欠品が続く人気シャフトに採用された“謎の新素材” 三菱ケミカルの「バイオプレグ」ってどんなもの?

写真左が三菱ケミカルの素材開発を担当している鴋沢浩平(ばんざわ・こうへい)氏、右が田口真仁(たぐち・まさと)氏。『S-TRIXX X』に採用された「バイオプレグ」の開発にも従事した

高性能素材を投入して極限まで性能を高めたシャフト

ゴルフというスポーツにおいて、ゴルファーとヘッドをつなぐ「シャフト」は極めて重要なパーツだ。スイングで作り出したパワーを効率良くボールに伝え、正確に遠くに飛ばすにはシャフトの性能がカギになるからだ。

そんな中で今、注目を浴びているシャフトの一つがエストリックスの最新モデル『S-TRIXX X』だ。2025年3月に発売されたばかりだが、リシャフト市場で人気を博しており、この記事を執筆している6月下旬の段階では多くのシャフト専門店で欠品が続いている。

アフターマーケットにおける販売のみでこれほどの人気を獲得できたのは、『S-TRIXX X』の「性能」の高さによるところが大きいだろう。『S-TRIXX X』には三菱ケミカル社製の「「DIALEAD™(88t)」や「MR70」といった高性能な素材が惜しげなく投入されている。適材適所にこだわりの素材を配置することで、鋭いしなり戻りによる飛距離アップや高いねじれ剛性による方向性の向上など、シャフトに必要なあらゆる性能を高めることに成功している。88,000円(税込)という高価格帯であるにも関わらず、欠品が続くほどの人気を得ていることが性能の高さを示す何よりの証拠だと言えるだろう。

そして、『S-TRIXX X』について調べを進めていくと、使用している素材の中に「バイオプレグ(正式名称は「BiOpreg # 400シリーズ」)」という見慣れない名前を発見した。なんでも「植物由来の樹脂を用いることで環境配慮への取り組みを進めている」素材のようだが、一般的な素材とどのような違いがあるのだろう。そこで今回は三菱ケミカル株式会社で素材の研究・開発に携わる鴋沢浩平氏と田口真仁氏にインタビューを敢行。謎の新素材「バイオプレグ」の秘密に迫った。

シャフトは炭素繊維のシート「プリプレグ」で作られている

――まずはシャフトに使われている素材がどんなものか教えてください。

鴋沢浩平(以下、鴋沢) ゴルフのシャフトには炭素繊維にエポキシ樹脂のシートを貼り付けて作る「プリプレグ」という素材が使われます。一般的に「カーボン」と呼ばれるものですね。

田口真仁(以下、田口) 「プリプレグ」は炭素繊維やエポキシ樹脂の種類・配合を変えることでさまざまな特性を持たせることができます。弾性や強度を高めたり、粘り強くしたり、耐熱性を出したりとその組み合わせは無数にあります。ゴルフのシャフトには熱を加えることで硬くなる特性を持った「熱硬化性炭素繊維プリプレグ」が使用されています。

鴋沢 「プリプレグ」は炭素繊維が向いた方向に対して強度が高く、逆に90度方向は樹脂だけになるため強度が低くなるという特徴があります。シャフトを作る際は「プリプレグ」をさまざまな形にカットし、マンドレルと呼ばれる芯棒に巻き付けて、加熱することで成型していきます。繊維の方向を変えることでシャフト全体の強度を高め、しなりなどの特性を付けていくのが設計に対する基本的な考え方になります。

田口 最近では1本のシャフトに特性の異なる複数の素材を使うことで性能を高めるのが一般的になりました。高弾性のものや強度の高いもの、ねじれ剛性の強いものなどを組み合わせることで、さまざまな特性を持ったシャフトを作ることができます。

鴋沢 素材と設計の両方が揃わなければ高性能なシャフトは作れません。三菱ケミカルは、素材となる「プリプレグ」の開発からシャフトの製造までを一貫して行うことができます。シャフト開発を手がけるチームとも定期的にコミュニケーションを取りながら、シャフト作りに必要な素材の研究を進めています。

エポキシ樹脂の原料を石油資源から植物由来のものへ

――では、新素材の「バイオプレグ」とはどんなものなのでしょう?

田口 これまで「プリプレグ」の開発では性能を追求してきましたが、「バイオプレグ」はそんな従来の素材とは一線を画すものになっています。「プリプレグ」で使用するエポキシ樹脂は基本的に石油を原料に作られます。限りある資源である石油を節約し、違った原料への転換を図ることは業界全体における大きな課題となっていました。「バイオプレグ」では使用する樹脂の一部を植物由来の原料に置き換えることに成功しました。今までにない“エコな”「プリプレグ」なのです。

$33