ビジネスとして見るNBA vol.3-1 _ チームの支出とサラリーキャップ

NBAをビジネス視点で深掘りする企画「ビジネスとして見るNBA」。
第2弾では、NBAというリーグそのものが「どのようにお金を使っているか」について紹介した。推定1兆円を超える世界最高峰のプロバスケットボールリーグNBAの収入に対して、チームへの分配や賞金、また表彰時の制作物、またスタッフの人件費などにお金を使っていることがわかったところで、今回の第3弾では「チームの支出」について記事にまとめる。

チームの収入に関しては、本シリーズの第1弾で触れている通り、ローカル局への放映権やグッズ、チケットといった具合であるが、収入の額は30チームによって大きく差がある。大都市のスポーツ全般が盛んな地域のチームは熱も高いため収入も高い一方で、片田舎の過疎地で「スポーツ不毛の地」と言われるところは、なかなかマネタイズが難しい。
そのような具体例も織り交ぜながら、チームの支出について見ていこう。

前回記事:
ビジネスとして見るNBA vol.2 -リーグの支出-

チームの主な支出

あくまでチームという存在は、リーグという大きな傘の中に所属している1つの団体に過ぎない。現在は30チームが所属しているが、当然ながらチームの経営破綻によってチームを売却した事例なども存在している。リーグはそのようなチームが出ないように、売上の一部を分配金としてチームへ渡すなどさまざまな工夫を凝らしている一方で、それでも経営が厳しいところは厳しい。
また、ただ単純に「脱退」は過去事例がない。NBAとしてもチーム数が増減するとレギュレーションや試合数に大きく影響してしまうことで、なんとしてもマイナスにならないようにしている。結果「移転」や「興味のあるオーナーにチームを売却する」といった形で、そのチームは手を引く。今年優勝した「オクラホマシティ・サンダー」はまさにその事例で、2007年にシアトル・スーパーソニックスからオーナー権を獲得してサンダーを作った。

簡単に言うと「NBAチームの運営は大変」なのだ。
本シリーズ第1弾で紹介した通り、チームの収入は大まかに500億円前後であるが、その収入に対する支出を見ていけば、大変さは容易に想像できるはずだ。

収入の内訳

放映権:年間約210億円(推定最大値)
スポンサー:不明(ウォリアーズと楽天の20億円などから察するに100億円前後)
マーチャン:年間約333億円(推定平均値)
チケット:年間約82億円(推定平均値)

チームの支出の概要

1:リーグへの加盟金
2:選手の年俸(サラリーキャップ・ラグジュアリータックス)
3:選手の移動・宿泊費
4:ホームアリーナの運営費
5:コーチやスタッフ、フロントスタッフなどの人件費
6:プロモーション費用

この500億円前後の収入額を、1〜6でどのように使っているかについて、今回は1〜3を前半、4〜6を後半としてまとめていく。

【前編】チームの支出

1:リーグへの加盟金

ほぼ全てのプロスポーツでは、リーグに加盟するための加盟金を支払うことで、そのリーグに所属することができる。NBAも当然その座組を採用しているが、加盟金の支払いは加盟時の1度だけ。毎年支払うお金ではないため、さらっと触れておく。

この加盟金(エクスパンションフィー)が、NBAの場合は数十億ドル規模と言われており、2025-26シーズンは約60億ドル(約8兆7,000億円)になるのではないかと予想されている。(※1)
これは近年の放映権の高騰と、2025年3月にボストン・セルティックスが歴代北米プロスポーツで最高額の取引額である約61億ドル(約8兆9,200億円)で、実業家のウィリアム・チゾルム氏がオーナー権を取得したことが要因(※2)。
それほどまでにNBAチームの価値が上がっていること、放映権による回収が見込めることが、加盟金の高騰には影響している。2000年頃の加盟金は、たったの約3億ドル(約439億円)だったとのことだから、いかに年々NBAが人気になっているかがわかる。これからNBAに加盟することは、世界中でも本当に一握りだろう。

シアトルからオクラホマシティに移転して今年優勝したサンダーだが、未だにシアトルにチームが欲しいというメディアの声は多い

2:選手の年俸(サラリーキャップ・ラグジュアリータックス)

NBAチームの支出として最も大きいのは、選手の年俸である。当然ながら選手としては、この年俸をどれだけ上げていけるかが勝負であり、またNBA選手を夢見る次世代の選手や子どもたちからすると憧れである。
現在、NBAで一番年俸が高い選手はゴールデンステイト・ウォリアーズのステフェン・カリーであり、彼は1年間で約5,961万ドル(約86億7,200万円)を稼ぐ。さらにわかりやすい事例でいくと、現在NBAで活躍する唯一のNBA選手・八村塁は、新人の頃に約6億円の契約だったが、2025-26シーズンの年俸は約25億円まで伸びている。活躍した分、年俸が上がるのは選手として当たり前のことであり嬉しいことではあるが、一方でチームとしては「誰と」「いくらで」契約するかが非常に重要である。

