
「世界最高峰のプロバスケリーグNBAに次ぐ2番目のリーグを目指す」という目標設定をしているBリーグ。2023年に沖縄アリーナで行われたW杯をキッカケに一気に日本におけるバスケットボールは人気に火がつき、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けている。現在Bリーグには、元々NBAで活躍していた錚々たる顔ぶれがロスターに名を連ね、オーストラリアのNBLからもスター選手たちが集まってきている。
「2番目を目指す」。この目標に対する距離感はどのくらいなのだろう。目の前に迫っているのか、途方もなく遠いのか。また、何を持って「2番」なのか。
今回は、NBAとNBL、ユーロリーグ、そしてBリーグの現在地をそれぞれで比較していく。なお、世界との比較をしていくため、Bリーグ軸ではなく中立的な立場で紹介していければと思う。まずは第一弾として、各リーグの基本情報を紹介していこう。
前提:4つのリーグの比較
まず、そもそもスケールが違えば各リーグにおける戦略も大きく異なっている。
以下の図は「年間収益」「平均入場者数」についてまとめたものである。
百聞は一見に如かず、圧倒的にNBAが独走状態であり、NBLやBリーグなどと比較しても圧倒的な存在感が数字上でも見て取れる。これはNBAが「世界最高のプロバスケットボールリーグ」であることの証であると同時に、NBLやBリーグとの差が大きいことも証明してしまっている。昨今話題になっているユーロリーグも同様だ。
この前提をもって、次の章からはそれぞれのリーグの事業規模について見ていこう。
NBA……世界最高と呼び声高い、北米プロバスケットボールリーグ
NBAは言わずもがな、世界最大のプロスポーツリーグであり、放映権だけで年間1兆円を超えるビッグビジネスである。スポンサーセールスやグッズなどその他の収入も合わせると、概ね2兆円規模(約130億ドル)にも到達する見込みであるとForbes(※1)が報じたこともある。
ここまでのスケールになると、アメリカ4大スポーツ(NBA、NFL、NHL、MLB)でもNFLに次ぐ存在である。ちなみに、アメリカ4大スポーツの年間収益規模ランキング(※2)は以下の通り。
順位 | リーグ名 | 年間収益規模の目安 | 備考 |
1位 | NFL(アメフト) | 約187億ドル前後(2.8兆円) | メディア/放映権収入が圧倒的 |
2位 | MLB(野球) | 約121億ドル前後(約1,8兆円) | チケット収入・ローカル放映収入が強い |
3位 | NBA(バスケ) | 約113億ドル前後(約1.7兆円) | MLB と収益規模で競合 |
4位 | NHL(アイスホッケー) | 約68億ドル前後(約1兆円) | 他3リーグと比較して最も収益規模が小さい |
実はNBAはアメリカ4大スポーツの中でも3位に位置付けられており、1位のNFLと比較すると約半分ほどの年間総売上であるとも言える。上には上がいる、ということだ。
話を戻すと、世界のバスケットボールのトップオブトップが約1.7兆円規模の事業スケールであり、さらに言うと内訳50%以上は放映権ビジネスである。世界200カ国以上でNBAは放映されているが、ここの収入が最大の収益源となっている。今回の比較対象にしているNBLやユーロ、Bリーグがそこまで多くの国で放映されていないことは、肌感覚でもわかる話だろう。
NBAは戦略的に「グローバル」「デジタル」「エンタメ」の3本軸で世界中で事業展開をしており、2030年までに海外収益比率を50%以上まで引き上げることを目標にもしているほど。これはアメリカ国内だけで売上を作るフェーズは、とっくの昔に終わっていることを意味している。また、放映権についてもベッティングの領域(いわゆるデジタル課金)への移行もしつつある。その上でZ世代やa世代に向けたショート動画戦略も講じ、常にバスケ界をリードする動きを見せている。

NBAトップの約87億円という驚愕の年俸を受け取っているステフェン・カリー 提供:AP/アフロ
NBL……NBAへのステップとして名高いオーストラリアのプロリーグ
アジアカップでも毎年のように優勝候補筆頭であり、数多くのNBA選手を排出しているNBAに次ぐ高い競技レベルを誇るプロバスケットボールリーグが、オーストラリアのNBLである。ただ、そんなNBLは実は収益規模で見るとそこまで大きな額を稼いでいるわけではない。「NBLの年間収益規模は約60億円である」とオーストラリアのビジネスシーンで人気のメディアであるオーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー(※3)で語られている。
ユニークな点として、オーストラリア国内リーグであること、また1979年に創設され歴史があること、世界的に見ても競技レベルが高いことに加え、NBLには「Next Starプログラム」というものがある。これはNBAドラフト前の若手選手をリーグに呼び込み、「NBAへのステップ」として実践を経験させるためのもの。よって、NBLを経験した後にNBA入りした選手は何人もいる。これにより、NBLにはオーストラリア国内だけではなくアメリカやヨーロッパなど「NBAに行きたい」と鼻息荒い選手たちがゴロゴロいることでも有名である。実際に、ラメロ・ボール(シャーロット・ホーネッツ)やジョシュ・ギディー(シカゴ・ブルズ)などは、このプログラムを活用してNBAに入った成功事例だ。
話を戻すと、ビジネスとしての規模はそこまで大きくなく、収入源も国内もしくは隣国のニュージーランドでのメディア放映権(ESPNやFoxtelなど)、チケット、スポンサー収入など想定できるものであるが、Next Stars プログラムなど選手育成・国際露出を通じたマーチャンダイズ・ライセンス収入があることだけ、Bリーグとは決定的に違う。これがあるからこそ、「NBAへのステップ」としての国際的な地位を確率しているとも言える。NBAに行く前に、まず経験を積むためにオーストラリアへ行く選手が増えていることも事実。
現在リーグは10チームで構成され10月から4月中旬までのシーズンで毎年開催されているが、集客に関して、シドニーやブリスベン、メルボルンなど首都圏のチームは来場者数も充実しているものの、地方クラブになると観客の入りが厳しく無料招待をし「見て楽しんでもらう」を実施しているチームも存在している。アリーナに関しても年々整ってきてはいるが、この辺りの構造はBリーグとも非常に親近感が湧く。

