岩井明愛の優勝パター、「スパイダーX」の秘密

岩井明愛の優勝を支えたひと際目立つパターは、テーラーメイドの「スパイダーX カッパーホワイト」。2019年発売のこのパター、実はマレットらしからぬ点があった(写真:Getty Images)

グリーン上でひと際目立つ岩井明愛のパター。目の肥えたゴルファーならテーラーメイドのスパイダーX カッパーホワイトだとはすぐわかるだろう。では、そのネック形状までしっかりチェックしている人はどれくらいいるだろうか。2019年に発売されたこのパター、実はネック形状が「スモールスラント」と「シングルベント」の2種類あり、岩井が使っているのは「スモールスラント」のほうだ。なぜスモールスラントを使っているのか、考察してみた。

岩井明愛は優勝会見でパターについて聞かれ「(記者の)皆さんには、分からないかもしれませんが自分はテーラーメイドの形、モデルが好きで、それにローリー・マキロイさんが好きなんですけど、彼が使っているというのもあります」とコメント。この言葉からも、どこがどういいのか本人も説明が難しいようだ。そこで、テーラーメイド『スパイダーX』の特徴を改めて振りかえってみよう。
 
岩井が言う通り、同形状の色違い『スパイダーX ハイドロブラスト』は、マキロイのここ数年のエースパターで、スチールワイヤーフレーム構造+ウェイトで周辺重量配分された、見た目通り高MOIのマレットパターだ。米国テーラーメイドは、新たな『スパイダー』シリーズを発表した直近でも、『スパイダーX』について下記のように、その性能を説明する。
 
「元々はブレードパターを愛する選手をマレットパターに替えるために設計されました。コンパクトな形状とモダンな外観、スパイダーパターに備わるアライメントと寛容性を追加するとともに、よりブレードのような感触を提供します。ウェイトは前方に配置され、より多くのフェース開閉を生成し、フェースからは33ミリの重心深度となっています。このモデルはMOIが5,000で、スモールスラントネックで30度のトゥハングが付いています」(※トゥハングとは、パターのシャフトを水平な場所に置き、ヘッドだけ外に出た状態でのヘッドの傾く角度のこと)
 
2017年に登場した重心深度35ミリの『スパイダーツアー』もスモールスラントネック付きでダスティン・ジョンソンやジョン・ラームなどが勝ちまくったが、『スパイダーX』はより操作しやすい深度33ミリ。高MOIマレットでも、スモールスラントネックが付けばブレードパターと似たフェースの開閉が使えるため、見た目に反して動かすフィーリングが、今までブレードパターを愛用してきた人にも使える、というわけだ。
 
それでいて、ミスヒット時のブレは高MOIで助かるため、マレットの見た目にさえ慣れれば最高の相棒となりえる。実際マキロイもジュニア時代から「ブレード育ち」だが、試合ではオートマチックでミスに強い『スパイダーX』という合理的な選択をしており、今年のマスターズではブレードに一瞬回帰したが、再びエースの『スパイダーX』に戻った。
 
岩井の場合もマキロイと同じような変遷を辿っている。プロ入り前のジュニア時代から昨年の夏頃までオデッセイ『トゥーロン サンディエゴ』を使用するなど、「ブレード育ち」のマキロイと共通点がある。単に憧れの選手が使うパターというだけでなく、ネック形状による開閉度を含め、『スパイダーX』がブレードより入るパターになっていることは成績が証明済みだ。
 
岩井の『スパイダーX』には、マレットパターという見た目に反して「ブレード育ち」でも十分使える機能が隠されている。ただし注意したいのが、同じ『スパイダーX』のカッパーホワイトでもシングルベントのネックのほうはフェースバランスで、「ブレード育ち」が使うには別物だということ。今や中古マーケットでしか手に入れにくいパターだが、お探しの人はネックには注意してほしい。

関連記事