新たな「道」を走るL・アベルグ、久常涼に期待【舩越園子コラム】
PGAツアーのフェデックスカップ・フォールの最終戦「ザ・RSMクラシック」を制したのは、スウェーデン出身の24歳、ルードヴィッヒ・アベルグだった。今年プロ転向したばかりで見事な初勝利を挙げた新人の今後に、大きな期待が膨らんでいる。
2日目に単独首位に浮上したアベルグは、決勝2日間をどちらも9アンダーの「61」で回る快進撃。プレッシャーがかかる最終日の終盤も17番、18番で連続バーディを奪い、2位に4打差を付けるトータル29アンダーで圧勝した。
アベルグの名は、日本では、あまり知られていないのではないだろうか。それもそのはず。彼は今年の春にプロ転向したばかりのルーキーだ。
スウェーデン南部のエスロヴという人口2万人の小さな町で生まれ育ったアベルグは、幼少期はサッカーに興じていたが、13歳からは「自分ですべてをコントロールできる」と感じたゴルフに夢中になった。
スウェーデンのナショナルチームに入ってからは、地元のハイスクールから国営のナショナル・スポーツ・ハイスクールへ転校。朝も晩も学業の前後に集中的にゴルフ練習に取り組み、めきめき腕を上げていった。
大学は米国のテキサス工科大学へ留学した。世界アマチュアランキング1位へ上り詰め、PGAツアー・ユニバーシティでも1位になって今季のPGAツアー出場資格を獲得。6月の「RBCカナディアン・オープン」でプロデビューを果たした。
7月にはプロ4試合目の「ジョン・ディア・クラシック」で早くも優勝争いに絡み、4位タイ。9月にはDPワールド(欧州)ツアー「オメガ・ヨーロピアン・マスターズ」を制し、まず欧州で初優勝を挙げた。
そんなスピード出世ぶりと新人らしからぬ落ち着きが評価され、9月には欧米対抗戦「ライダーカップ」にキャプテン推薦で出場。2勝を挙げる活躍を披露した。
フェデックスカップ・フォールでは、出だしの3試合すべてでトップ15に食い込み、そして最終戦の「ザ・RSMクラシック」で堂々、初勝利を手に入れた。
ドライバーからパターまで「弱点がまったくない」と言われるオールラウンド・プレーヤーだが、彼の最大の武器は「強靭なメンタルだ」と米ゴルフ解説者たちは口をそろえて高評価している。
アベルグ自身は、勝利を決めた後の優勝インタビューでも「まだドキドキしている。信じられない。夢を見ているみたいだ」と語っていたが、プレー中の彼は、現実の戦いをしっかりと見据え、クールな表情でカップにボールを沈めていった。
激しいガッツポーズこそ見せなかったが、プロデビュー戦からわずか11試合目ながら冷静沈着なプレーで圧巻の初優勝を挙げたアベルグの勝ちっぷりが、1996年当時のウッズに「よく似ている」「ネクスト・タイガー?」と、すでに米メディアの間でささやかれていることは、まさにその通りだと頷ける。
ところで、PGAツアー・ユニバーシティは、若い才能を開花させるための道としてPGAツアーが2020年に創設した新たなシステムだ。
ランキング1位にはPGAツアー出場資格が付与され、トップ10には下部ツアーのコーンフェリーツアー出場資格、トップ20にはPGAツアー・アメリカズの出場資格が授けられる。ちなみに、PGAツアー・アメリカズとは、従来のPGAツアー・カナダとPGAツアー・ラテン・アメリカが合体した新ツアーのことだ。
アベルグは、このPGAツアー・ユニバーシティのランキングで1位になり、今春、プロ転向を宣言して、即座にPGAツアーにデビューすることができた。
一方、欧州ではDPワールドツアーのレース・トゥ・ドバイのトップ10に来季のPGAツアー出場資格が付与される新システムで、久常涼が有資格者を除いた10位に食い込み、来季のPGAツアーへの切符を手に入れた。
米欧両ツアーが若者たちのために開いた新たな道をスピーディーに走り始めたアベルグや久常。これからの活躍が楽しみでならない。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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