17歳でNBL入りをしてからNBAを目指す道を選んだラメロ・ボール。今NBAでスーパースターである 提供:AP/アフロ
Bリーグ……実は、すでにNBAに次ぐ「世界2位」のプロリーグ!?
2023-24シーズンのB1+B2全クラブ合計の営業収入が約552億円あったことを、ちょうど1年前の2024年11月にBリーグが発表(※4)している。この時点で、実は単一国のリーグとしては「世界2位クラス」になっている。これはユーロリーグのパートでも解説していくが「リーグ」で見るとユーロリーグの方が上なのだ。いずれにしても、アジアでは最大のプロバスケットボールリーグであることは間違いない。
さらに、2026-27シーズンから始まる「B.革新」によって、一定の基準が設けられたこともあり必然的に各チームは売り上げを伸ばさないといけないため、ますますNBAに近い存在になっていくことであろう。「B.革新」について知りたい方は前回記事などをぜひご覧いただきたい。
Bリーグは日本らしい「地域密着型」のビジネスであり、特に従来は国内市場を軸に地方自治体、企業スポンサー、興行収益、放映権の4つが非常に良いバランスでそれぞれ売上を作っている。より人気コンテンツとなるべく現在全国各地にアリーナを建設しており、B1の売上基準も12億円と設定されていること、また河村勇輝のようにBリーグからNBAに挑戦する人を増やしていくようなグローバル戦略もコツコツ積み重ねているため、今後よりビジネスとして大きくなっていくことが予想されている、世界から注目を集めているマーケットである。

BリーグからNBAに行った唯一の選手である河村勇輝。今年からシカゴ・ブルズへ。 提供:AP/アフロ
ユーロリーグ……原石たちが数多く眠る場所
最後にユーロリーグの事業規模について紹介して、今回は筆を置こう。
ユーロリーグはその名の通り、一つの国ではなくヨーロッパの複数の国をまたにかけて構成されているリーグである。現在10カ国(スペイン、トルコ、ギリシャ、イタリア、フランス、セルビア、ドイツ、イスラエル、リトアニア、チェコ)が加盟し、全18チームが参戦するグローバルリーグだ。本拠地はスペインのバルセロナにある。
ヨーロッパのトップクラブだけが出場できるフランチャイズ制であり、各国のリーグとは別法人が運営しているため、頻繁にメディアでは「欧州版NBA」とも称されている。それ故に競技レベルも非常に高い。実際、現在NBAでスーパースターと呼ばれているルカ・ドンチッチ(スロベニア出身)、ニコラ・ヨキッチ(セルビア出身)、ヤニス・アデトクンボ(ギリシャ出身)などは皆ヨーロッパの出身で元々ユーロリーグでもプレーしていた経験がある。
そんなユーロリーグは、年間収益の規模が「約150億円程度」とヨーロッパのバスケ事情を詳しく解説しているメディア「EURO HOOPS」は紹介(※5)している。ただ、若干認識が違うのは、あくまでユーロリーグの場合は「リーグ運営+一部共通収入(放映・スポンサー)」のみを集計してこの金額であるという話であり、各クラブの売上については各國のリーグに紐づいているため別会計である(スペインのチームならスペインACBというリーグに紐づいている)。
ちなみに「EURO HOOPS」によれば、ユーロリーグに参加できる権利である「Aライセンス」を持っているチームの平均収益は、おおよそ2,000万ユーロ(約32億円)とも報じられている。単純計算で、これが18チームあった場合は約570億円に登り、ここに先ほどのリーグ収益が乗るため、ユーロリーグ自体の年間収益は、あくまで推定値だが約700億円規模であることが予想できる。
このように見ていくと、競技レベルもビジネスとしての規模も、ユーロリーグが世界2位であると言っても過言ではないが、前途の通り「1つの国」で運営しているリーグではないため、比較することが非常に難しいことも事実である。とはいえ、昨今ヨーロッパ出身のNBA選手の活躍を見ていると、あながち間違いではないのだろう。

16歳でレアル・マドリードに入り、19歳でユーロリーグMVPを受賞。そこからNBA入りしたルカ・ドンチッチ 提供:AP/アフロ
【本文内注釈】
※1:https://www.forbes.com/search/?q=NBA+$13+billion
※2:https://www.visualcapitalist.com/u-s-sports-leagues-by-revenue/
※3:https://www.afr.com/companies/sport/billionaire-wars-larry-kestelman-knocks-back-nbl-takeover-20250321-p5lljy
※4:https://www.bleague.jp/bmagazine/detail/id%3D443143
※5:https://www.eurohoops.net/en/euroleague/1370516/euroleague-close-to-the-100-million-revenues-milestone/
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