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「やらずに違うと決めてしまったらそれまで」 渋野日向子が復活に向けコーチと続けてきた“試行錯誤”【辻にぃ見聞】

今年の全米女子オープンを単独2位で終えた渋野日向子(撮影:ALBA)

今年の「全米女子オープン」は優勝・笹生優花、2位・渋野日向子の日本勢“1、2フィニッシュ”という形で幕を閉じた。同時に、この大会はこれまで苦しんできた渋野の復調を印象づける4日間にもなったが、そこに至るまでの道のりを、今季から渋野が師事する辻村明志コーチに聞いた。

■昨年末から指導…試行錯誤の毎日

「止まっていた針が動き出したなと思える4日間でしたね」。辻村氏は、深夜にテレビから流れる渋野のプレーする姿を見て、そう感じていた。そして、ともに“試行錯誤”を続けてきた日々を思い返す。

渋野が、上田桃子や吉田優利らを指導する辻村氏の門を叩いたのは昨年末のこと。ポイントランキング83位に終わり、シードを喪失するシーズンが終わった後だ。「スイングについては、言い過ぎではなく何十個も修正すべき点を指摘しました。とにかく一日でも一時間でも多く練習をしてもらいたかった」。課題は山積み。それをひとつひとつ解消するため、ここから二人三脚の日々が始まる。この冬には寒さに耐えながら、辻村氏が拠点を置く千葉県に、連日のように通い、最低でも3時間はみっちり練習していく渋野の姿があった。

ここで2人が大事にしてきたことがある。「僕には“やらずにこれが違うと決めてしまうとそれまで”という考えがあります。『こうじゃないかな?』と思ったら、まずやってみる。それでダメなら捨てる。これを繰り返しました。試したことは数十個はあるんじゃないでしょうか」。まさに“試行錯誤”の連続。「フィーリングが合うものを探すのに、すごく時間を使いました。どの方向からやればいいのか。それを探すところからでしたね」。2月にチーム辻村が行ったキャンプでも、何度もトライ&エラーを繰り返してきた。

実は渋野は全米女子オープンの会場で、こんなことを話していた。「とにかくいろいろやってきました。取捨選択をして、合わないものは切り捨てて」。また開幕前には、こんなことも。「よりいいものがあると思ったら、ちょこちょこ変えている。自分が打ちたいドローを打つためのものがもっとあると思っていろいろ試していました。まだまだベストではないけど、前よりはマシなボールが打てていると思う」。この冬に、辻村氏と取り組んできたことを大事に、日々の練習に生かしていることが伝わってくる。

■言い聞かせたのは『慌てるな』

選手にとってスランプは避けられないもの。もちろん辻村氏も、そういう選手を何人も見てきた。「状態がよくなるときには段階があります。最初は『イメージはできるけど打つとできない』。それが『練習ではできるけどコースに入るとできない』に変わる。そして『コースではできるけど試合ではできない』という段階が必ずあります」。取捨選択のなかで見つけた自分に合いそうなものを徹底的に落とし込み、この段階を踏むことに腹をくくった。

「いままでの感覚とは違うから、正しいことをやってもなかなかタイミングが合わない、ということがあります。だから、そのときは『慌てるな、慌てるな』と自分に言い聞かせていました。もちろん結果はすぐに欲しい。だけど“結果、結果”にはならないように、すごく注意して見ていました」

そこでは、どんなことが行われていたのか? 例えばトップからダウンスイングに入るときの切り返しもそのひとつ。「どうしても自信がないときは、切り返しの瞬間に“間”がなくなります。どうすれば、その“間”が持てるか。そして手先に力が入らないか。一番そこに時間をかけたと思います」。テレビに映し出される今週の渋野には、その“間”がしっかり確保されていたという。「少し静かになったし、トップでワチャワチャしなくなりました」。こうして、ひとつひとつ課題をつぶしてきた。

冬は「ボロボロ」になった姿を見てきたというが、そのなかでも辻村氏も驚いたのが渋野の「集中力」だったという。「ゾーンに入ったときの強さ、集中力の高さは人の3倍はあるように見える。これがコースで出だしたらおもしろいぞ、と思っていました。これまでは、ミスをしてきたイメージとの戦いもありました」。これをやってみよう、となれば謙虚にそれを受け入れ、愚直に毎日毎日繰り返す渋野の姿を辻村氏は何度も見てきた。

■辛抱を続けた結果つかんだ全米2位という結果

そんな辻村氏の言葉を裏づけるようなできごとが、大会3日目にあった。この日、「66」の好成績を出して優勝争いに食い込んだ渋野は、7バーディを奪っていたのだが「数えてなかったですね。いつも数えているタイプだし、(集中していたん)だと思います。ひさしぶりの感覚でした」と話していた。まさにゾーンに入っていたともいえる。そしてこういった部分にも、これまで何度も見せてきた勝負強さ、勝負根性の理由があると辻村氏は感じている。

実はここ1カ月ほど、辻村氏から渋野にスイングの話をすることはなくなったという。「いまは、自分の感覚とすり合わせることが大事だと思っています。最終的にシンプルにしないと結果には結びつかない。やっと意識してやる部分が、“片手くらい”になったのでは? という気がしています。フィールドに出たら、スイングのことは誰も助けてくれません。自分の感覚で落とし込むしかないんです」。失敗しては、やり直したり、別の方法に変えてきたことを、自分のものにするのが今の段階なのかもしれない。

「逆に巻かれていたネジが、正常な方向に回り出したという感覚を今週のゴルフを見て思いました。最終日もすごくプレッシャーがあったと思う。下手したら、大たたきして復活ロードに乗るチャンスを逃していた可能性もあったと思う。辛抱して、辛抱してこれまでやってきた結果、復活ロードに乗れたように見えましたね」

ここからは“成功体験”を増やすことが重要になってくるとも辻村氏は考えている。「できないときにへこんでも、それを信じて、しっかりやり続けたことが、強みだなと思います」。笑顔をのぞかせる渋野を見て、少し安心感も抱いたという。「あの表情は、次が楽しくなってきたからじゃないですか。そういうときに自然な笑顔が出てくるタイプだから」。この希望をさらに大きなものにするため、ここからも“試行錯誤”は続いていく。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、吉田優利らを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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