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S ・シェフラー優勝の陰に秘められたストーリー【舩越園子コラム】

シェフラーは最終18番で長いパーパットを決めてガッツポーズ!(撮影:GettyImages)

PGAツアーのフラッグシップ大会であり、“第5のメジャー”と呼ばれている「ザ・プレーヤーズ選手権」は、昨年のマスターズ覇者、26歳のスコッティ・シェフラー(米国)が2位に5打差をつけて圧勝。今季2勝目、ツアー通算6勝目を挙げ、世界ランキング1位に返り咲いた。

優勝争いの終盤はシェフラーの独り舞台のような展開だった。しかし、その陰には、たくさんのストーリーが秘められていた。
 
最終日を単独首位で迎えたのはシェフラーで、2打差の2位にはミンウー・リー(オーストラリア)がつけていた。
 
オーストラリア出身のリーは24歳。メジャー2勝、米LPGAツアー8勝を誇るミンジー・リーの弟で、すでに欧州のDPワールドツアーでは2勝の実績を持つ。
 
だが、PGAツアーの出場資格は有しておらず、2月のホンダ・クラシック(26位タイ)後に世界ランキングが50位へ上昇したことで、今大会出場が実現。初出場にして最終日最終組になったリーは、優勝すればPGAツアーのメンバーシップもマスターズ出場も叶い、優勝できずとも単独4位以内に食い込めば、スペシャル・テンポラリー・メンバー資格が得られる状況だった。
 
「感情のコントロールさえできれば」と目を輝かせていたリーだが、3番でボギーを先行させたシェフラーと首位に並んだ途端、リーのメンタル面は乱れ始め、その結果、彼のゴルフも乱れていった。
 
PGAツアーの大舞台で挑む初めての優勝争い。想像をはるかに上回るプレッシャーに襲われることは、誰もが一度は通る道。今大会は勝利に手は届かず、6位タイに終わったが、リーが自分のゴルフを披露できる日は、必ずや到来すると信じたい。
 
崩れていったリーを傍目にシェフラーは自分の世界を築き上げ、8番からは5連続バーディーを奪って着々とリードを広げていった。
 
とはいえ、ノープレッシャーだったわけではない。「ヒデキのグレート・ラン(素晴らしい追撃)が気になった」。
 
最終日を26位タイからスタートした松山英樹は、前半で4バーディーを奪うと、後半も11番から3連続バーディーを奪取してリーダーボードを駆け上がった。
 
しかし、14番では2打目を大きく右に出してダブルボギー、18番ではティショットを右に出してボギーを喫したことが悔やまれる。だが、3試合ぶりに決勝進出を果たし、優勝争いに絡んだからこそ、アグレッシブに攻める気持ちや勝利への意欲が絡み合い、そこにほんのわずかな狂いが加わって生じたミスだったのだろう。
 
シェフラーが14番と18番で見せたミスも、松山のそれとよく似ていた。ビッグな優勝を意識する位置にいたからこそ、誘発されるミスだったが、「我慢のしどころだと思い、目の前の一打に集中した」と振り返ったシェフラーは、14番をボギーで収め、18番は6メートルのパーパットを沈めて勝利。大きく腕を広げてガッツポーズを取った。
 
ロープ際には、シェフラーの妻や両親とともに88歳になる祖母メアリーの姿があった。かつて「テキサスの天才児」と呼ばれ、ジュニアゴルフを席捲していたシェフラー少年を、いつも見守っていたのは彼の祖父母だったそうだ。
 
昨年、祖父は他界。今週、祖母は4日間、TPCソーグラスを歩行器を押しながら歩き通し、孫の雄姿に惜しみない拍手を贈った。
 
表彰式でマイクの前に立ったジェイ・モナハン会長の祝辞が素敵だった。
 
「素晴らしい勝者スコッティ・シェフラーとキャディのテッド・スコット、そして、すべてのシェフラー・ファミリーへ、優勝おめでとう」
 
そして、シェフラーも「グランマ(おばあちゃん)、72ホール全部歩いたの?すごいね、驚いたよ。一緒に楽しんでもらえて本当に良かった」
 
2位に5打差の圧勝ぶりも、手にした優勝賞金450万ドルも、世界一の王座奪還も素晴らしかったが、思わず笑顔と涙を誘われたのは、やっぱりビハインド・ザ・シーンの心温まるストーリーだった。
 
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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