
長年、上田桃子のキャディやコーチを務め、今も女子プロを目指すジュニアや研修生を支える辻村明志プロは、クラブやシャフトなどのギアを自ら先に試して「選手のための目利き」を行うのが信条。特にウェッジにシビアな上田桃子と共に歩んできたため、最新モデルに鋭い目を向ける。
弟子のために“最新”を徹底検証
それはどのメーカーのどのギアも同じ。上田や六車日那乃のほか、多くの元弟子・現弟子がお世話になってきた“キャロウェイ”であってもスタンスは不変だが、PGAツアー選手15人ほどが供給されてすぐ飛びついた、新しい中空ウェッジ『OPUS SP』を弟子のためにも「徹底検証したい」と言う。
「ウェッジはこれまで軟鉄鍛造とか素材や製法・溝やミーリングなどを競うのが普通だと思ったら、キャロウェイさんがウェッジを『中空』にしたと聞いて“エッ!”と驚きました。ウッドやアイアンなら分かりますけど、ウェッジまで中空とは…。今ボク自身は『JAWS RAW』で揃えているので、現行の『OPUS』と新作の『OPUS SP』を比べておきたいなと」(辻村)
中空にした理由は、高重心化でスピン量を増やし、打ち出し角を抑えるため。同社は独自指標として「スピン量÷打出角(Spin Per Degree)」で操作性を評価し、現行『OPUS』が「117.49」(3983÷33.9)のところ、新作『OPU SP』は「123.07」(4123÷33.5)と、【中空=Spin Pocket】構造でコントロール性能を一段と引き上げることに成功。
スピンポケットで最も高重心かつ新溝も採用!
また、溝の断面の角度にも変更が加えられた。現行の『OPUS』は角が鋭く、緩い角度のモノの本数を増やしていたが、『OPUS SP』は溝の角度を17°に変更して角を丸くし、本数はそのまま多い【NEW 17V GROOVE】を採用。この変更で、厳しいライからでもよりスピン量を増やせるという。
メーカー側の言い分を伏せて試打を始めると、新旧『OPUS』を打った初球から、飛び方や打ち出し角でスピン量の違いに気づく辻村氏。速く振れずにバックスピン量がさして入らない35yd前後の乾いた花道からでも「これは誰でも分かりますよね、打ち出し角も球乗り感も全然違いますし。明らかに『OPUS SP』の方がかかります」と、ピッチショットでビタ止めを連発。
乾いた花道から安定したハイスピン
数字でどれくらい違うのか。カメラ式で精密スピン量がとれる最高機種『QUAD MAX』で測ると『OPUS』のナイスショット3球平均が【4107rpm】、『OPUS SP』は【4964rpm】。(ボールはCHROME TOUR X)上めの打点でスピンが弱く平均41.2°と高い打ち出しになった『OPUS』に比べ、『OPUS SP』は平均37.03°と常に低い打ち出しでスピン量・初速・キャリーの全てが安定した。
次に、フェースとボールと芝にじゃぶじゃぶ水をかけた同距離のラフから、同じ58°を比較。辻村氏の私物『JAWS RAW』の58°と同じソール形状【8C】という、ローバンスかつトウ・ヒールを落とした何でも出来るタイプだ。すると、『OPUS』の初球が大オーバー。13、4mほどピン奥まで飛んでしまい、スピン量を確認すると【1885rpm】と乾燥した花道より2000回転以上減っていた。
濡れた条件こそ、レベチな操作性!
もう2球追加した『OPUS』のウェット条件の平均が打ち出し20.9°で【2326rpm】と、かなり低スピン・高打ち出しに終わった。後から打つと振り幅が安定して有利とは言えるが、同じ濡れた条件で『OPUS SP』は、見事な安定感で1m以内にベタピン連発の辻村氏。データを見ると、平均の打ち出し18.05°で【3235rpm】と約1000回転も『OPUS』より濡れた条件に強い結果が出た。
「“中空”の言葉だと、ボクらの世代はウッドやアイアンの弾くとか飛ぶとかのイメージをしがちですけど、ウェッジだけは全く違って別次元の性能になると言えますね。ここまで濡れたラフの弾道操作性が上がると思いませんでしたし、スピンが入ったり入らなかったりの不安要素が無いのが何より安心できます。キャロウェイさん史上、最も高重心というだけあって、けっこう上めに当たってもOPUSより平均1000回転もかかるとは……」
残り90yd前後からの58°のフルショットも試した。すると、『OPUS』が打ち出し角35.2°で【10,450rpm】の91ydだったのに対して、『OPUS SP』は若干トウに打点を外したにもかかわらず、打ち出し33.8°で【11,011rpm】の87yd。この結果に、辻村氏も呆れて「これなら7割くらいに出力を抑えられるから、ショットも良くなる」と笑っていた。
上田桃子も「抑えた弾道が打てるか」を重視
「(上田)桃子も大事にしていたのが、抑えた弾道が打てるかどうか。上がってしまうと横風や向かい風でロスしてショートしやすくなりますが、『OPUS SP』のように低く抑えられると届かせやすい。スイングの出力も抑えられるから打点も揃うし、タテ距離が安定するいいサイクルになりますね」
良いことづくめで褒め過ぎにも聞こえるが、打感的に「若干弾きを感じた」場面も。それは5種類のソール形状を試した際の、最もワイドな【14W】で払い打った時と、コンコンとリフティングした際。それ以外のフルショット~技を使う場面になかった「若干の弾き感」をその時だけ感じたとか。ただ、それよりも性能と復活したソール形状の『12X』を試した感動の方が上回っていた。
復活した【12X】は何でも出来てミスに強い
「普段ローバンスで技を使える【8C】を使っていますが、復活したソール【12X】はコレの遥かにミスに強い版に感じますね。バンカーで爆発させやすいし、日本に多い野芝のラフでも抜け過ぎず、ショートしづらい。もちろん、PGAツアー選手のように厳しい状況でやる人は【6T】の様にさらに何でも技を使えるモノを求めるでしょうが、今回の【12X】は日本人にちょうどいい。ラクしたい上級者や、ミスを減らしつつ上達を目指す中級者が試すべきソールだと感じます」
58°では5種類のソール形状が選べる『OPUS SP』シリーズ。58°は特にショートゲームの生命線で、辻村氏は「練習量の多い女子選手」のウェッジ事情を例に「もっともっと、58°選びにこそ、こだわってほしい」と言って、ウェッジテストを締めくくった。
「52°でグリーン周りで転がす選手もいますが大半が何でも出来る58°を選びます。とはいえ、練習も試合と同じかと言えば違って、試合用の58°を長持ちさせたいので、練習では同型のスペアを使うのです。大切に練習を制限していても、試合用の58°は3~4ヶ月で1本ダメになるもの。他の番手はゆうに1年持ちますが58°だけは別で、それだけ選手は58°のスピン性能や“状態”にこだわるとも言えますね」
まずは、58度の1本を替えるだけでも、かなりスコアに有利に働きそうな、キャロウェイの新提案・中空ウェッジ『OPUS SP』。試打の際は、5種類のソールのうち、辻村コーチがイチオシする【12X】から試すと捗りそうだ。
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