• HOME
  • 記事
  • ゴルフ
  • いいスイングには自律神経の安定が必須!「迷い」こそ緊張と不安の悪循環を生みスイングを崩す真の原因【ゴルフが整う自律神経のトリセツ】

いいスイングには自律神経の安定が必須!「迷い」こそ緊張と不安の悪循環を生みスイングを崩す真の原因【ゴルフが整う自律神経のトリセツ】

イラスト・のり

このところ自律神経というキーワードが広く一般に浸透しています。さまざまなメディアが「自律神経の乱れが心身の不調を招く‼」、「自律神経を整えて健康長寿に‼」といった特集を組み、そのためのノウハウや解説を見聞きする機会も増えました。

30年以上にわたり自律神経の研究を続けている私としては、これまでのデータや研究結果が多くの方々に役立つのは大変うれしいことです。ここで、あらためて自律神経について説明させていただきましょう。
 
自律神経というのは、体中に張り巡らされている末梢神経の一つです。脊椎の中を通ってすべての臓器や機能と密接にかかわり、内臓、呼吸、血流、体温などをコントロールして生命活動の根幹を支えています。24時間絶えず心臓を動かしたり、食べ物を消化・吸収したり、寒暖によって汗をかいたり鳥肌が立ったり、緊張時にドキドキしたりするのも、すべて自律神経の働きによるものです。
 
この自律神経には、交感神経と副交感神経とがあります。クルマにたとえれば前者はアクセル、後者はブレーキのようなもので、二つがバランスよく活動することによって人は快適かつ健康的に過ごすことができています。しかし、両者のバランスは、季節、天候、時間帯といった外的要因、さらに体調やメンタルなど内的要因により、常に変化しています。
 
どちらか一方が優位になりすぎたり、鈍くなったりしてバランスが崩れると、たちまち心身に不調が表れます。健康面はもちろん仕事、勉強、スポーツのパフォーマンスにも大きな影響を及ぼします。
 
■ゴルフは考える時間が長いから心が乱れる
 
こうしたことが少しずつ解明されるに従い、トップアスリートが私の元を訪れるようになりました。サッカー、野球、陸上……プロゴルファーも多くなり、今では選手たちと一緒になって自律神経が乱れてしまうメカニズムを分析したり、原因と対策の研究や選手への助言をしたりしています。
 
さまざまなスポーツの中でゴルフは特殊な競技です。天候、コース、パートナーといった環境はその都度変わり、ボールの状況は一打ごとにまるっきり違います。自分ですべてを判断し、どこへどうやって打つかを決め、自分で実行していかなければなりません。サッカーや野球やテニスのように、相手のプレーに対して瞬間的な反応を求められる種目より圧倒的に考える時間が長いぶん、プレッシャーやストレスもかかります。これほど心を乱される要因が多く、自律神経の影響を受けやすいスポーツは他にありません。だからこ
そよいパフォーマンスをするためには自律神経をコントロールし、うまくバランスを整えることが絶対条件になってきます。
 
■試合中スイングのことを考えたらプロでも崩れる
 
では、どのようにして自律神経のバランスを整えるかですが、先ほどもお話ししたようにゴルフのラウンドには自律神経を乱す要因が落とし穴のごとく潜んでいます。ですからそれを予期してできるだけ避けながら歩き、足を取られそうになっても踏みとどまるための対処法を自分なりに備えておくことが重要です。
 
例えば先日一緒にラウンドしたあるプロが「今のトーナメントではみんな、クラブを下に落とすイメージで切り返しています。でも、自分はクラブが寝てしまう。いっそトップ
を高くしようかな」と、いうのです。
 
もしそういうことが試合中、頭をよぎったら自律神経は間違いなく乱れます。というのもプロは365日たゆまぬ練習をして、トーナメントでみんな同じように高度なショットを打っていますから、もはや技術のうまい、下手ではありません。
 
特にその日の上位10人から20人くらいは微妙な自律神経の乱れがスコアに出ます。そこだけの差なのです。
 
「確かにトップが高ければ下に落ちざるを得ませんね。シンプルで分かりやすいほうが迷いませんよ」と、私は答えました。はたから気づかないほどわずかであっても、本人は修正することによって安心感を得られます。修正ポイントが定着するまでの間だけでも練習場でトップの位置をチェックするルーティンをつくれば自信がつき、スイングの不安や迷いはなくなって自律神経も安定します。
 
■迷いをなくすことが“始めの一歩”
 
アマチュアの場合は、さらに注意が必要です。アドレスは~、バックスイングの軌道は~、トップの位置は~、など考えだしたらゴルフになりません。それだけで交感神経が高まり、自律神経は乱れきってしまうからです。
 
かくいう私も経験者です。かつてトップを浅くしようと思ったことがきっかけでスイングがスムーズにできなくなり、しまいには体が固まってクラブが下りなくなった時期があります。なんとドライバーのイップス。1年ほど試行錯誤して立ち直ったのは、「地面と平行になるまでバックスイングをしっかり上げる」思い切った対処法のおかげでした。
 
トップをつくる。そこから一気に振り切る。その練習をしたことで迷いがなくなり、ドライバーを握ると急激に高まっていた交感神経が落ち着くようになりました。迷いこそ不安と緊張を生む悪循環のもとだったということです。今はナイスショットしたときはもちろんですが、たとえ60~70%のショットでも気分よくクラブを振ることができています。
 
そもそもゴルフというスポーツにスイングやスコアの安定などありません。プロでさえそういうのですから、アマチュアの私たちにはなおさらです。スイングの安定よりも自律神経を安定させる努力をするほうが、ずっと早く確実に、いいパフォーマンスやいいスコアに近づくことができるはずです。目に見えないので難しく感じるかもしれませんが、自律神経のコントロールは誰にでもできるのです。(文・小林弘幸 構成・野上雅子)
 
●小林弘幸/順天堂大学医学部教授 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
1960年生まれ、埼玉県出身。自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手やアーティストのパフォーマンス向上指導にかかわる。自律神経のバランスを意識的にコントロールすることにより心身の潜在能力を最大限発揮できることを提案し、テレビ番組等で解説している。著書も多数あり、2022年12月『ゴルフが上達する自律神経72の整え方』(法研)を刊行。

関連記事