2020年9月、東京スカイツリーのお膝元に、スポーツクライミングの“聖地”が誕生した。「THE STONE SESSION TOKYO」を全面的にプロデュースしたのがJazzySportだ。
スポーツと音楽の融合を掲げて活動してきたJazzySport主宰のMasaya Fantasista氏はなぜ、スポーツクライミングの世界にどっぷりとハマっていったのか。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。
スポーツクライミングは1発で魅せられた
> ——スポーツクライミングは今でこそ五輪種目になって、世間的にも認知度はかなり高くなりましたが、masayaさんがかかわり始めた頃はまだそういう時代ではなかったわけですよね?
全然そんな時代ではなかったですね。でもはじめた頃からこれは面白いと思いましたね。やっても面白いし、見ても面白い。山岳スポーツの中でもニッチなところなので日本で認知されるのに時間はかかりましたけど、コンテンツとしての面白さは間違いないとずっと思っていました。赤ちゃんがつかまり立ちをして、そこからよじ登りたいという最初の衝動がそのままスポーツになったようなものなので本能的に楽しめるスポーツなんですよね。
——そもそもmasayaさんのクライミング との出会いは?
国分寺にあった頃のB-pump(現在は荻窪に移転したボルダリングジム)になんとなく行ったのが最初でした。尾川とも子さん(元日本代表のプロクライマー)がまだ現役のコンペティターだった頃にスタッフでいたんですよ。それでクライミング道場の初級がたまたま開催されていて参加しました。初めてにしては結構登れて、尾川さんにも「お兄さんすごい!かっこいい!」とおだてられたりして、気分を良くしていましたね。実際に登っていても面白かったんですよ。
——初めてのボルダリングで良い出会いがあったんですね。
これだけ登れたなら自分に向いてなくはないと思いました。体を鍛えるのは昔から好きでしたけど、単純なウェイトトレーニングとかには魅力を感じていなかったんですよね。でも自重を使った懸垂とかは好きだったので、ボルダリングはトレーニングの一貫としても魅力的でした。しかもスキーでよりレベルの高いところを滑るためには沢を登ったりすることもあってクライミングの能力が必要で、スキーの夏場のトレーニングにも最適だったんです。
——その国分寺時代のB-pumpに行ったのはいつ頃の話ですか?
もう20年くらい前で、ちょうどジャジスポを始めたての頃でした。そこからはただクライミングが好きで、ひたすらジムに通う一般のクライマーという感じでしたね。
——Jazzy Sportでは伊藤ふたば選手のサポートをされていますが彼女との出会いは?
ふたばのお父さんがクライミング好きで、お父さんに連れられてTSSで普通に登っていたのが最初でした。かわいらしくて、でもすごく負けず嫌いで。彼女が登っているのを見て“やるな”と、すぐに思いました。これはやるはずだからサポートしなければと「登り放題でTSSでトレーニングしていいよ」と声をかけたのが10歳くらいでした。その頃から運動能力は高いし、子どもの中では一際強いというのがひと目でわかりました。キャラクターもかわいらしくて良かったし、その上でメンタルの強さも備えていたんですよね。
アスリートに音楽は欠かせないもの
——クライミングコンペでのDJなど、Jazzy SportがスポーツシーンでのDJの活動をはじめたきっかけは?
最初はスキーのヴェクターグライドの試乗会でした。真冬のゲレンデにDJの機材持ち込んでやったのが初めての現場でしたね。クライミングの現場も同じくらいの時期で韓国のアウトドアショーのイベントがあって、小さな壁を立ててクライミングの大会をやっていたんです。そこでDJをしてほしいと当時韓国ジャジスポの運営をしていた人が誘ってくれて、それがクライミングの最初の現場でした。
——日本での最初は?
日本ではB-pumpのプライベートコンペだったと思います。そこからthe north face cup (the north face主催の全国規模のボルダリング大会)や、ボルダリングジャパンカップなどでもやるようになりました。
——海外ではクライミングの大会にDJが入るのは昔からあったと思うんですけど、日本ではmasayaさんがかかわるようになった当時はどうでした?
the north face cupはジャンルが違いましたけど前からDJは入れていたと思います。ただ、もちろんDJがないコンペもありましたね。かかわる前からB-pumpのコンペに出たことがありましたけど、当時から「もっとこう演出したら良くなるだろうな」というのは自然とイメージしていたと思います。
——スポーツの大会は真剣にストイックにやるものというイメージがあると思いますが、DJを入れての演出というのは独特ですよね。
僕は音楽がかかることで真剣さから逸れるとはまったく思いません。集中するために試合前に音楽を聴くアスリートはたくさんいますよね。だからむしろ欠かせないものだと思っています。
——日本だと音楽とスポーツを切り離して考えてしまいがちというか。例えば部活で音楽をかけることはあり得ませんよね。
僕は体育の授業中に音楽がかかっていても良いと思います。ただ、選手によってはそんな音楽なんて聴きたくないという人もいると思います。AKB48を聴きながら登りたいという人もいるだろうし、ヘビメタ聴きながら登りたいという人もいると思います。そのどれも一つの正解だと思います
——コンペでDJをしていて選手に声をかけられることはあるんですか?
