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「最初」で「最後」のマッチプレー勝者 サム・バーンズに膨らむ期待【舩越園子コラム】

最後のWGCを制したサム・バーンズ。関係者から惜しみない拍手が送られた。(撮影:GettyImages)

「WGC-デル・テクノロジーズ・マッチプレー」の最終日は、し烈な戦いが繰り広げられた熱い一日になった。

準決勝の2マッチは、どちらも18ホールでは決着がつかず、「サム・バーンズ対スコッティ・シェフラー」は21ホールに及ぶ死闘の末、バーンズが勝利。「キャメロン・ヤング対ローリー・マキロイ」は19ホール目でヤングが勝利した。

バーンズとシェフラーはともに26歳でジュニア時代からの親友どうしだが、マスターズ・チャンピオンであり、今大会ディフェンディング・チャンピオンでもあり、世界ランキング1位のシェフラーを、メジャー未勝利であり、今大会初出場で世界ランキング15位のバーンズが打ち負かしたことは、数字上は予想外の出来事だったのかもしれない。

しかし、昨季は「バルスパー選手権」連覇を含むシーズン3勝を挙げ、今季も調子を上げているバーンズが、幼少時代からのライバルに勝利したことは、起こるべくして起こったことだったと考えていいのではないだろうか。

メジャー4勝、通算23勝、世界ランキング3位のマキロイを、PGAツアー未勝利で世界ランキング17位のヤングが打ち負かしたことも、驚きの番狂わせのように見えるのかもしれない。

だが、自信を高めつつある25歳のヤングが33歳のマキロイに勝利したことは、若年化が著しい昨今のゴルフ界の象徴だったと言っても過言ではない。

そして、バーンズとヤングの決勝は、「1対1」のマッチプレーらしさを、そのまま物語る展開だった。

序盤でアップを先行したのはヤングで、バーンズは「最初はリズムがつかめなかった」。しかし、冴え渡るパターで流れを変えたバーンズは、8番でも10番でも12番でも長いパットを沈め、着々とアップを重ねていった。

終始ルーティーンを変えず、顔色も変えず、すべてをコントロール下に置いているかのように淡々とプレーしていたバーンズの姿を目の当たりにして、逆にヤングは感情もゴルフも徐々にコントロールを失っていった。

そして、ヤングが12番、13番と2ホール連続で池に落として万事休す。バーンズが6&5でヤングを抑え込み、チャンピオンに輝いた。

水曜日の第1マッチから最終日の決勝マッチを制するまで、実に119ホールを戦い抜いて勝利したバーンズは開口一番、「とても疲れた」と語ったが、その笑顔には達成感と満足感が満ちあふれていた。

表彰式ではタイトル・スポンサーのデル・テクノロジーズCEOが「この大会の最後のトロフィーをサム・バーンズに手渡すことができて、とても光栄です」と涙をこらえながら語った姿が印象的だった。

その通り。今年は「最後のデル・テクノロジーズ・マッチプレー」だった。そして、WGC大会の中で唯一生き残っていた今大会が今年で終了されることで、1999年から続いてきたWGCは、今年で消滅することになった。

バーンズにとって今大会は2021年の「WGC-フェデックス・セントジュード招待」に続くキャリア2度目のWGC参戦だったが、今大会には初出場だった。「自身最初のマッチプレー」が「最後のマッチプレー」「最後のWGC」となり、1999年のジェフ・マガート(米国)に始まり、2003年、2004年、2008年に勝利したタイガー・ウッズ(米国)などそうそうたる顔ぶれが並ぶ大会優勝者リストに、バーンズは最後の最後にその名を刻んだ。

「今日は、途中まではベストなゴルフではなかったけど、パターが冴えてくれた。世界のベストプレーヤーたちを相手に戦うこの大会を、ずっと以前から楽しみにしていて、ようやく初出場できて、そして勝つことができた。コーチやワイフのサポートに心から感謝している」

5日間、熱い戦いが繰り広げられ、素晴らしい優勝者が生まれた今大会、そしてWGC大会が、リブゴルフへの対抗策として生み出された「格上げ大会」のあおりを受けて消滅に至ったことは、なんとも残念である。だが、それがPGAツアーにとって必要な変化なのだとすれば、それはそれで「仕方がない」と割り切るしかない。

ともあれ、これまでマッチプレーで優勝後に、その年のメジャー大会でも勝利した例は過去に3例あり、最も直近の例は昨年大会を制してマスターズをも制覇したシェフラーだ。

淡々と好プレーを続け、決勝マッチを圧勝したバーンズが、親友シェフラーに続き、来たるマスターズを制することができるのか。

新たな注目株への期待が、今、大きく膨らんでいる。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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