
写真:タイリース・ハリバートン(インディアナ・ペイサーズ)/提供:AP/アフロ
偏見かもしれないが、日本のバスケファンは「B.LEAGUE大好き!」「やっぱバスケはNBAだ!」という、B.LEAGUE or NBAの"どちらかしか見ない"という人が大多数な気がしている。決して悪いことではない。そもそも日本でバスケットボールという競技そのものの人気が出てきたのはつい最近のことで、このように「比較」できることは、むしろとても贅沢であり嬉しいことである。 だが筆者としては、どちらかしか見ない人は、ぜひもう片方も好きになって欲しいという、さらに欲張りな願いを持ってしまう(笑)。
そこで今回は、NBA初心者のあなたにNBA FINALSに進出した「オクラホマシティ・サンダー」と「インディアナ・ペイサーズ」が、それぞれどんなチームなのかを、ユニフォームや選手の特徴、また歴史などあらゆる方向から伝えていこうと思う。この記事を読み、どちらかのチームのことが「ちょっと気になるな」「好きかも」と思っていただけたのならば、これ以上幸せなことはない。 今回は、インディアナ・ペイサーズ編。
インディアナ・ペイサーズとは
ペイサーズの本拠地であるインディアナ州は、そもそもアメリカの中でも非常にバスケットボール人気の高い街である。バスケット以外にも競馬や自動車レースが非常に盛んで、日本の自動車メーカー3社(トヨタ、ホンダ、スバル)の組み立て工場がある。企業の話をすると、スポンサーに「モトローラ」という会社が入っている。この企業はアメリカ発祥の老舗携帯電話メーカーであり、日本に携帯電話を持ってきたのも「モトローラ」という一説がある。
NBAが1946年に創設される前、1930年代にはチームがあったと言われていて、1948年には「インディアナポリス・ジェッツ」としてNBAに加盟した。だが、初年度に多くの勝ち星をあげられなかったことで解散。「インディアナポリス・オリンピアンズ」として翌1949年に創設するものの、当時のエースがスキャンダルでNBAから永久追放処分を受けたことを機に、財政難に陥ったことで1953年に再び解散。 その後、1967年に、地元の資産家たち8名が「やっぱりこの街にはプロバスケチームが必要だ!」と言い、お金を出し合って「インディアナ・ペイサーズ」が創られる。その後1976年に約20年ぶりにNBA復帰を果たした。このようにして彼らの歴史は始まったのだ。
チーム名の由来と、日本との接点について
ペイサーズの「pacer」は、「測定馬」という意味がある。いわゆる「ペースメーカー」のこと。先述の通り、競馬や自動車レースが盛んなインディアナ州において「pacer」はレースを先導する存在でもあるため、「NBAを先導する」ような意味も込めて命名されたという。 ちなみに先日B.LEAGUEのレバンガ北海道入りが発表された富永啓生は、ペイサーズの下部組織である「インディアナ・マッドアンツ」で昨シーズンを過ごしていた。
ペイサーズは「ネイビー」と「イエロー」をチームカラーとしているが、これはインディアナ州の州旗から取った色である。州旗はネイビーをベースにして、19個の星が散りばめられたようなデザインであるが、これはアメリカへの敬意を評したものであり、また自由と啓発を表現しているという説がある。
余談だが日本のB.LEAGUEで優勝を勝ち取った「宇都宮ブレックス」は、ペイサーズのチームカラーを踏襲している。これはホームである栃木県とインディアナ州が姉妹提携をしていることが理由である。ブレックスのチームカラーには、ペイサーズに敬意を表しつつ、NBAのプレーやエンタメを手本にしたい、という思いが込められている。 余談に余談だが、このネイビーとイエローの組み合わせを「ミシガンカラー」と言う。これはミシガン大学バスケ部がこの色を採用しているからである。「ペイサーズカラー」や「インディアナカラー」ではなく「ミシガンカラー」と呼ばれているのは、アメリカの文化においてはプロチームよりも「大学」の方がチームの色を重要視しているからではないか、と推察している。(もちろん日本のB.LEAGUEファンは「ブレックスカラー」と呼んで良いと思う)
staying in gold 🤩
we're wearing our statement uniforms for the NBA Finals. pic.twitter.com/w6nzgliJIG — Indiana Pacers (@Pacers) June 3, 2025
暗黒時代という暗いトンネルを抜けた先に。
今のペイサーズについて語る前に、NBAの歴史で語らなければいけないことが2つある。 1つはペイサーズの永久欠番(No.31)にもなっている「レジー・ミラー」という男の存在である。 レジー・ミラーは1990年代にかけて活躍した名シューター。もちろん、この時代と言えばマイケル・ジョーダンがNBAを席巻していた時代だが、レジー・ミラーはジョーダンを最も苦しめた内の1人と言って過言ではない。