世界選手権やワールドカップになると、いろいろな国の撮影クルーや監督、選手がブースに来て「君たち超かっけえよ!」と喜んでくれるので、救われます(笑)。
——日本の人はあまり声をかけてこないんですね。
もちろん音楽が好きな選手は声をかけてくれますが、「なんかあの人たちがかけている音楽は良いらしいよ」と、それくらいの認識かもしれないですね(笑)
ただ、そういう場を任せてもらえているわけなので、それに恥じぬようにやるだけです。そのうえで海外の人たちに評価してもらえるのは、日本の大会として誇らしいことなのでそれで良いと思います。
——やっていて嬉しいこととかありました?
世界的なルートセッターが「元々ジャジスポのファンなんだよ!」と声かけてくれたことがありました。自分たちをクライミングの世界でサポートしてくれる重要な人物にもそういう人がいて、ジャジスポとして世界に向けて発信してきたことがクライミングの世界でも生きているなと感じる瞬間は嬉しかったですね。
応援するつもりでDJをやっている
——もともとスポーツシーンでDJをやりたいとか、スポーツに音楽を取り入れたいとか、そういう思いはあったんですか?
昔からショーアップやエンターテイメント性というところでバスケのNBAが大好きだったので、日本とのこの差はなんだろうという違和感はずっと持っていましたね。だから潜在的にそういう思いはあったと思います。
——masayaさんの中で音楽とスポーツが融合している原風景は?
やはりNBAですね。ハーフタイムショーやオールスターのパフォーマンスが昔から大好きでした。それよりもずっと後になってX GAMEなど、音楽とスポーツを強調した世界観が生まれてきましたけど、最初の記憶というとNBAだと思います。まだ子どもだったので純粋にあのエンターテイメントの世界に引き込まれました。その後、スケートボードのビデオでHIPHOPが技の動きとシンクロしているような世界観にも魅せられました。
——クライミングの世界にDJとしてかかわるようになったときは、どんなイメージでその場を作ろうと考えていました?
クライミングはあの緊張感が魅力だと思うので、それを音楽の効果によってより高めるイメージですね。あとは完登できなかったとしてもその中の1ムーブ、2ブームがすごく気持ちいいという部分もあるので、いろいろなテンションの音楽を放り込めるという特徴もあります。基本的には気持ちいいもので、選手の邪魔にならないようなイメージでやっていますね。たまに日本の選手でも「自分のときにかかっていた音楽なんですか?」と聞きに来てくれることもあって、そうやってリアクションしてくれる人の反応を信じて選曲するしかないと思っています。これからもストイックとシリアスさ、緊張感というのを助長するような雰囲気作りをコンセプトにやっていきたいと思っています。
——いろいろな現場でDJをやられてきたと思いますが、クライミングとDJの相性はどう思いますか?
普段の現場のDJは基本的には踊ってもらうというのが根本にあります。クライミングの現場はthe north face cupくらいのお祭りだと体揺らしながらクライミングを見ている人がいたりします。僕としてはそれが理想なんです。ただ、ジャパンカップとかになるとお客さんはみんな椅子に座って真剣に見ているんですよね。そうなるともうDJというより、音響さんという感じになってしまいます。現場でもそう捉えられているし、それはそれでいいと思っています。
——例えばサッカーの中にはチャントがあったり、スポーツと音楽は昔から密接なものだと思うんですけど、masayaさんにとってスポーツの中の音楽はどんなイメージですか?
チャントもそうだし、鼓舞するものだと思いますね。いつもチアアップDJと言ったりしますけど、本当に応援するつもりでやっているんです。でもどこまで伝えられるかはかなり難しいところですね。とくにクライミングだとある程度ミニマルな世界観の中なので、あまりゴチャゴチャした音楽はかけづらいですよね。基本的には「頑張れ!」と鼓舞して応援する気持ちでやっています。 Vol.1「スポーツと音楽の幸せな関係」 (ハイパーリンクURL) https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fae5137c47caf5cd81dd142 Vol.3「スポーツを自由に楽しめる空間をつくる」 (ハイパーリンクURL) https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fae545333b843697d50d712
■プロフィール
Masaya Fantasista 1977年生まれ。神奈川県横須賀市出身。幼少のころに始めたピアノで音楽に目覚め、両親の影響でジャズ、その後はヒップホップなど、あらゆる音楽に没頭する。2001年に音楽とスポーツの力を信じて疑わない女性に優しいハードコア集団「Jazzy Sport」を設立。アーティストのプロデュースや音楽イベントを開催する傍ら、スキーブランドVector Glideとのコラボツアーやクライミング日本選手権でのDJ活動等、 山岳スポーツシーンの振興にも力を注ぐ。
LATTEST SPORTS JazzySportプロデュースのボルダリングジム" THE STONE SESSION TOKYO "、サイクルショップ、自家焙煎の本格派コーヒースタンド、遊び砂場など、大人から子どもまで楽しめるスポーツ複合施設が登場。音楽やアートの大規模カルチャーイベントも開催。 https://www.instagram.com/lattestsports
■クレジット
取材・構成:Smart Sports News 編集部
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