PGAツアー唯一のチーム戦での“優勝”の意味【舩越園子コラム】

一緒に優勝カップを分かち合うライリー(左)とハーディ(撮影:GettyImages)

「チューリッヒ・クラシック・オブ・ニューオーリンズ」はPGAツアーにおける唯一のチーム戦。2人1組、全80組がフォアボール形式とフォアサム形式を交互に戦う4日間大会だ。

開幕前はディフェンディングチャンピオンのパトリック・キャントレー&ザンダー・シャウフェレ組(ともに米国)、そして前週の「RBCヘリテージ」で優勝したマシュー・フィッツパトリック&弟アレックス・フィッツパトリック組(ともにイングランド)に注目が集まった。そして開幕後は、初日から首位を走り続けたウインダム・クラーク&ボウ・ホスラー組(ともに米国)の初優勝に期待が集まっていた。

29歳のクラークと28歳のホスラーは、どちらもPGAツアー未勝利で、2人は10歳のころからジュニアゴルフ界で腕を競い合ってきた親友だ。今年2月の「ジェネシス招待」で予選2日間を同組で回った際に、「チューリッヒで一緒にやる?」という会話を交わし、初めてタッグを組んだという。

最終日を首位で迎えたのも、クラーク&ホスラーだった。しかし、フォアサム形式のサンデー・アフタヌーンは大混戦となり、一時は6チームに優勝の可能性が漂った。その中をバーディラッシュで抜け出したのは、ニック・ハーディ&デービス・ライリー(ともに米国)のチームだった。

27歳のハーディーはイリノイ大学出身。26歳のライリーはアラバマ大学出身。どちらもPGAツアーで2年目を迎えている未勝利どうし。そして、14歳からジュニア、ハイスクール、そしてカレッジ・ゴルフでしのぎを削ってきた親友で、「僕らが協力し合って戦えば、きっと勝てる」と信じていたという。

その通り、首位から3打差で最終日を迎えた2人は、7バーディ・ボギーなしの見事なゴルフで猛チャージをかけ、大会記録を更新するトータル30アンダー、単独首位で先にホールアウト。親友パワーの猛威を振るったこの2人を捉えることができたチームは1つもなく、ハーディー&ライリー組がPGAツアー初優勝を挙げた。

「初優勝の喜びを親友とシェアできるなんて、まさにドリーム・カム・トゥルーだ」とライリーが興奮気味に言えば、ハーディーは「終盤は2人とも安定したゴルフができて良かった」と落ち着いた口調で振り返った。

通常の大会は1人で戦う孤独なゴルフだが、この大会だけは2人で戦うゴルフゆえ、たとえミスをして気持ちが揺れても、パートナーから助けられ、励まされ、立ち直ることも可能になる。そんなチーム戦は、初優勝のプレッシャーを感じながらも、「気持ちの上では、むしろ楽にプレーできた」と、2人は笑顔で振り返った。

この大会がチーム戦の形式に変わったのは2017年からだ。チーム戦ゆえに、優勝しても翌年の「マスターズ」の出場資格はもらえず、世界ランキングのポイントも付与されない。だが、優勝賞金は1人124万2700ドル(約1億6600万円)ずつ授けられ、フェデックスカップ・ポイントも400ptずつ獲得できる。

しかし、2人が一番喜んでいたのは、この優勝によって2025年までのシード権が得られたことだった。昨年、手首を故障し、今年は公傷制度に助けられて出場していたハーディにとって、向こう2年間の出場が約束された意義は果てしなく大きい。まだトップ10入りが1度しかなかったライリーにとっても、シード権が確保できたことは、何より大きな収穫だった。

そして、ジュニアから高校、大学、そしてプロの世界へとゴルファーを育成し、PGAツアーを頂点とするゴルフ界のピラミッドを築いていくことは、長年、PGAツアーが目指してきた理想形だ。ハーディとライリーの優勝は、2人の努力の賜物であると同時に、PGAツアーの努力の賜物でもあり、いろんな意味で今年のチューリッヒ・クラシックは、誰もが笑顔をたたえるハッピーエンドになった。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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