試合終了間際に何度もスリーポイントを決めたことによって「ミラー・タイム」の愛称で知られている。とにかく終了間際に強すぎることが有名であり、「9秒で8得点」という、バスケットでは有り得ない得点記録を持つのも、彼がいかに勝負強かったかを表すエピソードの1つ。そんなミラーは59歳となった現在、NBAの解説者の1人として活躍しており、近年のNBAの盛り上げに貢献している。
レジー・ミラーが引退する2005年の1年前に、ペイサーズファンはあまり思い出したくもない出来事だが、2004年の11月、デトロイト・ピストンズ戦で「パレスの騒乱」という事件が起こった。NBA史上最も歴史に残る乱闘として今も語り継がれているが、これはオンコートで起きた選手間の揉め事が発展し、観客をも巻き込んだ大乱闘のことを指す。 あまり深掘りしても良いことがないのでこの辺にしておく(※)が、これを機に多くの選手が出場停止になった時も、当時39歳のミラーは先発としてリーダーシップを発揮し活躍。39歳ながら、40点近い点数を取ったこともあった。ただ、惜しまれながらも2005年のシーズン終了と共に、NBAを引退した。
ミラーが引退したあとからは、とても長い低迷期に入る。トレードで獲得した選手は怪我でなかなか結果を出せず、期待していたドラフト選手も活躍しなかった。ようやく芽が出てきたのは2012-13シーズンのこと。ポール・ジョージ(現フィラデルフィア・76ers)が素晴らしい成長を見せ、NBAオールスターにも選出される。NBA FINALS手前で敗れてしまったが、このあとはほぼ毎年のようにプレーオフに進出する中堅のチームへとなった。
(※)……2021年にNetflixでドキュメンタリー「UNTOLD: Malice At the Palace(パレスの騒乱)」が公開されている。
▼以下はレジー・ミラーのキャリアTOP10ハイライト
ハリバートンのシンデレラストーリー
中堅からなかなか抜け出せないペイサーズは、レジー・ミラーの時代に指揮を取っていたリック・カーライルというヘッドコーチを再び招聘した。カーライルは2010-11年にダラス・マーベリックスでNBA優勝に導き、また2002年には最優秀コーチにも選ばれている。そして2022年にトレードで今シーズンFINALS進出の立役者となるタイリース・ハリバートンを獲得する。この2人が非常に上手く噛み合うこととなる。
【プロフィール】
名前:タイリース・ハリバートン
所属:インディアナ・ペイサーズ(No.0)
生年月日:2000年2月29日生まれ
出身:アメリカ・ウィスコンシン州出身/アイオワ州立大学卒
NBA入り:2020年1巡目12位でドラフト入り
年俸:4,217万ドル(日本円で約64億円)※2024-25シーズン
カーライルの指導を受けたハリバートンは、これまで無名だったのが嘘のように、翌2023-24シーズンにいきなりNBAのアシスト王に輝いた。2024年のパリオリンピックではアメリカ代表にも選ばれたほどであった。だが、周囲は彼のことを「過大評価されている」と言い、ハリバートンの活躍を認めない人が多かった。 そんな周囲の煽りにハリバートンは負けなかった。アシスト王ではあるものの「パスを優先して自分でシュートに行かない選手」という印象も強かったため、今シーズンは自らリングにアタックする積極性を磨いた。外からのシュートも得意になった。その結果、周りを見ながら自分もシュートを決められる選手に成長した。
先日のプレーオフでは、30得点10リバウンド15アシストでかつ、ボールを自分のミスで無くしてしまうターンオーバーが「0」という脅威的な数字を残した。 ハリバートンの人生は、ここ2-3年で一気に変わった。そしてこの夏にNBA FINALSまでチームを導いた。シンデレラストーリーとも言えるこの物語の最後を、優勝という形で締めくくれるか。ただ、ハリバートンはとても冷静で落ち着きのある選手である。もちろんビッグショットを決めた時は感情を爆発させるが、それ以外は感情のムラがないことでも有名だ。彼ならきっと、優勝という大きな目標ではなく、目の前の試合をどう勝つか、を、冷静に考えプランを作っているに違いない。注目の NBA FINALSは、日本時間6/6(金)9:30にティップオフ。
the @NBA Finals tip off on Thursday 🔥 pic.twitter.com/rnLSyicBfy
— Indiana Pacers (@Pacers) June 1, 2025
視聴方法について
NBAは日本では3つの方法にて見ることができる。 1・楽天NBA:月額4,500円(税込)/全試合視聴可能/デバイス2台まで同時視聴可能 2・WOWOW:月額2,530円(税込)/毎週7試合まで視聴可能/デバイス1台まで 3・ABEMA de WOWSPO:月額1,980円(税込)/毎週7試合まで視聴可能/デバイス2台まで同時視聴可能 ※なお、楽天モバイルの契約者は、楽天NBAにてNBAの試合が全試合無料で観戦可能。 ライブ配信ではなく試合後のハイライト動画なども様々なチャンネルからアップされている。 試合の全てを丸ごとみたい方は、ぜひ上記の方法にてご観戦をお楽しみください。NBA FINALSは、まもなく。
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