ビジネスとして見るNBA vol.2 -リーグの支出-

NBAをビジネス視点で深掘りする企画「ビジネスとして見るNBA」。
第1弾では、NBAという世界最高峰のプロバスケットボールリーグが、どのように「お金を稼いでいるか」を紹介した。今回の第2弾では、稼いだお金をどのように使っているのか。主にリーグの支出について紹介していく。「お金の使い方で、その人がわかる」と言われているように、今回の記事で「NBAがどんな顔をしているか」がきっとあなたにもわかるはずだ

前回記事:
ビジネスとして見るNBA vol.1 - 収益構造編 -

NBAの主な支出とは

今回はリーグの話でありチームの話ではない。
マイケル・ジョーダンのお給料は所属チームのシカゴ・ブルズが払っていたためチーム側の支出であり、リーグの支出ではない。
そうなると「リーグの支出ってなんだ?」となる方もいるかもしれないが、わかりやすく解説していこうと思う。あくまで「リーグのお金の使い方」という前提で読み進めていただきたい。簡単なサマリーとして、大きな支出については以下の通り。

NBAの支出

1・各種アワード、チームへの分配金
2・NBAそのものの広告出稿、広告制作
3・NY本部含めた世界中のリーグスタッフ人件費

 

1・各種アワード、チームへの分配金

アワードの賞金、チームへの分配金がNBAの支出としては一番大きい。ただ、これも第1弾の記事で伝えているが、NBAはアワードでさえ、具体的に選手にいくら支払っているかなどは公にしていない。公にしていないだけではなく、そもそもNBAからチームや選手に対しての優勝ボーナスなどはない、ということも言われているくらいである。
もっとも、MVPや得点王などの個人タイトルに関しては、NBAから選手に支払われることはないものの、チームと選手間では「MVPを取ったらいくらボーナスを支払うよ」といった契約を結んでいることはしばしばあるそう。

一方、明らかになっている賞金もある。わかりやすいところで3つ紹介する。

▪️1、NBAチャンピオン

チケット売上の一部+シーズン順位によってボーナスを支給する形で賞金が支払われる。
以前の記事ではシーズン1位のチームがプレーオフFINALSまで進むとボーナスは10億円ほどと言われていると記載したが、今年優勝を勝ち取ったオクラホマシティ・サンダーはシーズン1位で優勝を勝ち取ったため、1,242万ドル(約18億円)がリーグから支払われたという(※1)。

▪️2、エミレーツNBAカップ(11月のシーズン中に行われるカップ戦。2023-24シーズンからスタート)

優勝:各選手に50万ドル(約7,700万円)
準優勝:各選手に20万ドル(約3,080万円)
準決勝進出:各選手に10万ドル(約1,540万円)
準々決勝進出:各選手に5万ドル(約770万円)
=総額約85万ドル(=約1.3億円) (※2)

▪️3、NBAオールスターゲーム
優勝チームに総額約180万ドル(=約2.6億円) (※3)

上記3つ以外にも、シーズンMVPや得点王、ベスト5などさまざまなアワードに対するトロフィーやチャンピオンリングなどの制作に、NBAはお金をかけている。ちなみにNBAチャンピオンになった時にもらえる「ラリー・オブライエン・トロフィー」は24金メッキで作られており、推定13,500ドル(約200万円)だそう。NBAはシーズンMVP、カンファレンスMVP、新人王、最優秀守備選手などなど、NBAカップやオールスターも含めて約20種類以上はアワード項目があり、賞ごとにトロフィーなどが制作される。全てが24金メッキではないが、200万円 x 20個と概算して、概ね4,000万円を制作費として使っていることとする。

▲右がラリー・オブライエン・トロフィー。左がファイナルMVPに贈られた「ビル・ラッセル・トロフィー」。ビル・ラッセル・トロフィーは大きさも製法もほぼラリー・オブライエン・トロフィーと同じ

