったと木田さんは話してくれた。こうして軟式野球のバットとして揺るぎない地位を築いた“ビヨンドシリーズ”。そしてその頂点に立つこの「ビヨンドマックス レガシー」。だが進歩が止まることはない。

実は軟式野球ではバットの素材にルールがない。つまりもっと優れたバットが誕生する余地は十分にあるということになる。「反発性は上がってきたもの、まだまだ硬式のようには飛びません。もっと飛ぶように、みんなにオーバーフェンスのホームランを打ってもらいたい」という木田さんの言葉は、まんざら夢物語ではないのではと思えてくる。

※下記のオンラインストアでの紹介は「ビヨンドマックス」シリーズの商品となります。

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