高反発ドライバーって、最近どうなの?【QPのギアマニュアル】
ゴルフクラブには、フェースの反発に関わるルールがあります。SLE(Spring Like Effect)ルールと呼ばれ、トランポリン効果が高い反発性能のモデルは違反とされます。測定方法はペンデュラムテストと呼ばれ、振り子の先についているボールと同じ半径の鉄球をフェースの中心にぶつけて、どれぐらい反発するかを計測します。その反発係数(COR値)が0.830を超えるものはルール違反となります。このルールが施行されたのは2008年1月から。2000年前半、ミズノ〈300SⅡ〉など、反発性の高い、いわゆる高反発フェースをウリにしたクラブが登場して、爆発的なヒットを生みました。甲子園の高校球児を彷彿とさせる「カキーン」という高音がゴルフ場でも鳴り響いていましたね。そこから数年で規制が始まったのです。
そもそも高反発フェースは日本の鍛造ゴルフクラブメーカー、遠藤製作所が初めて作ったものです。ヘッドの余剰重量を多くして軽量化の開発を進めるにあたり、厚みのあるフェースを薄くして強度を保てればいいのではないか、と考えました。技術力の高い遠藤製作所ですから、それを見事に完成させると、薄いフェースは反発が高くなることが分かりました。軽量化の副産物として高反発フェースが生まれたのです。
高反発が出始めたころ、私は研修生でした。当時の私はスピン量が多く、飛ばし屋の〝飛〟の字もいえない程度の飛距離。しかし、高反発ドライバーを手にすると、15~20ヤードぐらい伸びて、飛ばし屋の域に片足突っ込む飛距離を手にしました。まあ、その期間は一瞬でしたが…(笑)。
高反発フェースがなぜ飛ぶかというと、トランポリンのように反発する力が強いのでボール初速が上がります。そしてもう一つは、フェースとボールの接触時間が短く、摩擦も少なくなるのでスピン量も減ります。この二つの作用によって高初速、低スピンを実現して飛距離が出ます。私もそうでしたが、スピン量が多いタイプのプレーヤーは特に恩恵を受けられたと思います。
そんな革新的な技術ですが、日本発というのが、世界的に認められなかったのでしょうね。昔から日本が新しいテクノロジーを搭載すると、「伝統的ではない」などと、ルールで規制される傾向にあります。技術者の想像力が無にされるわけですから、後出しじゃんけんみたいな規制は抗議したいです。東京の片隅から声を大にしていいたいですね。
SLEルールが適用されたからといって、新製品開発にメーカーも黙ってはいません。ルール内で飛距離性能を高める工夫をしたり、低深重心化でミスヒットに強い、ミスしても飛ばせるなど方向性を変えて、よりよいクラブを開発しています。さすがに高反発時代の飛距離とまではいきませんが、今の飛距離性能の素晴らしさを感じています。ただ、高反発を使っていた時代の私は、年齢的にも若く、体力も充実していました。そう考えると、今のクラブは当時の飛距離性能と遜色ないといっても過言ではありませんね。
市場では高反発ドライバーが姿を消すようになりましたが、一部メーカーでは販売し続けています。年配の方の中には、「競技も出ないし、昔のように飛ばなくなったから使いたい」という方も少なくありません。ルールで規制されてはいますが、使いたい人はどんどん使っていいと思っています。だって、ゴルフは飛んだ方が楽しいですから。飛ばなくなってゴルフが楽しくなくなっちゃうのは、もったいないですよね。
高反発ドライバーを購入する際の注意点もあります。先ほど、スピン量が減るといいましたが、打ち出しが低い方は、スピン量が少ないとドロップして、逆に飛ばなくなります。もともと打ち出しが低い人は、ロフトが通常よりも寝たものがオススメ。逆に打ち出しが高い人は、通常通りのロフトでちょうどよくなります。
飛距離はあくまでも打ち出し角とバックスピン量のほどよい関係でなりたちます。この関係を無視すると高反発でも一概に飛ぶとは言い切れません。ただ、ミート率が高くない方は、方向性も加味すると最新テクノロジーを搭載した適合クラブの方が平均飛距離は飛んでいる可能性もあるので、使い勝手とバランスが大切ですね。
関雅史(せき・まさし)/1974年生まれ、東京都出身。PGA公認A級ティーチングプロの資格を持ち、クラブフィッティングも行う。東京・駒込のゴルフスタジオ「ゴルフフィールズ」で活動。
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