忍耐と努力が引き寄せた「紙一重」【舩越園子コラム】

最終日は16番パー3で2度のバーディを奪った(撮影:GettyImages)

「全米プロゴルフ選手権」の翌週に当たる今週、PGAツアーでは「チャールズ・シュワブチャレンジ」が米テキサス州のコロニアル・カントリークラブで開催された。

開幕前に最大の注目を集めていたのは、全米プロで15位タイに食い込む活躍を見せ、一躍有名になったクラブプロのマイケル・ブロック(米国)だった。しかし、2試合連続で好調を維持することはできず、120人中120位の最下位で予選落ち。「やっぱり僕は単なるローカルなクラブプロだ」という言葉を残し、彼はカリフォルニアの自宅へ帰っていった。
 
ブロックが去った後、決勝で注目を集め、最終日を首位タイで迎えたのは、25歳の英国人ルーキー、ハリー・ホールと、31歳の米国人、アダム・シェンクだった。
 
だが、初優勝のプレッシャーを感じながらプレーしていた2人はスコアを伸ばせず、苦しんでいた。そんな彼らの姿を傍目に、アルゼンチン出身のエミリアーノ・グリジョが追撃をかけ、ついには単独首位へ浮上した。
 
しかし、グリジョは72ホール目にティショットを右のクリークに入れ、ボールが水の流れに50ヤードも押し戻されるトラブルに遭遇。ダブルボギーを喫し、最終組の2人と並んだ。最終組のハリー・ホールは72ホール目で池につかまり、優勝争いから脱落。シェンクはバーディチャンスを生かせず、グリジョとのサドンデス・プレーオフへ突入。
 
そして、プレーオフ2ホール目の16番でバーディパットを沈めたグリジョが通算2勝目を挙げた。
 
弱冠16歳で母国を離れ、米フロリダ州のIMGアカデミーにやってきたグリジョは、下部ツアーを経て2015年にPGAツアーに辿り着き、デビュー戦となった「フライズ・ドットコム・オープン」で、いきなり初優勝を挙げた。しかし、それ以来、7年7カ月も勝利から遠ざかり、この日、彼は彼なりに大きなプレッシャーと戦っていた。「初優勝より2勝目のほうが難しいといういわれは本当だった」。
 
初優勝をかけた戦いにも、2勝目をかけた戦いにも、それぞれにプレッシャーはある。そして、勝敗の分れ目は往々にして、ほんのわずかな差から生じるものだ。
 
グリジョが72ホール目でダブルボギーを喫したことで、ハリー・ホールは最終ホールを首位タイで迎え、再び優勝のチャンスにありついた。しかし、ハリー・ホールのティショットは落下後に転がって左の池に落ち、ボギーを叩いてプレーオフ進出と初優勝の夢を逃した。
 
「あのティショットは、ほんの少しだけ左に出たけど、フェアウエイに留まるか、ラフに入るか、池に落ちるかは、どれにもなりえるショットだった。でも、結果は池だった」
 
そう、彼の言葉通り、最終的にボールがどこに留まるかは、まさに紙一重の差だった。
 
一方、サドンデス・プレーオフにおけるグリジョのボールはナイスキックの連続だった。1ホール目の18番ではティショットが右サイドのラフ近辺から上手く跳ね返ってフェアウエイに戻った。2ホール目の16番パー3でも、ティショットが右側のバンカーの淵近辺からグリーン方向へ跳ね返り、ピン1.2メートルへ転がり寄った。
 
キックの仕方次第では大トラブルに陥ってもおかしくない状況だったが、グリジョのボールは、いい方へ、いい方へとキックした。その差は、本当に紙一重だったのだと思う。
 
そして、そのわずかな差を生じさせたものは、彼の技術だったのか、それとも運だったのか。いずれにしても、再び勝利する日の到来を信じ、明日を信じ、決して諦めずに積み上げてきた彼の努力が、勝利を引き寄せたのではないだろうか。もしかしたら、紙一重の「紙」は「神」なのかもしれないとさえ思えてくる。
 
昨年3月に待望の第一子を授かったグリジョは、この日、待ちに待った2勝目を手に入れ、公私ともに充実して感無量の様子だった。
 
「あと1週間、ここに居たい気分だ」
 
彼の口をついた素直な感想が、彼の喜びの大きさと深さを如実に物語っていた。
 
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

関連記事