「戦いの中にいた方が…」 欧州シニア賞金王・海老原清治が胃ガンを乗り越え再びフェアウェイへ

大会初日は「79」で回った(提供:日本プロゴルフ協会)

68歳以上のプロゴルファー日本一決定戦、「日本プロゴルフゴールドシニア選手権」(9月4~5日、大阪府・関空クラシックゴルフ倶楽部)に、昨年よりも痩せ細った姿でラウンドをする海老原清治の姿があった。「胃ガンやっちゃって、全摘になっちゃった」。言葉とは裏腹に声は明るい。日本ツアー1勝、日本シニアツアー2勝を挙げ、2002年には欧州シニアツアーの賞金王に輝いた76歳にとって、今大会が胃の全摘手術を受けてからの復帰戦となる。

「検査していればこんなことにならないのに、元気だからそのままいっちゃった。バカだよね」。人間ドックは「やったことがない」という。海老原のゴルフ仲間にガンの専門医がいて、「“50歳を過ぎたら、ガンは自分の責任”と言われていたのにしなかった」と悔やむ。

腹痛の自覚症状はあったが、甘く考えて1カ月くらい放っていた。我慢できなくなってから病院で検査を受けたところ、ステージIIIの胃ガンが見つかる。今年2月のことだった。もう少し発見が遅れていたら命の危険もあったという。手術は3月10日。1年前なら内視鏡手術で済むはずだったが、ガンはかなり侵攻しており胃を残すことはできなかった。

手術して2週間で退院できたものの、胃がないため「ご飯は食べられないし、吸収力はないし、どんどん体重が減っていった」。75キロあった体重は退院直後こそ71キロに落ちたくらいですんでいたが、「今が一番低い」と現在は60キロまで減ってしまった。「食べないと痩せちゃうし、食べ過ぎても苦しいし、けっこう難しい」。

前週までは点滴による抗がん剤治療を受けていた。その副作用で髪の毛は抜け、口内炎により「美味しいと思ってもすぐに美味しくなくなっちゃったり、また美味しくなったりいろいろ」と、日常生活にも影響は及ぶ。それでも「手術から半年過ぎて、だいぶ楽になった」と本人は前を向く。現在のところ転移は見られないことから、根治に向かっていると信じて疑わない。たとえガンが残っていても、「1年や2年でバタッといくわけではない」と達観している。

今週の出場はギリギリまで悩んでいたが、「人間って楽な方に流されるから、戦いの中にいた方が自分のためになるかな」と、2017年大会から3連覇している今大会を復帰戦に選んだ。

ゴルフを再開したのは6月のこと。最初は「半分回ってきたとかそんな程度」と、18ホール回りきる体力はなかった。しかも「抗がん剤をやると疲れちゃう。今日ゴルフをしたら明日、明後日は休んでから次」と、練習日、初日と2日連続で18ホール回るのは、術後では今週が初めて。そして最終日を完走すると3日連続のラウンドとなる。

その大会初日は「79」と70台で回ることができた。それなのに、「76歳だから『76』で回りたいと思っていた。だけど、後半の13番から4つ連続でボギーが来て、7オーバーになっちゃった」と悔しがる。自身の年齢以下の打数で18ホールを回る“エージシュート”を目標にプレーしていたのだ。

いま苦労しているのはアイアンショット。「ウッド系はなんとかなるんだけど、アイアンは腕力がないからボールが上がってくれない。手前からとっとっとっとって転がして乗せるしかない。アイアンがすごく難しくなっちゃった」。

アイアンでグリーンに直接落として止める球はまだ打てない。復帰初日の7オーバーは、76歳という年齢を考えても決して悪いスコアではない。実際、ゴールドの部に出場している60人中33位タイにつけている。『最終日も76が目標ですか?』と聞くと、「そう! 目指す! それだけは!」と明るく笑う。どんなスコアだったとしても、最終ホールを笑顔で上がってくるに違いない。