
バスケットボールという競技における、世界各国のリーグの現在地を比較していくシリーズ「世界プロバスケリーグ比較」。前回は、開催国における立ち位置と、それぞれが目指している方向性について紹介した。約4.5億人という競技人口を誇るバスケットボールという競技でも「その国の中で一番人気の競技である」という国はリトアニアとフィリピンくらいなもので、非常に少ないことも判明した。
今回は、このシリーズで出している4大リーグ「NBA(アメリカ)」「NBL(オーストラリア)」「ユーロリーグ(ヨーロッパ)」「Bリーグ(日本)」の来場者とチケット戦略について触れていこう。
前回記事:
世界でバスケがより人気コンテンツになるためには?それぞれのリーグが目指す方向 -世界プロバスケリーグ比較 vol.2-
平均入場者数
早速だが、それぞれでどのくらいの集客があるのか。あくまで平均値であるが紹介したい(※1)。
| リーグ | 平均入場者数 | 備考 |
| NBA(アメリカ) | 約17,000人前後 | 各チームホームアリーナ収容率約90%前後 |
| Bリーグ(日本) | 約5,000人前後 | B1クラブ中心。アリーナ規模によって変動 |
| NBL(オーストラリア) | 約4,000人前後 | 12チーム体制で小規模アリーナ中心 |
| ユーロリーグ(欧州) | 約9,000人前後 | Aライセンスクラブ中心。バルセロナ、マドリード、イスタンブールなど大都市クラブは1万前後。 |
NBAの平均入場者数は1試合平均約1万7,000人。概ね2万人弱を収容できるアリーナがほとんどであるから、アリーナ稼働率は平均しても約90%近くあるといって過言ではない。その結果、チケット収益だけで1チーム平均約150億円を超えることもわかる。
対してBリーグは1試合平均5,000人(24-25シーズン開幕時点)と規模は小さいものの、地方都市では「年間通してアリーナ満席」のクラブも増えている。
NBLは平均約7,000人と、Bリーグよりやや上。特徴的なのは、イベント化された試合運営だ。音楽、フード、家族連れ向け体験が統合され、観戦が“エンタメ消費”として定着している。
ユーロリーグに関しては地域文化+熱狂的ファン+競技レベルの3拍子が揃っていること、またルカ・ドンチッチのようなスターも輩出しており、「戦術・テクニックの美しさ」を見たいファンを引きつけていること、さらにサッカー同様、バスケも地域の誇りやアイデンティティと結びついているため、観戦が生活の一部になっていることで9,000人前後が平均入場者数と比較的高め。主要クラブの場合は1万を超える入場者数があるとのことだから、数字だけで見るとNBAに次ぐ盛り上がりだと認識できる。
NBAは現状の取り組みを継続しつつ、より海外での認知獲得を目指している。NBA JAPAN GAMES 2022は約2万人がさいたまスーパーアリーナに訪れたわけだが、要はNBA選手が来れば簡単に箱が埋まりチケットがソールドアウトできる状態を全世界で作っていくことが目標。それ以外、NBLやBリーグなどはあくまで「チームのファン」が「応援」のために試合に来るという目的が最大の動機であるが、今後はこの来場動機を「チームの勝敗」から「体験の価値」に転換できるかが勝負とも言われている。だから日本でも各地にアリーナが建設されている。そしてそのあとは、試合がない日にアリーナを活用して何をするか、という問題に当たるが、NBAなどを参考にしつつマネタイズしていく必要がある。
The NBA and Rakuten Group, Inc. announced today that the Golden State Warriors and Washington Wizards will play two preseason games in Japan in 2022. The games will take place Friday, Sept. 30 and Sunday, Oct. 2 at Saitama Super Arena
