
勝利か地域貢献か。農業に取り組む3x3バスケチームが問いかける「プロの存在価値」
ほぼ選手たちだけで農作物を作る


写真:大多喜町で農業を営む選手/提供:ESDGZ OTAKI.EXE
── チーム運営法人で工作する田畑の広さってどれくらいなんでしょうか。
近藤:10町歩(ちょうぶ、東京ドーム約1個分)くらいですかね。だんだん広がってきて、どうしようかというところにきてます。
── 農作物は何を作っているんですか。
近藤: 種類は数え切れないですね。野菜は地産地消で、なかなか外に販売はできていませんが。選手が作った籠米はもちろんですが、今の時期では、大多喜町特産の筍ですね。
── 選手だけで作れるものなんですか。
近藤: お米はアドバイザーがひとりいますが、ほぼ選手たちで育てています。野菜なども専従者がひとりいるだけで、他はすべて選手がやってくれていますね。

写真:選手たちが作った“籠米”/提供:ESDGZ OTAKI.EXE
── 外国人選手も農業をするんですか。
近藤: 外国人選手だけは農業をせず、スクール事業だけなんです。実は去年までは日本人にもプロ契約があって、練習と試合だけ来る選手もいました。それは、参入一年目にあまりにもボロ負けしてしまったので。
── 勝つための補強ですね。
近藤: 外国人選手は大多喜町に住んで学校訪問などに絶対来てくれるから、まだいいんです。ただ、日本人選手で練習と試合だけ来る選手は、今年すべて契約解除しました。
やっぱり住んでもらって、この町に貢献してこそ私たちの存在意義があるので。
── 思い切りましたね。立ち上げから3年、選手はどんな様子ですか。
近藤: 6人移住してくれたんですけど、やっぱり選手はバスケメインで生活したいので、なかなかマッチしなかった部分もありますね。
いま立ち上げから3年経って、最初の6人はひとりになりました。
やっぱり町の仕事にコミットしたい人しか難しいのかなと。
「デュアルキャリアってバスケとデスクワークのことかと」
── でも、募集のときに、農業とバスケの両立を謳ってるんですよね。
近藤: まだ若い子たちなので、甘いと言えばそれまでですが、ある選手が言っていたのは“デュアルキャリアっていうのは、バスケットとデスクワークのことだと思っていた”と。
バスケットのスクール事業とかは積極的にやってくれるんですけどね。


写真:スクール事業を行う選手/提供:ESDGZ OTAKI.EXE
町では谷底に下りられる選手が貴重
近藤:農業に限らず、清掃活動も当初反発がありました。
これまで大多喜町では、70-80代の人が5人くらいで道端のゴミを拾うくらいしかできなかった。我々に依頼があって、谷底を掃除してフェンスを貼って落下を防止する活動をしています。
この8,000人を切る町で、谷の下まで下りられる20代はほとんどいませんが、選手なら簡単にできる。
いてくれてよかったと言われる、それが自分たちの価値だと感じてほしいんですけどね。


写真:町の清掃を行う選手・スタッフたち/提供:ESDGZ OTAKI.EXE
── 3x3.EXEが提唱する選手のデュアルキャリアにおいて“何をもってプロと定義するか”ですよね。
近藤: うちは「大多喜町のヒーローになる」ということを掲げています。
試合を捨ててまでやれとは言いませんが、町に必要な仕事をするほうが重要だと言い続けています。


写真:町の子どもたちから歓迎を受ける選手たち/提供:ESDGZ OTAKI.EXE
ストーリーこそチームの生きる道
── 明確で、とても価値があるコンセプトだと思います。共感する選手がどれだけ出てくるかですね。
近藤: なかなか難しくて、トライアウト受験者が増えないんですよ(苦笑)。
厳しく言いすぎかなと思いますが、でも、お互い無駄な時間を過ごさないほうがいいよねと。
── なるほど。
近藤: まず、町おこしのために自分たちが存在するので、勝利至上主義じゃない。町の方に応援してもらってこそのチームなんだと。
正直に言えば、勝つことが目的だったら、資金を使ってBリーグから選手を4人呼んできたほうが勝率は上がるでしょう。
でも、町の人に応援してもらって、そこでどうにかひとつ勝つ、そして決勝に残る、そのほうがストーリーがある。
町の人たちとストーリーを作ることこそが私たちの生きる道だと思います。


写真:ESDGZ OTAKI.EXE/提供:3x3.EXE PREMIER
“そんな片手間で農業はできない”
── 大多喜町側は喜んでくれてるんじゃないですか。
近藤: 最初は叩かれたりもしました(笑)。“そんな片手間で農業はできるもんじゃない”、“バスケ選手が何かやっても結局変わらない”と。
── それも田舎の現実ですよね。
近藤: でも3年、4年こうやって活動を続けてると“あなたたち、ちゃんとやってくれるんですね”と、いろんな依頼が来るようになりました。私たちの姿勢をわかってくださってきたのかなと、それは本当に嬉しいです。
逆に今は、町のいろんな仕事が、いったん私たちに相談が来るような感じです(笑)。
そうなってくると、今度はスタッフ、選手にも“もっと町のために”と自ら立ち上がる人間が出てきたんです。
大きな問いも小さな一歩から
プロチームは、勝利以外で存在意義を見いだせるか。
人口8,000人程度の町が抱える人材不足に、小さな3x3チームは貢献できるのか。
その大きな問いも、この3年間田畑で流した汗と、谷底で拾ったごみの数だけ、答えが生まれ始めている。
その一例を。
2025年1月、25歳のチームマネージャーが町議会議員に当選したのだ。
▶︎【後編】25歳最年少でチームマネージャーが議員に? に続く
取材・文:槌谷昭人
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