ゴルフコースを“推し”という言葉でくくることへの違和感

今年の全英オープンの会場はロイヤル・リバプールGC。このコースをラウンドしたことがあるなら別だが、回ったことがないのに“推し”です、と言われたら違和感が残らないだろうか(撮影:福田文平)

「推しコースはどこですか?」と聞かれることがあります。
21世紀になってから使われるようになった“推し”は、“ひと押し”を語源とする説が有力で、他者に薦めたいほど好きな人や物、という意味です。

質問者は、皆が憧れるどのゴルフコースの名前が挙がるか、隠れた小さな宝物みたいなゴルフコースの名前が挙がるか、目を輝かせているので、本当に困ってしまいます。世の中の多くの人は、推し=好き と同義にして使っている言葉なので、まったく気にならないのだと思います。

こういうときに、アイドルを推すみたいな感覚が、個人的には苦手。
恋愛禁止で、みんなのものというアイドルを否定はしませんが、ゴルフコースをそういう感覚で見るのは違うと思うからです。(みなさんは気になりませんか?)

なぜなら、ゴルフコースはプレーするための場所であり、遠くから見つめて応援する場所ではないから、と力説しました。もう少し突っ込んで言うなら、本質を理解せず、外側だけを見て軽々しく推すべきではない。そう思うのです。

「でも、本音で言うと、プレーしたところで、違いも、善し悪しもわからないじゃないですか。だとしたら、写真集を見たり、メディアを通して読んだりすることで、プレーを夢見るコースの魅力で十分じゃないですか。それに、ほとんどの有名コースは何万円もプレー代がするのは、ちょっと高すぎて、現実的じゃないですから」と反論されました。

こういうゴルフ談義をするほどに、分野が違うのだ、とわかるのです。
アイドルのランキングは、本当はどういう人間かではなく、触れなくともわかるいくつかの項目で加点と減点をしてランキングを作れます。

欧米のコースランキングは、実際に調査員がプレーしたコースの評価を集計したもので、ミシュランガイドなどで飲食店を評価する方法と基本は同じ。食べなければ、味はわかりません。ゴルフコースもしかり。プレーしてみなきゃわからない。その上で“推し”を語るならまだ理解できます。

調査員をしたことがある人の話では、真面目に評価をしている内に、どんどん調査員としてレベルアップしていくのがわかるそうです。これは、ゴルフコースのランキング調査員も同じで、例えばベスト30を決めるとしても、エントリー数は60ぐらいはあるわけです。

60コースを評価する目でプレーすれば、どんどん上手くなっていくでしょうし、レベルアップをしないほうが不自然です。

推しコースを聞いてくるような人に、自分が心から大事に思っているコースに行って欲しくないし、気軽に評価されるのも嫌なのです。新しい言葉に馴染めない、時代遅れの昭和のオジサンの愚痴に聞こえるかもしれませんが、やはりゴルフコースの評価に“推し”はマッチしません。これは、同じようにすっかり市民権を得た、“映え”という言葉にも感じることなんですが、いずれも本質はとりあえずおいて、見た目だけを重視する世の中の風潮に違和感を通り越し、危機感さえ感じてしまうわけです。

ということで、隠せば隠すほど知りたくなるのが人情ですが、推しコースは“オシ”えない、という謎のままにしています(笑)。

隠しておきたいゴルフコースがあることは、ゴルファーとして幸せなことだと思います。

(取材/文・篠原嗣典)

関連記事