
今季4勝目を挙げた佐久間朱莉。その強さの背景に、シーズン中では異例の大きなクラブ変更があった。注目は夏以降に投入した『i240』の5番アイアンと、そのシャフトに採用した『N.S.PRO MODUS³ HYBRID G.O.S.T HL』(以下、G.O.S.T)の組み合わせだ。
PINGのツアー担当・塩谷竜太氏に背景を聞くと、このクラブ変更が佐久間の特にパー3の課題に好影響を与えたこと、そして、他のPING勢のアイアントレンドにも影響を与えかねないと言う。詳しく見ていこう。
 
パー3平均29位… 175ydが発端
 
初優勝から4勝を重ねて年間女王に迫る佐久間は、プロ担当の塩谷氏も驚くショットメーカーだ。現在、トップに立つ平均スコア「70.1093」も、パー5&パー4の平均スコアも1位だが、塩谷氏は「パー3の平均スコアだけ29位というスタッツを見る前から“課題”との認識がチームにあった」という。
ズバリ課題は「5Uと6番アイアンの間の距離」で、いつもパー3の設定になるのが170~175yd前後。「AIG女子オープン」の苦戦を機に課題解決に向かったチームは、まず【6Uを試作】するも「つかまり過ぎ、上がりすぎた」。6Uはスピン量7,000rpm以上で風に弱くて佐久間には合わない結果に。
 
『i240』はやさしく高弾道
 
この距離を安定して攻略するため「6Uより少し飛んで、曲がりに強い選択肢の方がいい」との議論が8月末の『ニトリ』の週から始まった。そこで当初『ブループリントS』の5番アイアンも試したが、下の番手とは違って「顔もふくめて難しい」とNGになってしまう。
そこで、軟鉄鍛造の『ブループリントS』ではなく、寛容性の高い鋳造の『i240』が選ばれた。サイズもやや大きく「かなりやさしい顔」と違いもあったが「上がるしつかまる!」と一発回答が出た。佐久間が5番アイアンを入れるのは、高校時代でも無かったことで「おそらく初めて」。
 
この変更の背景には伏線があり、佐久間は長く使ってきた『N.S.PRO 850GH S』をこの夏、自身のパワーアップから『N.S.PROプロトタイプ』(S)へ変更。そのプロトタイプの別称『STL』の重量は94gで、変更経緯を本人はこう話す。
「自分の中では右に抜ける球が減って、しなりが手元寄りな感じがあります。8月末くらい前に替えました。それまで『N.S.PRO 850GH S』を使っていましたが、振り遅れる感覚があったんです。自分が振れるようになってきたので、しなりが手元寄りのタイプに替えたことで、右へのミスが減りました」(佐久間)
 
塩谷氏は日本シャフトの常山洋佑氏らとも相談、UTにハマっていた『G.O.S.T』の流れで『i240』の5番を試すと衝撃が。「1発目からUTと同じぐらいの高さが出た」と塩谷氏。さらに「方向性というか、球筋も真っすぐ直進性があり他のクラブと整った」と即決だった。
『ブループリントS』の5番とは「ちょっとしたサイズの差(2~3mm)ですけど、全然やさしさや本人の実感は違う」と効果を語る。『i240』の5番はキャリー172~175yd、スピン量は5,000rpm強で安定。「ほぼストレートに近いフェード」と安定して止まる球を獲得した。
 
さらには、6I~PWのプロトタイプの『STL』の94gに、『G.O.S.T』は約90gと重量フローに加えて、「振り感も整っている」という。
『i240』を活かすために選ばれた、スチールの安定性とカーボンの高弾道を融合する『G.O.S.T』。塩谷氏も「手元が少ししなる『STL』と似たフィーリングになるよう日本シャフトさんと一緒に作業しました」と、背景を明かした。
 
『i240』が広がり【ブルプリS一強】に変化!?
 
佐久間だけでなく、今季アイアン全てを『i240』に替えた蟬川泰果の成功もあり、注目度は急激に高まっている。塩谷氏は、佐久間以外にも『『i240』に変更して結果が出た選手として、元々『ブルプリS』だった髙野愛姫と藤田かれんを挙げる。
高野は以前の『N.S.PRO 950GH neo S』で「上がらなかった」ため、『i240』で純正『AWT』シャフトに。藤田も『SteelFiber i80』から『i240』の『N.S.PRO 950GH neo S』に変更。シーズン中にセット全体とシャフト丸ごと替えるとは、中々に勇気のいる決断に見える。
 
この動きに塩谷氏は『i240』の優位性を強調。「選手の声を聞くと、やっぱりミスへの強さはかなり重要」と【ブルプリS一強】だった女子プロ好みの変化を示唆。「正直、私も最初は(ブルプリSを)替える人なんていないかもと思いましたが、徐々に変わってきた感じが確かにある」。
佐久間のクラブ変更は、単なる一つの選択ではなく「スコアを出すための合理性」を追求した結果で、その成功は他の選手の考えにも影響を与える可能性も高まる。もちろん、軟鉄鍛造ブームに何となく乗ってはきたが「結果が出ていない」我々にもそれは当てはまるだろう。
 
彼女は『i240』で課題解決して一気に“年間女王”まで駆け上がるのか、高野や藤田の他にも『i240』のスイッチが加速するのか。終盤戦のアツい戦いの裏側にある、女子プロたちの“新たな”アイアントレンドにも注目していきたい。
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