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「グリーンで止める気なんてなかった」 なぜ木下彩は世界ランカーたちが予選落ちしたメジャーで13位に入れたのか

多くのトップ選手が苦しんだコースで、木下彩がオーバーパーを打ったのは初日だけだった(撮影:ALBA)

「シンプルに疲れました。やっぱり日本のご飯は美味しい!」。つい先週、米国で大きな経験を積んだ木下彩は、いつも通りのサバサバとした口調で、大舞台に挑んだ一週間の感想を話した。こんな明るい声を聞いたのは帰国直後の14日(金)。まだ少しくらいは余韻に浸っていてもよさそうなものだが、プライベート、試合を通じても生まれて初めてとなった海外の印象を聞いた時も、「なんか肉とか全部でかい。やっぱり出汁の効いたうどんとか食べたくなりますよね(笑)」と“らしさ”に溢れた答えが返ってくる。

7月6〜9日、メジャー大会「全米女子オープン」に出場した24歳の木下は、日本のゴルフファンを大いに楽しませた。5月29日に千葉県で行われた日本最終予選を突破し、本戦出場権を獲得。「まだ本調子ではないけど、『待ってろペブルビーチ!』って感じです」と、女子のメジャーを初開催する米カリフォルニア州の名門コースに挑んだ。そして最終的に海外メジャー初出場で13位タイ。「みんなびっくりでしょ」とニヤリとする好結果を残した。手にした賞金は16万7641ドル(約2300万円)。さらに不調が続き苦しんでいた国内ツアーのポイントレースでも112ptを加算し、一気にシードを狙える位置まで急浮上と、太平洋に面するコースで十分な“釣果”を手にした。
 
世界ランキング1位のコ・ジンヨン(韓国)をはじめとするトップランカーや、国内で2年連続年間女王を狙う山下美夢有らが予選落ちしたコースに、世界ランキング431位だった木下がいかに対峙したのか。それについて聞くと、「(自分のプレースタイルの)条件が合ってましたね」と振り返る。特に『なるほど』と感じさせたのが、「(グリーンでボールを)止める気なんてなかった」という言葉と、それに続く説明だった。
 
練習日もまだ序盤のペブルビーチはグリーンがやわらかく、海から吹き込む風、そして芝質の違いはあれど、グリーンにキャリーさせればボールを止めるという点では違和感なくプレーできるものだった。それが「水曜日には全然違ってました」と、開幕が近づくにつれ、その表情がガラリと変わったという。このコンディションの変化もあり、選手たちの発想は『強い風のなかでも、しっかりと高い球を打ってグリーンで止められるように』という風にシフトしても無理はない。実際コースには、その練習に時間を費やす選手たちの姿も多く見られた。
 
しかし、もともとのグリーンの小ささもあり、結果的にこの考えによりいばらの道に誘われた選手もいたはず。だが木下の頭のなかには、はなっから“高い球合戦に挑む”選択肢はなかった。
 
「風も強いし、私はもともと球が低い。砲台以外は、グリーン手前から転がすことを考えていました」。これが“グリーンで止める気なんてなかった”という、こころだ。いわば逆発想ともいえる。こう割り切り、ピンに絡まないならパターでしのげばいいという考え。「77」を叩いた初日こそ、「芝(ポアナ)が日本と違って、グリーンが読めなかった」と苦戦を強いられたが、2日目以降それに慣れると、戦略がバチっとハマっていく。
 
木下のバッグを担いだキャディは、こう証言する。「練習日から、『何ヤード手前から転がす』とか、『転がした時、どの傾斜が使えるか』などを確認していました。ペブルビーチは、グリーン手前や花道がしっかり刈り込まれているホールも多かったですし、なるほどな、と思いながら見ていました」。ピンをデッドに狙いたいと思っても、「手前から」を徹底。実際、試合を見ていると、特に午後組はグリーンにキャリーしたボールが大きく跳ね、その奥にこぼれていく場面をよく見かけた。
 
4日間通じての木下のパーオン率は、72ホール中39回の54%(45位タイ)で、数字だけを見れば、決して高いものではない。ただ優勝したアリセン・コープス(米国)でさえもパーオン率は65%で、これは全体3位の数字。パーオン率1位のベイリー・ターディー(米国、最終成績は4位タイ)でも71%と、ようやく70%台に乗せた程度だ。
 
そのなかで木下は、ショートゲームの貢献度(ストロークス・ゲインド)が『+0.96』の10位で、平均パット数は『1.74』の19位タイ。これらを見ると、『いかにグリーンに乗せるか?』と同時に『どのように外すか?』を考える必要があったようにも思える。ちなみにフェアウェイキープ率は82%(46/56)で7位タイ。狙いやすいところから、2打目以降を打てていたことも結果を大きく左右した。
 
予選通過をかけて戦っていた2日目。右が海につながる崖の6番パー5の2打目で、その海に打ち込むかのように右に出ていった7番ウッドのショットが、急激にフックで戻り、ピン3メートルのイーグルチャンスにつくスーパーショットも見せた(結果はバーディ)。木下のハイライトのひとつだが、これも「風がめっちゃ右から吹いていて、つかまってフックしやすい7番ウッドで打てたから狙えました」と、やはり「条件がそろっていた」と話すシーンだ。話を聞いていると、いかにペブルビーチが味方する選手のひとりだったかを感じる。
 
惜しくも来年の出場権確保が決まる10位以内は逃したものの、「限界でした(笑)。もちろん悔しさはありますけど、人生初の海外。ここまでできれば上出来だし、楽しかったです」と、やっぱり明るい声が返ってくる。4日間ともに戦ったキャディは「自分は何もしてない。本当に素晴らしいプレーでした」と最敬礼する。日頃からそのウィットに富んだ発言でも楽しませてくれる個性派が、“何かやらかしてくれる”という印象をさらに強く植えつけた4日間だった。(文・間宮輝憲)

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