あり得ない話ではあるが、NBAは最大15人まで登録が可能だが、超がつくお金持ち球団が15人全員をカリーのような選手と契約すれば、NBAで毎年優勝するようなチームを作れるであろう。このようにお金持ちの球団だけが勝てる状態にならないようにするために、「サラリーキャップ」という制度を設けている。サラリーキャップとは、選手との契約に使っていいお金の上限のことであり、このサラリーキャップは全てのNBAチームに対して一律同額である。特定のチームだけ優遇することはない。また、サラリーキャップはリーグの収入などによって毎年見直しがされるが、毎年上がっている傾向にあり、2025-26シーズンのサラリーキャップは【1億5,460万ドル(約226億円)】である。

NBAのチームはこの約226億円の中で、最低14人、最大15人と契約してチームを作らないといけない。よって、前途のカリーのいるウォリアーズで考えると、カリーに86億円も使っているため、残り140億円で13人と契約しないといけない。新人の契約でも、ドラフト1位なら約15億円ほどで、最低でも約2億円は支払わないといけない。
140億円を13人で割れば、1人約10億円レベルの選手しか獲得できないことになるが、10億円レベルの選手は「掘り出し物」的な活躍を期待するしかない、NBAでの実績が少ない選手がほとんどである。ウォリアーズの場合は、主力数名にそれなりのお金を使って、あとは若手選手を獲得した編成にしている。

「カリーは今後も最高年俸を更新し続けるだろう」とForbesも報じた

ちなみに、約226億円を超えて約273億円までは選手契約に使っても良い。
ただ、約226億円までのサラリーキャップの中であれば、選手契約はどのように結んでも良いが、超えた時は制限が入る。「去年までいた選手との再契約に使って良い」「ドラフト指名選手に使って良い」などであり、「新しい選手と大型契約を結ぶ」などはできないことになっている。

また、約273億円を超えて契約をすると、ラグジュアリータックス(贅沢税)として、リーグに税金を支払わないといけない。この税金は、概ね1ドル超過するたびに「1.5ドル〜4ドルほど」であり、超過金額に合わせて税率が変わる仕組みになっている。275億円のチームと300億円のチームでは、税率が違うということだ。余談ではあるが、昨年ラグジュアリータックスを一番多く支払ったチームはフェニックス・サンズであり、その額はなんと「約22億円」。ほぼNBAのサラリーキャップを倍支払ったことになる。去年のサンズは「それだけ選手に高額な年俸を払ってでも優勝したい」と考えて踏み切ったが、皮肉なもので、ラグジュアリータックスどころかサラリーキャップ内に15人との契約をまとめたオクラホマシティ・サンダーが優勝した。

2023-24シーズン、ウォリアーズは過去最高の約259億6,538万円をラグジュアリータックスで支払った

3:選手の移動・宿泊費

NBAのシーズンは82試合あり、41試合が自チームの拠点があるホームで試合をし、41試合が対戦相手チームの本拠地で行うアウェイで試合をする。よって、41回は自宅ではなく遠征先のホテルで寝泊まりするし、自宅から遠征先まで飛行機などを使って移動しなければならない。ましてアメリカは広い。ロサンゼルスのチームがニューヨークのチームと対戦する際は、NBAのチャーター便でも約5時間はかかる。往復で10時間以上をこなすわけだから、選手の体力はもちろんだがチームとしてもお金が非常にかかる。ホテルも安いビジネスホテルではなく4つ星〜5つ星の高級ホテルが主体で、場所にもよるが1人1泊5万円前後の部屋に泊まっているであろう。それがスタッフを含めて20〜30部屋ほどの規模だから、1回の遠征で最低でも100万円は飛んでいるはず。

遠征時、試合会場到着時の選手のファッションも、NBAでは注目されている

【簡単な推定移動・宿泊費】
・移動(飛行機:代表的なのはボーイング757):1便で約1,500万円 x 41回 = 約6億1,500万円
・宿泊(4つ星ホテル or 5つ星ホテル):3泊15万円 x 30部屋(スタッフ分)x 41回 = 約1億8,450万円
=約8億円(3泊で試算した場合。7日間など長期遠征もあるためこの限りではない)

また、NBAはチームに対して、遠征で1日1人当たり約2万円の日当を払っている。これは試合日とは関係なく遠征した分もらえるお金であり、選手だけではなくスタッフももらえる。

【仮に選手+スタッフで30人が遠征していた場合】
2万円 x 30人 x 3日間の遠征 x 41回=約7,500万円

前半のまとめ/チームの支出

・1:リーグへの加盟金加盟金(加盟時のみの1度だけ):約60億ドル(約8兆7,000億円)になると予想
・2:選手の年俸(サラリーキャップ)(毎年):約226億円
・3:選手の移動・宿泊費(毎年):約8億円
※(収入)リーグからの遠征の日当:約7,500万円

=約234億円の支出

次回は、後半の「4:ホームアリーナの運営費」「5:コーチやスタッフ、フロントスタッフなどの人件費」「6:プロモーション費用」の3つについてと、実際のチームの収支をいくつか例に上げて紹介していく。

前回記事:
ビジネスとして見るNBA vol.2 -リーグの支出-

(※1)……https://basketball.realgm.com/wiretap/280853/Record-NBA-Team-Sales-To-Push-Expansion-Fees-Toward-$6-Billion-With-Existing-Teams-Receiving-$400M-Each
(※2)……https://www.wsj.com/sports/basketball/boston-celtics-sale-nba-fa8e298f