またリーグの分配金に関しては、最新が2021-22シーズンのデータではあるものの、約4億400万ドル(約583億円)の分配金があったとされている。細かい話ではあるが、NBAの分配金はあくまでリーグ全体の収益を分配する形であり、後述するサラリーキャップを超過したチームから徴収される贅沢税(ラグジュアリータックス)もこの中に含まれている。

▼ここまでの支出
・583億円(分配金)
・22億円(賞金)
・4,000万円(その他、アワードの制作費)

2・NBAそのものの広告出稿

広告制作・広告配信にもNBAはお金をかけている。当然NBAも広告を使って1人でも多くの人にNBAを観てもらい、あわよくばリーグパス(月4,500円)に入って欲しいのだ。
日本のバスケットボール人口は推定230万人ほどと言われているため、あり得ないが全員がNBAを好きで、全員がリーグパスに加入したならば、4,500円 x 230万人=103億5,000万円がNBAの収入になる。半分の115万人でも50億円。その半分の57万人でも25億円。

あくまで日本を例にしたがNBAは200カ国以上で配信が行われているため、仮に57万人で計算したとして、57万人(25億円) x 200カ国 = 5,000億円となる。これがNBAのシーズン(10月から6月まで)の9ヶ月で発生するため、ミニマムが5,000億円。MAXは4兆5,000億円まで登る。こうなると、5,000億円以上を稼げるポテンシャルがあるから、広告出稿にお金を使わない手はない。

この状況を鑑みて「ライトなバスケファンがNBAを好きになるために」「ハイライトだけ見ている人がリーグパスに加入してもらうために」などなど、テーマごとにさまざまな広告映像をリーグ運営スタッフが制作し試行錯誤を繰り返している。
ただ一部報道によると、今年のNBA FINALSの広告制作は、aiを活用した結果、たったの約30万円で済んだという。これで「昨対比95%のカットに成功した」という記載もあるため、単純計算で「NBA FINALSだけの広告制作」だけで約600万円かかっていたこととなる。(※4)

▲aiが制作したNBA FINALSの告知動画

NBA FINALSの映像だけでそれだけのお金がかかっているのだから、シーズン開幕前、NBAカップ、オールスター、PLAYOFFS開幕前などなど、それぞれで間違いなくお金がかかっている。仮に全て制作費が600万円だとしたら、広告制作費だけで3,000万円はかかっていても不思議ではない。
その次に3,000万円かけて作った広告を、200カ国で1年間プロモーションしていく必要がある。

▼試算
・1カ国2億円で1年間プロモーション=400億円
・1カ国5億円で1年間プロモーション=1,000億円
・1カ国20億円で1年間プロモーション=4,000億円
・1カ国50億円で1年間プロモーション=1兆円

「兆」までいくとあり得ない話に見えるが、日本で試算した最大値が4兆まで登るのだから、あり得ない話でもないと思えてしまう。当然NBAは具体的に「広告配信でいくら使っているか」などは公にしていないが、来年以降も相当な額を使っていくであろう。


▲NBAクリスマスゲームの告知に、トップスター立ちがジングルベルの曲に合わせてシュートを決めるプロモーションビデオ

人件費

「NBA」というリーグ全体では、推定2万人の従業員がいると言われている。ニューヨークの本社オフィスだけで1,000人以上が働いているという話もあるのだから、200カ国以上に展開しているNBAだと、それくらいの人数になることも納得だ。

また、NBAの審判やテーブルオフィシャルについても「公式スタッフ」という形でNBAと雇用契約を結んでいる。審判以外には一般企業とあまり変わらないが、以下のような職種がある。

・ディレクター、マネージャー
・配信担当
・ソフトウェアエンジニア
・テクニカルプログラマー(数字分析など)
・法務担当
・他、一般スタッフ(営業、制作、広報、事務局等々)

