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渋野日向子、衝撃の全英制覇 初海外で成し遂げた快挙に現地メディアも首ったけ【全英プレーバック19年】

42年ぶり偉業。“スマイリング・シンデレラ”の快進撃を振り返る(撮影:GettyImages)

“スマイリング・シンデレラ”が誕生したのは今から4年前。2019年大会だった。畑岡奈紗、鈴木愛といった国内外トップ選手が挑戦し予選落ちを喫するなか、一人の新星がイギリスの空に高々と両手を突き上げた。当時20歳の渋野日向子が海外初参戦で、見事な勝ちを収めた。

■無欲のメジャー初出場から一転…

17年の国内プロテストに失敗し、18年に2度目の挑戦で合格。19年はQTランキングで国内ツアーを戦うことになった。すると5月の「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」でツアー初優勝。6月末の国内賞金ランキング上位の資格で全英切符を手にした。

はじめての海外参戦を前に、早めに日本を発った。そのときに語っていた言葉には“優勝”の言葉などはなかった。「まずは予選通過を目指したいです。周囲からは最低でも来年の出場権がもらえる15位以内とか言われますが、できません(笑)。まずは楽しみたい。それで予選通過できたら、そのあと考えます」。楽しみたい気持ちがいちばん。そんな思いが、快挙を生むことになる。

「リンクスっぽくない。雰囲気も日本(笑)」というのが、会場となったウォーバーンGCの第一印象だ。それもそのはずで、ロンドンから車で約1時間北に位置するコースは典型的な林間コース。「日本にも似てる」という環境で、渋野は初日から躍動した。

午前スタートで同組はミンジー・リー(オーストラリア)とアンナ・ノルドクビスト(スウェーデン)という大物2人。だが、雰囲気に飲まれることなく、7バーディ(1ボギー)を量産した。「なぜ? って感じ(笑)。なんでこんなにバーディ獲れてるの? って。できすぎなので120点です」と自己採点。ホールアウト時点では首位に立ち、終わってみれば午後組に抜かれはしたが、2位タイで滑り出した。

日本から来た選手の一人という程度か、もしくはそれ以下の認識だった海外メディアも、この好発進に注目する。終始笑顔でお菓子を頬張りながらプレーする渋野の姿とスマイルが海外ファン、メディアの目には新鮮に映った。そして2日目も、渋野の快進撃は止まらない。

前半を3バーディ・1ボギーとして2つ伸ばすと、後半に入っても1バーディ。ビッグスコアとはいかなかったが、順調にスコアを伸ばし、首位と3打差の2位で決勝ラウンド行きを決めた。「この順位はできすぎ。これで自信になったら天狗になっちゃうので、自信にはしません(笑)」とおどける余裕もあった。

ホールアウト後は海外メディアに囲まれた。シンデレラストーリーを実現してきた日本ツアーでは笑顔が印象的という日本の状況を聞きつけ、“スマイリング・シンデレラ”という言葉が全世界を駆け巡った。「特に欲張らず、来年の出場権(15位タイ以内)を得られる順位までは行きたい」と目標を上方修正。そしてここから、未知の世界に突入することになる。

■主役に躍り出た決勝ラウンド

3日目からは二人ひと組の2サムとなり、アシュレー・ブハイ(南アフリカ)とのプレー。スタートはかつて経験したことのない午後の遅い時間だった。前半は波に乗れず1バーディ・2ボギーで1つ落とした。この時点で首位のブハイとは6打差。上位争いの重圧か。そう思われたが、そこからが渋野劇場の始まりだった。

折り返した10番をバーディとすると、12番、14、15番、そして17、18番でもバーディ。なんとトータル14アンダーまで伸ばして単独首位に躍り出た。ホールアウト後はすぐさま会見場に呼ばれ、ここで爆笑を誘うことになる。「すごくびっくりしています。今、終わってから緊張しています。今日食べたものが全部出そうです(笑)。今まで経験したことのない感情と吐き気です(笑)」と会見場をどっと沸かせた。

「きょうが日曜だと思っていたんですけど、日曜日じゃなかった(笑)。あしたも絶対緊張すると思うけど、最後まで攻めて、頑張れば優勝できるかもしれない。この位置なら優勝を狙わないわけにはいかないので…」。複雑な感情を抱き、快挙がかかる運命の最終ラウンドへと向かう。

この時点で、現地も含め、世界のゴルフメディアの見出しは渋野で埋まった。それほどの衝撃を与えた渋野の快進撃。現地時間午後2時35分のスタートを前に、渋野は昼の0時25分にコース入り。元気な姿で登場した。「めっちゃ寝られました」と明るい表情で語り、準備へと向かった。

緊張感あふれるスタートホール。渋野の1打目はフェアウェイを捉える。そしてそこから2つパーを並べたが、3番でスコアが動いた。パー4で2オンすると、なんと4パットのダブルボギー。見えない緊張感が襲ってきた。そんな状況から立ち上がろうと必死に食らいつき、5番で4メートルをねじ込み1つ取り返すと、7番でもバーディ。スタート時のスコアに戻したが、8番でボギーと苦しい時間が再び訪れる。前半を終えた時点で首位とは2打差の3位。勝負のバックナインに入った。

初日、3日目とバックナインでは「30」というスコアをたたき出しており、相性はいい。すると10番でバーディを奪取し追い上げ開始。12、13番で連続、そして15番でもバーディと勢いをつける。迎えた18番パー4。すでにプレーを終えていたリゼット・サラス(米国)がトータル17アンダーまで伸ばしており、渋野はこのホールでバーディを決めれば優勝、パーでプレーオフという状況だ。ドライバーを振り抜きフェアウェイセンターを捉えると、2打目は「ダフった(笑)」といい当たりながらピン手前6メートルを残した。

「前半少し緊張していたけど、後半はあまり緊張していなくて。最後のパットもそこまで緊張していなかった」と振り返るパット。下りのラインを強気に攻めると、ボールはカップの奥に当たり“壁ドン”でカップイン。「ここで決めるか、3パットするかと思って、強気で打ちました。かなりガッつきました。打った瞬間は少し強いかなと思ったけど、決めたかったので『入れ!』と思いました」という一撃。日本勢女子では樋口久子以来、42年ぶりのメジャー制覇が決まった瞬間だった。

笑顔で両手を突き上げ、キャディを務めたコーチの青木翔氏と優勝の喜びを分かち合った。「鳥肌が立ちすぎて、言葉にできないです。試合が終わってから緊張してきました。泣きそうになったけど、結局涙が出ませんでした(笑)」と最後まで涙なし。最高の笑顔で快挙を締めくくった。

いまだ記憶に新しい、日本ゴルフ史に残る4日間の激闘。注目が集まったスマイルの裏で、渋野は苦しんでいた。「笑っていましたけど、この4日間本当につらかった。気疲れがハンパじゃないので。あの位置にずっといるというのは気も使っていたと思う。何回『帰りたい』と言ったか分からない。シビアなパットとかきつかったですね」と振り返った初全英。渋野フィーバーはその後もしばらく続くことになった。

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