「少子化でもバスケを諦めない」女子バスケ日本代表選手兼経営者・髙田真希の意外な“バスケ普及の挑戦とは【第5回】

写真:東京五輪銀メダル獲得を喜び合う髙田真希(デンソーアイリス)/提供:長田洋平/アフロスポーツ

大きな大会のたびに盛り上がり、終わればまた次の大会まで忘れられる──、日本の多くのスポーツ競技はこの循環を断ち切れるか。

女子バスケットボール選手の髙田真希(36)は、現役日本代表選手でありながら、スポーツ普及を目的とした事業会社を経営する社長でもある。スポーツを通して日本を明るく元気に。女子バスケットボールが地域に根差し、人を魅了することで競技を“文化”に変えていきたい。

日本女子バスケットボールの盛衰を身を持って味わってきた髙田の「応援は当たり前じゃない」という危機意識、これからの女子バスケに必要なもの、そして少子化時代の新たなバスケ普及への挑戦を聞いた。(第5回/全5回)


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BリーグもWリーグも目指す方向性は同じ

── 男子バスケは日本選手のNBAでの活躍やBリーグの盛り上がりも話題で、女子バスケは史上初の東京五輪銀メダルと競技力が高まる現在を、髙田選手をどう考えていますか。

髙田: 男子とは市場規模は違いますが、日本バスケットボール協会も掲げているように「バスケで日本を元気に!」というテーマで目指している方向性は、男女とも変わらないと思っています。

逆に言うと、男子のBリーグ、女子のWリーグが日本のトップリーグなので、Wリーグも単にプレーするだけでは足りないと感じています。

── 何が必要なのでしょうか。

髙田: 人を魅了したり、尊敬される存在になることによって、その場所を目指す人が増えたり、それを活力として生きていく人が増えると思います。それが日本を元気にすることだと思うので、ただ単に競技をするのは当たり前のことで、当たり前のことだけしていても「応援される」ようになるのは難しいと感じています。

 

応援されることは当たり前じゃない

── 長く日の丸を背負って戦ってきた髙田選手の実感がこもってますね。

髙田: そうですね。昔を知っているからこそ“いま盛り上がっていること、応援されることは当たり前じゃないな”と感じます。

ここに至るまでには、代表として強くならなければいけなかったし、強いと言われていたけどメダルを取れない期間も長かった。東京五輪で大きな成果を手にしましたが、これがずっと続くかといえば、そうではないと思っています。

逆に今がいろんなことを仕掛けていくチャンス。まだ女子バスケは、日常的に行われてメディアで取り上げられるスポーツにはなっていないので。

── 多くのスポーツが大きな大会のときには注目されますが、それ以外の日常では忘れられるという現状に苦しんでいますよね。

髙田: オリンピックなどでしか盛り上がらないスポーツだと、やっぱり衰退していくと思います。

大きな大会で良いパフォーマンスを発揮して結果を出すことは当然なんですけど、日常的に人をしっかり惹きつける競技、文化になっていきたいですし、選手が人を魅了する存在を目指していかなければいけない。

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1on1トーナメント大会「クラッシュビート」を始めた理由

── 選手が人を魅了する存在にならなければ、というのはとても頷けますね。髙田選手がチェアマンを務める、1on1トーナメント大会「クラッシュビート」を始めたのも、そうした課題感があったのでしょうか。

髙田: そうですね。“輝ける人をもっと増やしたい”という思いから、3x3プロの齊藤洋介選手と「クラッシュビート」を始めました。

バスケには5人制と、オリンピック競技にもなった3人制がありますが、1on1もとても魅力的なコンテンツです。今のチームスポーツとしてのバスケの中にも、個人技の能力の高い子が増えてきてるんですね。

── 動画を見て自分で練習できる時代の影響もあるでしょうね。

髙田: 1対1が好きだけど、チームにうまく馴染めなかったり浮いてしまったりしてバスケから離れてしまう人も実はたくさんいます。

そういう人たちがもう1回輝ける舞台があれば、そこを目指して競技をすることで、バスケットボールを長く続ける理由にもなります。1on1は自分ひとりで切り拓いていけるので。

私はありがたいことに長く日本代表としてプレーさせてもらっていますが、競技でトップを目指す人だけではなく、誰でも参加できてかつ輝ける場所があることが、バスケットボールの普及にも繋がるなと感じています。

 

少子化時代でもバスケを諦めなくていい

── なるほど。1on1がバスケの間口を広げる効果もあるんですね。

髙田: はい。あと、自分は空手をやっていたこともあってよく格闘技を見るので、ひとりずつの入場演出で会場が盛り上がるのはとても良いなと思っていました。バスケットボールに落としこめる形がないかなと考えたときに、“1on1に特化したものを作ればできる、いろんな人が輝く大舞台になる”と閃きました。

── 空手経験も活きた事業アイデアだったんですね(笑)。

髙田: はい(笑)。

あとは、少子化が進んでいく中で、バスケは5人ですが地域によってはそれさえ難しい状況があります。もし1on1があれば一人でもできるので、バスケットボールを諦めなくていい。

クラッシュビートは3点マッチにしているので、誰にでもチャンスがありますし、短くて激しい試合なので動画コンテンツとしても未来があります。バスケットボール市場はアメリカはもちろん、アジア圏でも拡大していて、チームを作らずに参加できるので、世界市場にも入っていきやすいと思いますね。

── 経営者の視点ですね。

髙田: そうですね、どうせやるなら大きいことをやっていきたいと思っています。

── 現役日本代表でありつつ、普及にも取り組む髙田選手のお話、競技の活性化を考える上で示唆に富むものでした。お忙しいところありがとうございました。

髙田: こちらこそ、ありがとうございました。


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取材・文:槌谷昭人