また、これらのスタッフに対しても当然ながらお給料が支払われているが、概ね以下の通りと言われている。

・ディレクターや専門職:10万ドル〜300万ドル(約1,400万円〜4.3億円)
・マネージャーや一般専門職:7万ドル〜170万ドル(約1,000万円〜2.4億円)
・オフィシャル(審判など):25万ドル〜55万ドル(約3,500万円〜8,000万円)

ちなみに、アメリカの企業の給与データ等を可視化している公式WEBサイト「Levels.fyi」によると、NBAスタッフの平均年収は11万ドル(約1,500万円)とのこと。やはりドリームジョブだ。(※5)
リーグの支出としては、単純計算で1,500万円(平均年収) x 2万人(リーグスタッフ) = 3,000億円にもなるが、NBAという世界最高峰のリーグを運営するためには、それだけ人に投資する価値・必要があると考えているのだと思う。

▲NBA コミッショナーのアダム・シルバー

まとめ

NBAの支出は以下の形である。

・583億円(分配金)
・22億円(賞金)
・4,000万円(その他、アワードの制作費)
・3,000万円(推定広告制作費)
・不明(広告出稿費用)
・3,000億円(人件費)
=約3,606億円

NBAの売上は、放映権とスポンサーで約5,500億円、グッズやチケットなども含めると年間総売上は約1兆を超えてくることは確かである。その上、来年以降は放映権だけで約1兆円を超える契約となっているため、売上は肩が外れるほどに右肩上がりである。これだけのビッグビジネスだからこそ、人にお金も投下できるし必要なところに必要なお金をかけて、健全にリーグ運営ができている。

一方この後の話につながるが、冒頭お伝えしているようにNBAに違約金を払いながらもチーム強化をする「贅沢税」も、良いか悪いかはさておきNBAの「収入」としてカウントされている。この辺りをサラッと触れて、今回は筆を置こう。

 

サラリーキャップ

サラリーキャップに関しては、簡単にいうとNBAが定める「選手との契約に使って良いお金の上限」である。サラリーキャップの金額は毎年変動するが、2024-25シーズンは1億4058万8000ドル(約200億)だったため、1チームあたり200億円以内で、15名の選手と契約してチームを作らないといけない。

ちなみに現在のNBAの最高年俸は、ゴールデンステイト・ウォリアーズのステフェン・カリーだが、カリーは年俸83億円である。よって、カリーが2人で166億円。残り34億円で13人と契約しないといけない、といった具合だ。
このように「お金だけでスーパースターを集めないようにする」ための仕組みとしてサラリーキャップが設けられているのだが、近年はこのサラリーキャップを超えてもスーパースターを集めて、スーパーチームを作ろうとするチームもある。そのようなチームに対して、200億円を超えた場合にリーグに支払わないといけないものがラグジュアリータックス(贅沢税)である。

一方で、サラリーキャップは下限もある。2024-25シーズンは200億円のキャップだったが、この90%が最低ライン。よって、180億円以下の契約になると、これまた逆に税金を払わないといけない制度である。このようにすることで戦力均衡を図ることで、全てのNBAの試合を面白いものにしようとしている。

ただし、資金力があるチームは良いが、180億円というミニマムラインを支払うことが厳しいチームや、そもそも赤字のチームも実は少なくない。次回は、チームの支出について深掘りしていく。

<記事内脚注>
(※1)…https://www.hindustantimes.com/sports/us-sports/shai-gilgeous-alexander-adds-nba-finals-mvp-to-award-list-what-is-the-total-prize-money-for-all-his-prizes-101750649459405.html#google_vignette
(※2)…https://www.sportingnews.com/jp/nba/news/nba-cup-prize-money-finalists-winners/eff680663725a1a2ae409a70
(※3)…https://nba.rakuten.co.jp/news/12777
(※4)…https://mashable.com/article/ai-generated-video-veo3-nba-finals-kalshi
(※5)…https://www.levels.fyi/companies/nba/salaries