4年4カ月ぶり、R・ファウラーの「復活記念日」【舩越園子コラム】

愛娘を抱き勝利の余韻に浸るリッキー・ファウラー。4年4カ月ぶりの歓喜の瞬間だった(撮影:GettyImages)

PGAツアーのロケット・モーゲージ・クラシックで、リッキー・ファウラーが、ついに勝利を挙げた。

最終日を単独首位でスタートしたものの、猛追してきたコリン・モリカワに追い抜かれ、同組だったアダム・ハドウィンにもリードを奪われたファウラーは、72ホール目のティショットを左ラフへ入れ、窮地に陥った。しかし、そこからピン1メートルにつけると、大観衆から割れるような拍手と歓声が上がった。バーディパットを沈め、モリカワ、ハドウィンとのサドンデス・プレーオフ突入を決めると、人々の興奮は最高潮へ達した。

「リッキー!リッキー!」の連呼が起こったワケは、ファウラーがこの大会のタイトル・スポンサー、ロケット・モーゲージのアンバサダーを務める大会ホストだからというだけではない。2010年のツアーデビュー以来、国民的人気を誇ってきたファウラーは、すでに通算5勝を挙げていたが、勝利の数より惜敗の数のほうが格段に多かった。

そして、2019年のウェイスト・マネージメント・フェニックス・オープン優勝以降は、勝利から遠ざかったばかりでなく、不調に陥った。長年の恋人アリソンと結婚し、長女マヤちゃんが生まれて私生活面は充実したが、その幸せと反比例するかのように、ゴルフの調子は下降し、一時は世界ランキング185位まで落ちてしまった。

しかし、どんなに成績が低迷しようとも、ファウラーがファンや周囲の人々を大切にする姿勢を変えることは決してなかった。今年6月の全米オープンでは、最終日を最終組で回ることが決まった土曜日のラウンド後も、待っていた大勢のファン全員に日暮れまでサインをしていた。またしても惜敗に終わった最終日の夕ぐれどきも、最後の最後まで子どもたちにサインをしていた。

どんなときも「誰かのために勝ちたい」と願い、「それが僕がプロゴルファーである意味だ」と言い切るファウラーは、だからこそ大勢の人々から愛され続け、復活の兆しが見え始めていた今季は、「リッキー!」の掛け声が頻繁に聞こえてきていた。今大会の最終日、ミシガン州のデトロイトCCには、ファウラーのトレードマークであるオレンジ色のウエアを身に着けたファンが大勢駆け付け、心優しいファウラーの復活優勝を切望しながら見守った。

プレーオフ1ホール目の18番。モリカワもハドウィンもフェアウェイを捉えたが、どちらもバーディを逃した。しかし、フェアウェイを捉えそこなったファウラーは、右ラフからピン3メートル半にピタリとつけて大観衆を再び狂喜させると、そのバーディパットをしっかり沈め、勝利を決めた。

プレーオフを戦った3人は、みな復活優勝に挑んでいた。モリカワは2年ぶり、ハドウィンは6年ぶりの優勝を狙っていたが、4年4カ月21日ぶりに勝利したファウラーのカムバック優勝を、モリカワもハドウィンも自分のことのように喜び、讃えていた姿は、とても潔く、心地良かった。

ファウラーは昨季のレギュラーシーズン終了後、「昔のコーチ」ブッチ・ハーモンに再び師事した。すると、ティショットもアイアンもウェッジもパターも、すべてのデータが上向いた。とりわけ、スコッティキャメロンのブレード型からオデッセイのマレット型に持ち替えたパターは、彼のスコアを向上させる何よりの武器になった。

73ホール目でウイニングパットを沈めた瞬間、ファウラーは目を閉じながら上を向き、安堵の表情で静かに頷いた。

「肩の荷が下りたと感じたナイスな瞬間だった」

相棒キャディが飛び跳ねるように駆け寄って抱きついた子どものような喜び方は、いかにファウラーが良きボスであるかを物語っていた。水をたっぷり入れた水筒は「かなりの重さになる。キャディに余計な負担をかけたくない」と言って、ラウンド中、自分で水筒を持って歩くファウラーの優しさを、相棒キャディはいつも肌で感じていたからこそ、最高のボスとともに挙げた1610日ぶりの復活優勝が、うれしくてたまらなかったのだろう。

ファウラーは、抱きついてきたキャディを笑顔で受け止めると、すぐに愛娘を抱き上げ、愛妻とキス。そして、涙と汗を頬に光らせながら、苦しかった4年超の日々を振り返った。

「なんと説明したらいいのか、言葉にするのは難しいけど、復活できる日は必ず来ると信じていた。それまでは静かに人生を歩み続けようと思ってきた。今日は長い1日だった。ミスもあったけど、チャンスを作り、勝つことができた。たくさんの人々が応援してくれたおかげです」

通算6勝目を挙げた「長い1日」は、アメリカの独立記念日の祝賀ムードと相まって、まるで「ファウラーの復活記念日」のように沸いていた。それはきっと、ファンや周囲にばかり喜びをもたらしてきたファウラーに神様が授けたとっておきのプレゼントだったのではないだろうか。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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