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— NBA (@NBA) March 15, 2022
チケット戦略
バスケットボールは屋内で開催するスポーツであるため、雨天・荒天に関係なく興行を行えるスポーツである。よっぽどのことがない限り、中止や延期はあり得ない。だからこそ集客面で考えれば天候に左右されないため、屋外スポーツに比べると集客はしやすいとも言える。価格が全てではないが、それぞれのリーグがどのような戦略をもってチケットを販売しているか、それぞれにまとめている(※2)。
| NBA | Bリーグ | NBL | ユーロリーグ | |
| 一般席 | $50〜$200 → 約7,500円〜30,000円 |
2,000〜5,000円 → 平均3,500円 |
25〜50 AUD → 約2,750円〜5,500円 |
15〜50 EUR → 約2,400円〜8,000円 |
| プレミアム席 | $500〜$5,000 → 約75,000円〜750,000円 | 5,000〜8,000円 → 平均6,500円 |
50〜150 AUD → 約5,500円〜16,500円 | 50〜150 EUR → 約8,000円〜24,000円 |
| 平均価格 | $125程度 → 約18,750円 | 平均約5,000円 | 40 AUD程度 → 約4,400円 |
32 EUR程度 → 約5,120円 |
▼戦略一覧
| リーグ | 戦略の特徴 | 特徴的施策 |
| NBA(アメリカ) | 収益最大化+プレミアム体験重視 | ダイナミックプライシング、VIP体験、アプリ連動 |
| Bリーグ(日本) | 地域密着+ファン体験重視 | テーマデー、地元企業連携、家族向け演出 |
| NBL(オーストラリア) | 都市部集中+早期完売 | 学生・家族割、試合後イベント、海外スター活用 |
| ユーロリーグ(欧州) | クラブ文化+固定ファン囲い込み | 会員向け先行販売、応援ゾーン充実、クラブイベント |
ポイントとして、NBAはあくまで収益最大化にこだわって価格も高めに設定。ただ、やはりコンテンツ力が高いため、高いお金を払っても見たいというファンはいつの時代も多い。
Bリーグは新アリーナが増えていることもあり、来場体験+地域ファンの満足度(リピーター増)を狙っている。家から近い場所で、非日常を体験できるというコンセプトを持っているチームは非常に多い。サッカーのJリーグなどと同様に、まずは地元から愛されることをBリーグも全チーム足並みを揃えて行っている。
一方でNBLはあくまで「チケットを売り切る」ことを目的にすることが多い。そのためチケットの平均価格も一番安い。学生割引や家族割引など積極的に活用し、早期完売を狙っていつもチケットが買えない状態=人気コンテンツである、という見せ方を徹底している。
最後にユーロリーグはBリーグと近いチケット戦略を持っており、地元ファンの囲い込みを徹底的に行っている。ファンクラブ会員向けの先行販売、クラブイベントなどを積極的に行い、ファンとの距離が近い。また応援もチャントやコール&レスポンスなどもチームごとにしっかりと設けられているため、コアな熱量の高いファンたちがアリーナを埋め尽くしていることも特徴である。サポーター席や応援ゾーンなどが設けられていることも、ヨーロッパのバスケの特徴の1つと言えるだろう。
You can’t create this, it lives in us
𝐁𝐨𝐫𝐧 𝐍𝐨𝐭 𝐁𝐮𝐢𝐥𝐭 I #BornNotBuilt pic.twitter.com/QHgw4dJOY4
— EuroLeague (@EuroLeague) October 12, 2025
地元ファンによる熱い応援
無料招待はどこまで実施している?
