「安定こそが最強」 V・ホブランの勝ち方【舩越園子コラム】

最終日にコースレコードの「61」をマークしたホブラン。今季2勝目を挙げた(撮影:GettyImages)

PGAツアーのプレーオフ・シリーズ第2戦「BMW選手権」の最終日は、首位タイでスタートしたスコッティ・シェフラー(米国)とマシュー・フィッツパトリック(イングランド)を5位タイから出たローリー・マキロイ(北アイルランド)とビクトル・ホブラン(ノルウェー)が追いかける形になった。

バック9に入ったころは、シェフラーがトップを快走。だが、10番からバーディラッシュで猛チャージをかけたホブランが、上がり2ホールでシェフラーに追いつき、追い抜き、単独首位でホールアウトした。
 
そんなホブランの勢いに押されたかのように、他選手たちの決め手のパットは、徐々にカップに沈まなくなっていった。
 
その様子は、プレーオフ・シリーズの勝利の重み、360万ドルという破格の優勝賞金、そしてレギュラー大会の4倍のフェデックス・ポイント(2000ポイント)、さらには最終戦のツアー選手権をいかに有利な位置から迎えることができるか等々、さまざまなモノが大きなプレッシャーとなって彼らに襲い掛かっていたことを物語っていた。
 
だが、ホブランだけは、あたかもノープレッシャーという雰囲気で前半はスコアを2つ伸ばし、後半は7バーディ・ノーボギーで回り切り、「61」をマーク。
 
「61」は、戦いの舞台、オリンピア・フィールドの100年の歴史を塗り替えるコースレコードとなり、BMW選手権の大会記録、そしてプレーオフ・シリーズにおける最小スコア記録も更新。
 
ホブランにとっては6月の「メモリアル・トーナメント」に続く今季2勝目、PGAツアー通算5勝目となり、フェデックスカップ・ランキングを7位から2位に上昇させて最終戦のツアー選手権を迎えることになった。
 
それにしてもホブランの猛追は見事だった。後半の7つのバーディは、ピンそばを捉えたアイアンショットのキレとカップにしっかり沈めたパットの冴えという絶好のコンビネーションによって生み出されていった。
 
とりわけ、上がり2ホールは圧巻だった。アグレッシブに攻めたティショットは「何一つ恐れるものはない」と言っているかのようだった。17番ではピン3メートル、18番では2メートルにつけ、どちらも危なげなくカップに沈めたホブランは拳を握り締めながら力強いガッツポーズを取った。
 
そんなホブランのプレーぶりには勝利への強い意欲が感じられたが、彼自身は優勝の二文字やフェデックスカップ・ランキングといった諸々は「考えてはいなかった」という。「そういうことを考えながらそれらを目指したわけではない。そのときどきに自分が置かれた状況の下で『これは正しい判断なのか?コミットできるのか?』と自分に問いかけ、その場で最善の答えを見つける作業を繰り返していただけ。ラスト9ホールで7バーディはベリー・スペシャルだった」。
 
ホブランはPGAツアーで唯一のノルウェー出身選手だ。米オクラホマ州立大学時代に全米アマ覇者となり、2019年からPGAツアー参戦。ルーキーイヤーにプエルトリコで初優勝を挙げ、翌年と翌々年はマヤコバ(メキシコ)で勝利したが、「米本土では勝てない」と言われてきた。
 
その間、バンカーの砂が目に入ってメジャー大会を途中棄権したり、最終日に備えて練習中にドライバーが壊れたり、ビッグ大会の会場へ向かう飛行機に乗る際に預けたクラブが壊れていたり、さまざまな出来事に遭遇。山谷の合間で、ずいぶん右往左往してきた。
 
だが、25歳になった今季は安定したシーズンを送っており、予選落ちは1度もなく、メモリアル・トーナメントと今大会を制してシーズン2勝を挙げた。「今季はショットが安定したこと、グリーン周りとグリーン上のワザが向上したことが好成績につながっている。今後も安定したプレーを心がけるのみだ」。
 
一見、果敢に攻める強気のゴルフに見えるものの、本人が心がけているのは「あくまでも安定したプレーだ」と語るホブラン。安定こそが最強。そして、優勝という最終結果を考えず、その瞬間瞬間の自分との戦いに打ち勝つことだけを目指すべし。
 
ホブランが示してくれた教えは、私たち一般ゴルファーにとっても大事な教訓になるのではないだろうか。 

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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