「毎試合必ず」とは断言できないが、スポンサーや関係者の招待などを除いた「一般観客の無料招待」は、バスケットなどのスポーツのみならずイベント事ではよくあること。一番集客数もチケットの販売率も高いNBAでさえ、無料招待のプロモーションを行っている。百聞は一見に如かず、一度見てもらえれば魅力が伝わることが多いとバスケットはよく言われているが、そもそもその場所にどうやったら来てもらえるかが課題にもなっている。以下、各リーグでどのような無料招待企画を実施しているか、参考までに紹介したい。
アメリカ(NBA)
| NBAゲームチケットスウィープステークス | NBA公式サイトでは、定期的に抽選で試合チケットが当たるキャンペーンを実施 |
| All-Star Weekend 無料チケット | 2025年のオールスターウィークエンドでは、サンフランシスコと東ベイでのスカベンジャーハントイベントを通じて、ファンがチェックインやミニゲームをクリアすることで、NBA CrossoverやRising Starsのチケットを獲得できるチャンスを提供 |
| スポンサー連動プロモーション | チポトレ(レストラン)がNBAファイナル期間中に「Coach’s Challenge」発動時に隠しキーワードをツイートし、最初の5,000人が無料のエントリーコードを獲得できるキャンペーンを実施 |
日本(Bリーグ)
| アルバルク東京の無料招待プロジェクト | 東京都内在住の未就学児から高校生までの学生を対象に、試合を無料招待するプロジェクトを実施 |
| 団体観戦割引 | 10名以上の団体での観戦に対して、チケット価格が割引される「団体観戦チケット」を提供 |
オーストラリア(NBL)
| キッズ無料キャンペーン | 2025年10月4日の試合では、大人1枚のチケット購入につき、最大4人の子供を無料で招待する「KIDS GO FREE」キャンペーンを実施 |
| 政府発行のコンパニオンカード特典 | 障害者支援のための政府発行のコンパニオンカードを所持している場合、同伴者のチケットが無料になる特典を提供 |
ヨーロッパ(ユーロリーグ)
| EuroLeague ID | ファンが「EuroLeague ID」に登録することで、試合チケットやサイン入りユニフォーム、EuroLeague TVの年間パスなどの特典が抽選で当たるキャンペーンを実施 |
| ファイナル4チケット獲得チャンス | EuroLeagueの「Bracket Challenge」では、参加者が予想を行い、上位入賞者にファイナル4のチケットやEuroLeague TVの年間パスなどの特典が提供 |
NBAは規模・スポンサー連動で圧倒的に頻度が高く、試合数も多い。必然的に無料招待も多いが、そもそも概ね1.5〜2万人を収容できるアリーナがほとんどのため、ある程度キャンペーン集客も見越した設計がされている。Bリーグ・NBLは地域密着型で限定的に開催する傾向が強く、あくまで「地元のファンに一度見てもらいたい」という趣旨で開催することがほとんど。ユーロリーグはデジタル・抽選型中心で頻度は少なめだが、参加者の囲い込み効果が高い。ここで言う「囲い込み」はいわゆる「ID化」であり、「EuroLeague ID」に登録させることでリーグからの情報発信をしやすくすることが狙い。「このIDがあれば無料キャンペーンの案内がいくよ、もちろんチケットも販売しているよ」とファンとの接点ができるため囲い込み効果が高いと言われている。
それぞれの戦略も見えてきたところで、次回は世界のアリーナビジネスについて。
前回記事:
世界でバスケがより人気コンテンツになるためには?それぞれのリーグが目指す方向 -世界プロバスケリーグ比較 vol.2-
(※1)
https://www.nba.com/news/nba-sets-records-for-attendance-sellouts-2023-24
https://www.sydneykings.com/news/kings-help-nbl-slam-records-during-2023-24-season
https://www.euroleaguebasketball.net/euroleague/news/euroleague-regular-season-attendance-reaches-new-highs
(※2)
https://www.thestreet.com/retirement-daily/lifestyle/nba-cost
https://www.nbl.com.au/tickets
https://www.nbl.com.au/news/nbl-tickets-on-sale-now
https://www.biletwise.com/en/euroleague-tickets
https://basketnews.com/news-198345-euroleague-final-four-ticket-prices-announced.html
https://www.euroleaguebasketball.net/euroleague/news/euroleague-regular-season-attendance-reaches-new-highs/
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